黒き暴君の島 妹 1
そんな事を考えていたら、ノックがあり、リラさんたちが風呂から帰ってきた。
「おかえりなさい」
俺は、ロングソードを置いて出迎える。
一同、着替えてさっぱりした服を着ていた。リラさんは、水色のワンピース。ミルも黄緑色のワンピースだ。今度はまくって下着を見せようとするなよ。
ファーンはさすがにワンピースでは無い。いつものようにダボッとした長袖シャツに長ズボン。とは言え、やっぱりわかってしまえば女の子だな。おっと、ジロジロ見るとまた怒られてしまうな・・・・・・。
そして、3人の後ろに隠れる様にして、部屋に入って来たのがコッコだ。ミルたちのようなシンプルなワンピースでは無く、赤いドレス型のワンピースを身に着けている。リボンやフリルの付いたお出掛け用の服だ。
ボサボサだった髪も整えられて、長い髪を左右にゆるフワの三つ編みして、前に垂らしている。三つ編みにもリボンが付けられている。
野生児然としていて、汚れまくっていた少女が、すっかり見違えている。
その変貌ぶりに俺は感動した。
「か、可愛いな、コッコ!!!」
俺はコッコの前にかがみ込むと、思わずコッコの脇を持って抱き上げた。
「見違えちゃったじゃ無いか!まるでお姫様だ!!」
恥ずかしそうにしていたコッコだったが、俺が本心でそう思ったのを感じたようで、ニコニコ笑顔になる。2本の八重歯がまた可愛らしい。
「あら?私たちにはそういう事言ってくれないのね、カシム君は」
リラさんがその横で言う。俺は一瞬固まる。それから、我ながらぎこちない口調でフォローを入れる。
「い、いやあ。リラさんも良くお似合いで・・・・・・」
「ったくカシムはダメダメなんだから、そんな言葉期待するなよな、リラ」
ファーンが言って笑う。
「もう。冗談ですよ~」
リラさんも一緒になって笑うが、俺はちょっと笑えない。
「意地悪言っちゃダメだよ、リラ。お兄ちゃんはね、口説き文句は今コッコに言ったみたいに、天然で言っちゃうんだよ~。あたしの時もそうだったし」
何ですと?!ミルがちょっとわからない事を言ってきた。俺がいつお前を口説いたっけ?
「ああ。オレの時もそうだったな」
ファーンまで乗っかって変な事を言い出した。そもそも俺を口説いて、無理矢理仲間になったのはお前の方だったろうが。
「そうですよね。私の時もそうでしたし・・・・・・」
リラさんまで?!えっと・・・・・・。俺何かしたっけ?昨日の事がまだ尾を引いているのか?そりゃあ、まあ、俺も引きずってるけど。
「よっ!天然たらし!!」
ファーンがそう言って俺をからかう。この所、俺ってこんなんばっかりだな・・・・・・。
ガックリとうな垂れて落ち込む俺の頭を、「たかいたかい」されたままのコッコがペタペタ叩く。一応慰めてくれているのかな・・・・・・。
しばらくすると、部屋に料理が運ばれてくる。
肉料理もあるが、島だけに海鮮料理が多い。彩りも鮮やかで、盛り付けも凝っている。根菜類の煮付けも美味そうだ。
俺たちは、みんな酒が飲めないので、ジュースで乾杯してから料理を食べ始めた。
生の魚には抵抗があったが、一口食べてみると実に美味い。南の地域ではこうして生で食べる事が多いそうだ。新鮮でなければ味わえないものだ。
グラーダも王都メルスィンやアメルは港があるので、生の魚を提供する店はあるが、一般家庭の料理としては火を通して食べる習慣だ。そもそもグラーダは熱帯地帯なので、相当に新鮮でなければ生では食べない。しかしこの味はくせになりそうだ。
他にも、貝を炭火であぶって、バターと醤油で食べる料理がある。これもグラーダではなじみのない料理だ。期待を持って口に入れる。うん。弾力があって、噛めば噛むほどうまみが口の中に広がってくる。うまい。甘い。バターと醤油が実に合う。貝殻に溢れた、貝の汁も残さず飲む。
あまり目にした事が無い様な物ばかりで、食べていて楽しい。
ミルはバクバク食べている。ハイエルフは食事をとらなくても生きていけるのに、本当によく食べる。どこかで止めないと、無限に食ってしまいそうだ。しかも生理的には排泄の必要も無いという。体の中でどうなってるのか知りたいものだ。
ただ、ミルはリラさんと時々トイレに行ってるので、あれはどういうことなのだろうか?謎すぎるが、とてもじゃないが聞けない。まあ、今は食事中だったな。いかんいかん。
ファーンは、意外と几帳面で、丁寧に箸で魚の骨とか取って、きれいに食べている。結構器用なんだよな~。
ついでに、がさつなくせに、テーブルマナーはしっかり身についている。それなりのところでは、ちゃんとマナーを守って綺麗に食べられる。今も、高級旅館に合わせて、実に行儀良く食事をしている。
好き嫌いもあるだろうが、絶対に出された物は食べる。俺が、最初に野外で作った失敗料理も、「うまいうまい」と言って食べてくれた。ほんと、意外だよな。
リラさんは、慣れない生魚に抵抗があるようで、焼き魚や煮付けなどから手を付けていってる。
コッコには、フォークやスプーンを用意してもらっている。食事内容も、1人だけお子様メニューで、ハンバーグや卵焼き、チャーハンなどで、チャーハンに刺さっていた旗を手にして喜んでいる。ただ、食は進んでいないようだ。
「コッコ。食べないのかい?美味いぞ」
俺が言うと、コッコが俺の顔をジッと見る。
「嫌いなのか?俺ので食べたいものがあるかい?」
俺が尋ねると、コッコは俺の前に並んだ料理を見て首を振る。それから、たどたどしい手つきで、チャーハンをスプーンでよそうと口に入れる。半分テーブルにこぼして、口の周りにもご飯粒が付く。
ああ。やっぱり食具に慣れてないんだ。コッコが困った顔をしている。
「ほら。貸してごらん」
俺はコッコからスプーンを受け取ると、よそってからコッコの口の前に持っていく。
「コッコ。あ~~~ん」
俺が言うと、コッコは真っ赤になって顔を背けた。
あらら。ちょっと赤ちゃん扱いだったかな?
「あ!いいな~~~、コッコちゃん!お兄ちゃん、あたしにも『あ~~~ん』して!!!」
ミルがすかさず席を離れて、俺の隣に来て口を開ける。コイツは恥じらいが無いな。が、まあ、いい見本になるだろう。
俺は俺の料理を箸で取って、ミルの口に「あ~~~ん」と言って入れてやる。
「うふふふふ」
料理を頬張りながら、ミルはとても嬉しそうに笑う。それを見たコッコが、俺の方を見て、怖ず怖ずと口を開けた。
「偉いぞ、コッコ。ほら、あ~~~ん」
俺がチャーハンをコッコの口に入れてやると、コッコもはにかむ。そして、ミルと2人で顔を見合わせて笑った。
リラさんもファーンも、その様子を微笑ましく見ていた。
「コッコはカシムの事、好きな。もうすっかりなついちゃってさぁ」
ファーンが笑いながら言う。するとコッコが俺の顔をジッと見つめてから顔をしかめる。だが、やがてコクリと頷いた。
何だろう。コッコにジッと見られると、何だか不思議な気持ちになる。何というか、見透かされているようで、正直に、素直に対応しなければいけない気持ちになる。子どもだから、ウソに敏感なのかも知れない。不誠実ではいけない気がする。
俺は今、コッコが頷いてくれてホッとした。これでこれからの話しが進めやすくなる。
ミルとコッコで、順番に食べさせて、食事が終わった。
係の人が、ちょうど良いタイミングで食事を片付けに来て、替わりにデザートも運んできてくれた。チョコレートケーキだ。ファーンはコーヒー。俺とリラさんは紅茶。ミルとコッコはオレンジジュースだ。
ファーンは「にが・・・・・・」とか小さく呟きながらもコーヒーをちびちび飲む。時々ファーンはコーヒーを飲むが、決まってブラックで飲むくせに、いつも「にが・・・・・・」と嫌そうな表情をして飲んでいる。イヤなら飲まなきゃ良いのに、変な奴だ。
ミルとコッコには、再び俺が順番でケーキを食べさせる。コッコはともかく、ミルまですっかり俺に甘えている。まあ、今日ぐらいはいいか・・・・・・。
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