黒き暴君の島 黒竜島での戦い 3
「よし来た!!」
俺はファーンに応じると、再びブルボックに向かって剣を振る。今度は実際に当てるつもりは無い。距離だって離れたままだ。つまり、挑発だ。
剣を振ってみせると、俺は反転して一目散に逃げる。すると、ブルボックは怒って突進してくる。
速い!!!
20メートルは離れていたのに、あっという間に俺に追いすがってきた。
バグゥルバチの巣まであと30メートル。俺は懸命に走りながら、最適の足場を探す。
バグゥルバチの巣の手前10メートルに、ちょうど良い足場を発見する。
間に合うか?!もう、すぐ後ろにまでブルボックの牙が迫っている。
「うおおおおおおおお!!!!」
俺は更に加速する。足場にたどり着いた。
そこですかさず「圧蹴」。
俺は横っ飛びの状態で圧蹴の技を使う。実際には踏み込みが足りていないので、中途半端な発動だったが、ブルボックからすれば、俺が目の前から消えたように見えただろう。
俺は体勢を崩して、バグゥルバチの巣から遠ざかるように10メートルほど横に跳んで地面を転がる。
だが、ブルボックはバグゥルバチの巣の上を通過してしまう。
俺を見失ったブルボックが立ち止まり、キョロキョロするが、そこは危険地帯だ。俺を見つけるよりも、ブルボックが大量のバグゥルバチに包囲される方が早かった。
俺は、地面を転がったダメージも気にする余裕が無く、急いで立ち上がると、全力で走ってバグゥルバチの巣から懸命に遠ざかる。仲間たちも俺の前を走って逃げている。さすがにみんな、逃げるのに慣れている。見事な逃げっぷりだ。
俺たちの後方で「ブオォォォォォォォォ!!」と、ブルボックの叫ぶ声が轟いた。チラリと背後を見ると、黄色い雲に包まれたブルボックが、走って遠ざかっていくのが見えた。
それからしばらく走って、ようやく俺たちは立ち止まって呼吸を整える。
「・・・・・・いやぁ。蜂はやべぇよ・・・・・・」
ファーンが肩で息をしながら言う。ゼエゼエ言いながらも、俺を横目で睨む。
「ああ。そうだな。スマン」
さすがに俺も息を整える必要がある。だが、ファーンは巣からかなり距離があったよな・・・・・・。
「ミル。大丈夫か?」
俺がミルに目をやると、ミルが頷く。
「精装衣(シユー・クミーズ)のおかげで無事だよぉ~」
精装衣とやらは、上下一体の下着だろう・・・・・・。腕とか擦り剥いてるじゃないか。だが、まあ、ハイエルフの誇りみたいなものらしいから黙っていよう。
俺たちは地面に座り込んでしまう。
ところが、突然地面が揺れたかと思うと、目の前に大きな壁のような物が出現する。
岩かと思っていた物が、地面からせり上がって来たのだ。
地面に転がる無数の岩と同じ、黒っぽくゴツゴツした背中を持ち、6本の太く短い足で立つ巨大な生き物。
首は短く、体に比しても大きな頭で鎧のように硬そうなエラが左右に張り出している。頭の真ん中に太く短い、それでいて鋭い角が生えている。
全長8メートル、全高3メートルといったところだろうか。そんな巨体が目の前に立ち上がったのだ。
俺たちは急いで立ち上がり、全員で勢いよく後退すると身構える。
「やばいぞ!竜種だ!!」
これが草食の竜種「リプリクス」か?!聞いていたサイズよりは一回り小さい。
「草食の竜種だとすれば、刺激しなければ大丈夫なはずだ。ゆっくり下がろう」
俺がそう言うと、全員がゆっくり下がろうとした。
しかし、後ろに気配が・・・・・・。振り返るとさっきのブルボックが俺たちを追って、また懲りずに戻ってきていた。
そして、地面の岩を、前足でガツガツ蹴って今にも突っ込んでくる構えだ。
「うそだろ・・・・・・」
ファーンが呟いた時、ブルボックが俺たちに向かって、勢いよく走り出していた。
「コイツバカかよ!!!全く懲りてねぇ~!!!」
ファーンが悪態をつきながら、大きく横に飛び退く。俺も、リラさんも、ミルも飛び退く。
すると、勢い余ったブルボックは、当然の様に巨大な竜種リプリクスに体当たりをぶちかました。
ドッゴーーーン!!!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッッ!!!」 猛々しい吠え声を上げて、6本足の岩の如き巨大な生き物が立ち上がる。
無謀なブルボックは、リプリクスが振り降ろした巨大な2本の前足で踏みつけられて、一撃で絶命する。
そして、ブルボックを踏みつぶしたリプリクスは、怒りが納まらない様子で、俺たちの方をジロリと睨む。
「い、いや。今のはオレたちじゃ無いぜ・・・・・・」
ファーンがヒクついた笑みを浮かべてリプリクスに言うが、そんな言葉が通じる雰囲気では無い。
「全員、逃げろぉぉぉぉぉ~~~~!!!」
俺が叫ぶと、リラさんを先頭に、脱兎のごとくリプリクスに背を向けて走り出す。リラさんをカバーするようにミルがその後ろ、続いてファーン。
俺は1人、リプリクスに向かって走り、飛び上がり様、剣を思いっきりリプリクスの頭に叩きつける。
だが、さすが竜種だ。顔の横から頭の方にまで張り出した大きなエラがとにかく硬い。
それでも、俺は片手でエラを掴むと、リプリクスの頭に飛び乗り、首筋を探すと白い逆鱗があった。竜種の弱点だ。
だが、硬いエラがそれを覆うように生えていて、剣は届きそうも無い。逆鱗を攻撃するにはまずエラを破壊する必要があるが、この適当なロングソードでは歯が立たないのは目に見えている。
仕方が無いので、俺はリプリクスの頭を剣で殴り付けると、背中を走ってリプリクスの尾の方から地面に飛び降りた。
リプリクスが怒って後ろを振り返る隙に、俺は一気に横を走り抜けて味方の逃げた方に全力疾走する。
リプリクスが一回転する間に出来るだけ距離を稼ぐ。一番足の遅いリラさんも、それなりに距離が稼げたはずだ。
そう思ったのだが、俺の背後から、凄まじい地響きがする。
走りながら振り返るとリプリクスが猛然と走って追いかけて来る。鈍そうな見た目に反して速い。足が6本あるので見た目以上のスピードが出るようだ。少なくとも走って逃げ切れる相手ではなさそうだ。
「リ、リラさん!精霊魔法は?!」
俺が必死に前方に声を掛ける。
「使えませ~~~~ん!!」
悲鳴のような返事が返ってくる。
「ミルは精霊魔法使えないのか?」
ハイエルフなんだから使えるはずだろう?!
「ミルは忍者なんだから、使えないよ~~~!」
いや、お前「盗賊職」じゃんか!!まあ、それは置いておくとして、ミルの両親は「忍術」と称して明らかに精霊魔法を使っていたよな。
「じゃあ、忍術で良いから使えないのか?!」
「・・・・・・え~~~~。それならぁ・・・・・・」
使えるのかよ!!!
ミルは、渋々と言った表情で、俺のすぐ横まで来て並走すると、右手を筒状にして口に持っていき、跳躍しながらクルリと一回転すると「火遁の術!!」と言いながら、息を手の筒状にしたところに吹きかける。すると手元から炎が吹き上がった。
「すげぇ!!」
思わず叫んだが、火の勢いはそれほど強くなく、広範囲に広がっただけだ。つくづく思うが、あれは精霊魔法なんじゃないか?
「え~~~ん!やっぱり無理だよう!!」
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