黒き暴君の島 黒竜島での戦い 2
それから俺たちは戦いの連続だった。
大型のトカゲやイノシシ。再びのガルガンヤギ。全てを撃退させる事は出来ず、トカゲとイノシシは倒すしか無かった。トカゲの牙や爪には毒があったし、イノシシは危険に過ぎた。 幸いにも俺は足場に慣れて、ミル同様、自在に走ったり、踏ん張ったりも出来るようになったので、格段に戦いやすくなっていた。
とはいえ、武器の消耗が激しい。
町で適当に買ったロングソードだ。刃こぼれが目立つようになってきた。
俺は歩きながら砥石を使って手入れをする。かなり適当な手入れだが、先を急ぐ必要があった。
他にも野獣との遭遇や、蜂の巣を避けての迂回を余儀なくされて、デナトリア山までまだ半分ほどの行程を残しているのに、もう陽が傾いてきている。
曇天だけに、陽が沈み始めると、あっという間に真っ暗になるだろう。そうなるまで、あと3時間ちょっとぐらいか?
この辺りはゴロゴロとした岩が転がるだけで、身を隠すような場所は無い。先に進むと大小の岩が乱立していて、身を隠してキャンプを出来る場所が見つかりそうだ。だが、そこまでが遠い。
しかも、デナトリア山に近付いてきた事で、噂の黒竜の巨大な館が見えてきた。遥か遠くにあるのに、そこに人口の四角い建物らしき物があるのが見える。
詳細は見えないが、黒い背後のデナトリア山に溶け込みそうな黒い建物だ。
建物の規模がわからないので、普通の建物の大きさだとすれば、デナトリア山が近くに感じるが、何せ建物が見え始めて、かれこれ2時間以上歩いているが、いっこうに大きさが変わらないところをみると、相当に距離があると思われ、建物の巨大さも如何ばかりかと言った感じだ。そんな訳で、館を見ていると、かえって距離感がわからなくなってしまう。
「距離を稼げていないな」
焦りが言葉になって口をつく。
「思った以上に野獣が多いですしね」
リラさんが俺の隣に立ってため息をつく。大分魔法を使っていて、消耗が激しい。かといって、今ポーションを使ったら、デナトリア山でマナ不足になってしまいかねない。
疲労軽減の魔法は掛けてもらっているが、それでも疲れは出て来ている。俺でも疲れているのだから、リラさんやファーンはかなり疲れているだろう。あ、いや、ファーンは戦闘していないから、リラさんだけかな?ミルはハイエルフでスタミナ無尽蔵だしな。
「少し休憩するか・・・・・・」
俺が手を上げかけた時、ファーンが叫ぶ。
「また来やがったぞ!!イノシシだ!!」
ファーンの指し示す方を見ると、かなり大型のイノシシが、こっちを向いて蹄を蹴立てて、今にも突っ込んできそうな勢いで石を跳ね飛ばしていた。
左右に2本ずつの鋭い牙を持つ大イノシシ「ブルボック」だ。今までのイノシシより遥かにでかい。
「アイツに突っ込まれたら厄介だ!ミル、牽制して引き付けろ!リラさんは魔法は控えて回避に専念して下さい!ファーンは周囲を警戒!」
「了解!!」
「は~い」
「わかりました」
仲間3人が応える。
ミルが素早くイノシシに向かって突進して、投げナイフ(クナイと言うそうだ)を投げつける。クナイはイノシシに突き刺さるが、分厚い毛皮を突き通すことは出来ず、ダメージを与えた様子は無い。しかし、向きをミルに変えて、ミル目がけて突っ走る。
「はやっ!!」
俺は思わず叫ぶ。想定していたよりも突進の速度が速い。
しかし、ミルは余裕をもって躱す。と見えたが、どうもそれほど余裕があった訳では無い様だ。表情に焦りの色が見える。
こうしてはいられない。俺も急いでイノシシの背後に回り込まなければ。
俺は足場にも慣れたので、地面を確認せずにイノシシの姿を追いながら走る。
「ダメだ、カシム!」
ファーンが後方で叫ぶので、俺はハッとして進行方向に目を転じると、少し先に黄色いこぶし大の虫が飛んでいるのが見えた。慌てて俺は足を止めて引き返す。
「危なかった・・・・・・」
あの辺りに巨大スズメバチ「バグゥルバチ」の巣があるらしい。かなり好戦的な蜂で、巣に近付いたら、集団で襲われるという。
これまでも何度もバグゥルバチの巣を迂回せざるを得なかった。
「早くぅ~~!」
ミルが叫んでいる。割と必死にブルボックの突進を躱している。4本の牙を振り回しながら突っ込んでくるので、意外と攻撃範囲が広いようだ。
「今行く!!」
背後に回り込むのを断念して、俺は一直線にブルボックに向かう。
ミルがブルボックの突進を、大きく横っ飛びに躱した時、ブルボックが俺の間合いに入る。俺はロングソードでブルボックの脇腹辺りに切りつけた。
「!!??」
硬い。脇腹なのに、皮も、肉も硬い。この適当なロングソードでは、下手に切りつけると折れてしまいそうだ。
ガトーの剣なら充分深手を負わせることが出来たはずなのに・・・・・・。
いや、祖父は小枝でも俺を吹き飛ばしたし、「武器の性能では無く技術で切れ」といつも言っていた。つまり、俺の技術が足りない証拠だ。
刹那の思考に捕らわれた隙に、ブルボックの牙が俺を襲う。
とっさに身をひねったが、牙の先が胸当てをかすめる。掠っただけなのに、かなりの衝撃にたたらを踏む。
「お兄ちゃん!!」
ミルが心配して叫ぶ。叫びながら、再びブルボックにクナイを投げつける。
「大丈夫だ!!」
ミルの投げたクナイは、ブルボックの牙に当たり、岩だらけの地面に落ちる。
「ああ!もうあと5本しかクナイが無いよぉ~」
ミルが嘆く。
投げナイフは消耗品だが、出来れば回収したい。
しかし、岩だらけのこの地面に落ちると、岩と岩の間を転がり、深くまで落ちれば見つけるのは困難だ。さっきからの戦闘で、クナイが大分無くなっているようだ。
ミルが怒った表情で、望月丸を抜く。
ブルボックの背後に飛び上がり、大きく両手を広げて構える。これが白竜山でエッダ・サラマンダーとかいう竜種を倒した技だという事は聞いていた。
これならブルボックでも両断出来るのだろうが、多分ブルボックはエッダ・サラマンダーより動きが速い。今のミルは隙だらけだ。
「ミル!!」
俺が叫んだが、ブルボックの方が早かった。
後ろ足を高々と上げて、宙に飛び上がったミルを蹴り飛ばす。
「キャアアアアアッ!!!」
辛うじて2本の刀を交差して直撃は避けたものの、ミルは数メートル吹き飛ばされて地面に落ちる。
「リラさん!!頼みます!!」
俺はそれだけ叫ぶと、ブルボックに肉薄し、剣を縦に一閃する。ブルボックの骨を避けて、胸を切り裂く。
今度は筋肉を切り裂くことに成功する。剣にダメージも無い。
体勢を崩したブルボックに、再び切り上げる攻撃を加える。踏み込みが甘く、切っ先が浅く脇腹を切っただけだが、ブルボックが俺に敵意を向けてくるのが伝わった。
俺は視界の端で、リラさんがミルを助け起こすのを確認すると、ブルボックと少し距離を取る。
倒しきることも出来そうだが、こっちも被害を被ってしまう。なら、退散してもらうのが一番だ。
「ファーン!バグゥルバチの巣は何処だ?!」
俺がそう言うと、ファーンは心得たように後方から全体を見る。そして、俺の後方を指さす。
「お前の後ろ70メートルだ!!」
さすがに目が良いな。アイツからだとバグゥルバチの巣は150メートルは距離があるのに、すぐにその上を飛ぶ蜂を見つけられるんだからな。ただ目が良いだけじゃない。周辺視野も広く、動体視力も優れている。
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