黒き暴君の島 超大失態 4
風呂から上がって、部屋に戻ると、リラさんとミルが部屋の中にいた。俺もリラさんたちの部屋の鍵をもらっているので、リラさんたちも鍵をもらっていて俺の部屋のドアを開けたのだろう。
「おかえりなさい」
リラさんが微笑んで、俺にお茶を出してくれる。
「お風呂は気持ちよかったですか?」
俺は「ありがとう」と言ってお茶を受け取ると、一口すすってからイスに座って答える。
「気持ちよかったです。やっぱり温泉は良いですね」
そう言うとリラさんが微笑む。
「私も気持ちよかったです。ちょっと高かったけど、ファーンの言うとおり温泉にして良かったわ」
そうだ。報奨金がたんまり出たんだ。値段の事を気にしないでリラさんにも宿泊を楽しんでもらった方がいいな。ファーンはすでに知っているし、あいつは長風呂だから、今2人に報告しても良いよな。
「リラさん、ミル。報告があるんだよ」
俺がそう言うとリラさんが首を傾げる。
「ファーンは待たなくて良いの?」
パーティー内の報告と言えば、メンバーが揃っていた方が良い。それをわかっていてリラさんが気を遣って言ってくれた。だが、今回はファーンを待つ必要が無い。
「いや。俺とファーンはすでに知っている事だし、あいつとは風呂で会ったけど、長風呂だからまだ出てこないと思うので・・・・・・」
俺がそう言いかけると、リラさんと、ベッドに寝そべっていたミルが飛び起きて、恐ろしい形相をして、2人そろって叫ぶ。
「何ですって!!!???」
「お兄ちゃん!まさか!!!!」
え?え?俺また何かやった?何で2人ともそんな剣幕なの?
「カシム君、あなた、まさかファーンと一緒にお風呂に入っていたの?」
リラさんが、俺の両肩を掴んで、前後に激しく揺すりながら詰問する。
イヤ、確かに露天風呂には行ったけど、他の女性客はいなかったし、期待していた気持ちはあったけど、実際は何もありませんでした。結局ファーンと2人だけで風呂に入っていただけだし、混浴なのはこの宿のシステムなんだから、責められるのもおかしな話しだよな・・・・・・。
俺の落ち度は何だったのか?そう必死に考えるが、やましい気持ちがあったので、考えがまとまらない。ようやく絞り出したのは短い肯定の言葉だけだった。
「は、はい。一緒に風呂に入ってました・・・・・・」
「何て事なの!?ひどい!!」
リラさんが叫ぶ。
「ずるいずるいずるい!!!」
ミルも俺の背中をバンバン叩いてくる。どういうことなのか、誰か教えてくれ・・・・・・。そして助けてくれ・・・・・・。
「あ、あの・・・・・・」
俺が弱々しい声を上げた時、ミルがこの状況の回答を与えてくれた。あまりにも衝撃的過ぎて、すぐには理解できない回答を。
「ファーンは女の子なんだよ~~~~~~!!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
頭が処理できない。ミルは何を言ってるんだ?
ファーンが女の子?
え?あのファーンが?
イヤイヤ。有り得ないでしょ?なんであいつが女の子な訳?俺だって1ヶ月以上一緒に旅してるんだぜ。さすがにそれは無いだろ・・・・・・。
戸惑い固まる俺の様子に、気付いたリラさんが「え?」と声を上げて、俺を揺すぶる手から力が抜ける。
「ええ?」
ミルも俺を叩く手を止めて、リラさんの背中に隠れる様に身を寄せる。
「・・・・・・まさか、カシム君・・・・・・気付いてなかったの?」
リラさんの言葉に、俺は力無く頷く。
まだ俺はファーンが女の子とは思えていない。
俺にとって始めて出来た同年齢で同性の、大切な親友で相棒だと思っていたのだ。
室内の全員が、完全に固まり言葉も発する事が出来なくなってしまった。俺は俺で、頭の整理が付かない。
リラさんとミルも、渋い表情で色々思い返しているようだ。
「ただいま~~~って、何?この空気?」
そこに、風呂上がりのファーンが帰ってきた。
再び稼働したリラさんがファーンに叫ぶ。
「ファーン!あなた何でカシム君と一緒にお風呂に入っているのよ!?」
ファーンは困ったような顔をする。
「いや。露天風呂に入りたくってさ。でもここ混浴じゃん?」
「そう言う事じゃ無いのよ!なんで、カシム君に注意しなかったのよって事でしょ!あなた女の子でしょ!?」
リラさんがファーンに詰め寄る。
頼む、ファーン。そこは否定してくれ。お前は男だよな!?
一縷の望みを込めてファーンを見つめたが、俺の望みは呆気なく打ち砕かれて、俺が認めたくない真実が明かされた。
「そうだけどさ~。カシムの方がオレの所に来たんだよ」
「お前ぇ~~~。マジで女なの?」
俺が泣きそうになりながら、ファーンの事を力なく見て言葉を漏らすと、ファーンは驚いた様な顔をする。
「ええ?お前、まさかオレの事、男と思ってた訳?」
「・・・・・・そうだよ。お前、自分の事『オレ』って言うじゃん」
「いや、カシムって本当にバカな。女冒険者が自分の事『オレ』って言ったり、こんな態度なのって、割と普通だぜ?ってか、見て気付けよ。オレだってこれまで男と思われてた事、多分だけど無いぜ」
「ええ~~~?」
そう言われて、俺は恐る恐るリラさんとミルを見る。すると2人とも呆れた様子で頷く。
「なんで男の人と思うんですか?こんな可愛い顔してるし、胸だってあるのに・・・・・・」
リラさんがため息をつく。
そう言われると、確かに俺もファーンの顔を、時々可愛いと思っていた事を思い出す。女の子みたいな顔してるな~って思う事もあった。
胸って言われても、ファーンはいつも鉄の胸当てをしていたし・・・・・・。
いや、そう言えばカルピエッタ村の白竜祭の時は鎧はしていなかった。ちょっとゆったりした服を着ているなとは思ったが、あまりしっかり見ていなかった。確かに記憶を思い返してみると、そう言えば胸が膨らんでいたような気がしなくも無い。
あの時はリラさんばかり見ていたし、ミルの祭り装束も可愛かったから、正直言ってファーンの服装には興味が無かった。
だが、今、鎧を身に着けていない、ゆったりした白い服の湯上がり姿のファーンを見てみると、確かに胸が膨らんでいるし、言われて見れば女の子らしい体つきをしている。
胸元だけで無く、腰から膝までの曲線や、華奢な肩、腕。
こうしてみるとちゃんと女の子だったと気付く。
いや、なんで俺はファーンが男だと思っていたのだろうか?バカじゃ無いのか?
思わず何度もファーンの全身を、上から下まで眺め回してしまったところで、リラさんが俺を叱りつける。
「そうやって女の子をジロジロ見ない!!」
「はい!!!」
俺は思わず、電光石火で床に正座する。
「イヤ・・・・・・。オレもさすがにちょっとショックだわ」
ファーンが頭を掻きながら俺を呆れた表情で見る。
「それで、なんでファーンはカシム君と一緒にお風呂入って平気なのよ!!」
あれ?じゃあ、俺って知らない間に混浴成功してたの?全く嬉しくないけど。
「いや、オレも驚いたよ。コイツあんまりにも堂々としていたからさ。実は意外と女に強いのかなって思っちまったよ。だから、オレも負けじと平気なフリしちゃったんだよね。でも、まさかオレを男と思ってたとはね~。納得っちゃ、納得だ。コイツにそんな度胸有る訳無いよな~。ダメダメっぷり半端ないよな~」
あんまりにも呆れていて、ファーンもいつものように「ヒヒヒ」と笑わない。
いや、本当にショックだったのかも知れない。それはそうだ。
思い返してみれば、オレはファーンに対してさんざんな態度だった。怒鳴り合ったり、互いに悪口を言い合ったり。そうかと思えば風呂場で裸同士で「尊敬してる」だの何だのと恥ずかしい台詞を吐いたりしていた。
そうだ。下着を見せ合うなんて話しもしてしまった。そりゃあ気持ち悪がられて当然だ。挙げ句の果てに男だと思われていた訳だ。相当に傷ついていても不思議は無い。
申し訳ない。本当に申し訳ない。でも、どうか今度こそ誰か、俺に深~~い穴を用意してください。当分そこから出て来たくない気持ちでいっぱいです。
それに俺は、ファーンに堂々と全裸で近付いていったわけで、俺はファーンとは言え、女の子に全てを見られてしまった事になる。
恥ずかしい。今までの全てを思い返して、今は人を思いやる余裕が無いほど恥ずかしいです。恥ずかしいです。
「ずるいよ~~~!ミルもお兄ちゃんと2人でお風呂入りたい!!」
「ダメよ!そんな事!」
「じゃあさ、リラも一緒にみんなで入り直そうよ!」
「だだだだだだだだ・・・・・・ダメよ?」
「何だよ、リラもまんざらじゃなさそうじゃんか。オレはもうごめんだけどな」
「そんな事無いわよ!・・・・・・ってそうじゃなくて、もう!これどうする気なのよ、カシム君!」
「そうだぞ、カシム。どうする気なんだ?!」
「お兄ちゃん!はっきりさせてよ!誰とお風呂入りたいの!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます