黒き暴君の島  大失態 4

 2人は図書室の第4面談室に通された。

 面談室のイスに座って待つ間、ファーンはいつものようにリラックスした様子だが、カシムはモジモジそわそわしているし、暑くもないのに汗を拭いたり「フー、フー」とやたらとため息をついていた。

「カシム、ちょっと気持ち悪い・・・・・・」

 ファーンに呟かれても、それがまるで耳に入った様子がない。


「お待たせしましたぁ~ん。ドラン支部のお色気担当、ジュリアンちゃんで~すぅ!」

 派手なポーズと共に登場したのは、赤い巻き髪で、とろけそうな大きな垂れ目に、長いまつげ。スッキリとした高い鼻。

 服は、胸元も露わに開いた上着の丈は短く、細く締まったおなかが丸出し。おまけに上半身には下着を着けていないのか、ピッタリとした服の大きな胸の頂点がポチッと飛び出している。

 スカートの丈も短く、少し動くだけで下着が見えてしまう事間違いない服装だ。

 甘ったるく尾を引くしゃべり方に、自分で「お色気担当」と言い放つだけあって、服装、体つきからも、色気しか感じられない。

「うっひゃ~~~~~!すげえすげえ!!」

 ファーンが大喜びで手を叩いて笑う。

「あんた自分で言うだけあって、めちゃくちゃ色っぽいね~!最高だよ!!!」

 ファーンがテーブルに手をついて身を乗り出して、まじまじとジュリアンを眺める。

「ありがとうございま~~すん」

 ジュリアンは服からこぼれ落ちそうな胸を強調するようにお辞儀をすると、2人の正面に座る。座るとテーブルで2人からはジュリアンの下着は見えない。しかし、テーブルにドンと2つの丸い膨らみが乗っかる。

「オレはファーンね。で、こっちがカシム。・・・・・・にしても、ジュリアンちゃん。あんたすげえ武器持ってんなぁ~」

 ファーンが感心したようにジュリアンの胸を見つめる。そして、隣のカシムを肘でつついて「どうよ?」と聞いた。

 しかし、カシムはまるでタコのように赤くなり、タコのように唇を突き出して鼻を膨らませた、なんとも気持ち悪い顔をしていた。しかも、目はキョロキョロとそこら中動き回って、ちっともジュリアンを正視出来ていない。

「うげっ!?キモッ!」

 そんなカシムの様子にファーンが思わず呟いた。

「お兄さんはどうかしちゃったんですかぁ~ん?」

 ジュリアンが心配そうにカシムをのぞき込むので、ファーンが笑って答える。ただ、その笑顔は引きつっている。

「ああ~・・・・・・いやいや。コイツって人見知りだからすっかり緊張しちゃってんの。ジュリアンちゃん美人過ぎて固まっちゃってんだよね。勘弁な~」

「あらお上手~。ジュリアン嬉し~~いん。お兄さんも緊張しなくていいんですよ~ん。あたしは司書なんだから、ちゃんと冒険のヒントきいてね~~ん。おっぱいチュッチュしますか?」

 そう言われてカシムの目の動きがピタリと止まり、ジュリアンの胸の頂点の突起に釘付けになるが、慌ててブンブンと必死に首を振る。

「もっちろん冗談よ~~~ん。おさわりは禁止なんだからね~ん」

 ジュリアンとファーンはクスクス笑う。カシムはホッとしたようなガッカリしたような、何とも言えない表情をしたかと思うと、黙ったままうつむいてしまった。

「・・・・・・まあ、コイツはほっといてやってくれよ。にしてもジュリアンちゃん、あんたその服とかって大丈夫なの?」

 さすがに司書としてもここまできわどい服装は問題じゃないかと思ったのだろう。

「支部長にギリギリ叱られないところまで攻めてみました~ん。本当は時々怒られちゃってます~~~ん」

 ジュリアンがペロリと舌を出す。

「そっか~。まあ、そうだよな。冒険者にとって目の毒っちゃ毒だけど、でもさ、それを励みにがんばる冒険者もいるってもんだしな!オレはジュリアンちゃんを支持するぜ!」

 ファーンがそう言うと、ジュリアンがきょとんとした表情をする。

「やん!ジュリアンちょっと感動!!ファーンちゃんに惚れちゃいそう!!」

 ジュリアンがファーンの手を取って熱い目で見つめている。

「ナッハッハッ!冒険者に惚れたって良い事ないってばよ!」

 ファーンは達観している。冒険者というのは決まった収入も無く、いつも命がけだし、根無し草のように旅ばかり繰り返す、救いようのない人種である。

 そのくせ、旅先で恋人や愛人を作っては去って行く。そのせいで泣く男女は少なくないという。

 いくら社会的な身分が保障されていても、そんな生活をしている限りは、誰かと添い遂げるなんて事は中々上手く出来るものでは無い。

 ただし、一発当てれば一夜で大金持ちになれるのも、また冒険者だ。それが夢でもある。

 現にカシムたちも、ドラゴンドロップを白竜からもらっている。あれを売るだけで小さな国なら丸ごと買えてしまうそうだ。同じく、ファーンの「月視げつしはいのう」も、売れば当分贅沢して暮らせる代物である。

「でも、あたし~。冒険者って好きよ~。だから勉強して司書になったんだし~ん」

 ジュリアンの言葉に、ファーンが爽やかに笑う。

「ありがとうな、ジュリアンちゃん。じゃあ、オレも冒険者がんばるわ!」

「やば・・・・・・ほんとにキュンと来た!!ファーンちゃんはなんでファーンちゃんなのよ~~ん!!」

 ジュリアンが頬を膨らませた。

「??何の事かわからねーけどよ、取り敢えず無事に冒険から帰って来れるように、黒竜島の情報教えてくれないかな?」

 ファーンが言うと、ジュリアンの態度が急に変わる。

「はい。承りました」

 甘いしゃべり方を止めて、真面目に説明を開始する。

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