黒き暴君の島 大失態 3
カシムとファーンが向かったギルドは、温泉街からは離れていた。冒険者が利用するだけあって、港近くで、宿も比較的安い繁華街の一角にあった。
さすがにギルドの建物は建て増しでは無く、大きい建物で、色も派手派手しくない白壁に、黒い瓦屋根の3階建ての館風建物になっていた。
冒険者ギルドの周囲まで来るとさすがに冒険者が多い。冒険者のパーティーは6人から8人程度の人数が多く、宿は各々でとって、時間を決めてギルドに集合し、冒険に向かうパターンが多い。その為、三々五々、ギルドに集まって来ている光景が一般的だ。
そもそも、即席パーティーや、ある目的だけとか、いつまでとか期間限定のパーティーも多い。
長く同じパーティーを組んでいると、連携が取りやすくなったり気心が知れたり、メリットも多いが、人間関係でこじれたり、利害の不一致、目的の相違などで続かない場合も少なくない。
なので、冒険者ギルドでは適材適所なパーティーが組めるように斡旋したりしている。
ファーンも、リラも、そうした日雇い的な即席パーティーを、これまで組んで来ていた。
中には、同一メンバーで長くパーティーを組んでいる者たちもいる。全員が白金ランク冒険者の「アカツキ」等は最たる例だ。
最強のパーティー「歌う旅団」も同一メンバーが多いが、時々入れ替わりがある。
カシムたちパーティーは、今は4人だが、別行動をしている高レベル冒険者の黒魔道師ランダも、新規のパーティーメンバーと言って良い。これから増えていくのかも知れないし、何らかの理由で減ったり交代していく事があるのかも知れない。
「こんちは!司書さん空いてる?」
ファーンはいつものように気軽な感じで、冒険者ギルドの受付に声を掛ける。
ファーンが立った窓口の先にいた受付は、センス・シアだったので、ごっつくないが、高レベル魔法使いなのかも知れない。ギルドの受付は元冒険者など、腕が立つ者が務めるのが一般的である。
「はーい。空いてるよぉ~」
ほんわかとした口調で幼女にしか見えない受付が、ピンクのフワフワの髪を揺らして、カウンターに上半身を乗り出す。
受付内には彼女用に台があって、その上に乗って応対しているのだ。
ファーンが冒険者証をカウンターに乗せて、受付に見せるが、ここの受付でも、やっぱり冒険者証はチラリとしか見ない。それだけ冒険者というのは信用されていると言う事だ。
「今空いてるのは2人ですね~」
ファーンが注文を付ける。
「2人ともやっぱり黒竜のエリアについては詳しいんだよな?」
「もちろんですよ~。ここは黒竜島ですから、黒竜について詳しくないと司書としてやっていけませんからね~」
「だろうね。じゃあさ、念写見せてよ」
「は~い」
受付が司書の念写された紙をカウンターに乗せる。今度はカシムもファーンの隣で念写の紙をのぞき込む。
2人とも女性で、どちらも露出が多い服を着ていて色っぽい。1人はメガネで知的な感じの司書。もう1人はとろけそうな垂れ目の可愛らしい女性で、特に胸が大きい。
「安心しろ。今回は間違いなく女の司書様だ。どうだ?どっちが良いんだよ!お前が決めて良いんだからな!」
ファーンがカシムに耳打ちする。しかし、カシムが妙な表情で固まっている。
「おい、どうしたんだよ!どっちが好みなんだよ!?」
ファーンが聞くと、カシムがしどろもどろに言い返す。
「好みとかってんじゃないだろうが・・・・・・お前こそどっちが良いんだよ?」
ファーンが呆れたように頭を掻く。
「何だよ。ここに来て尻込みしてどうするんだよ!相談するだけなんだから、いちいち真面目に考えるなよ。好きな方を選べってだけだろうがよ!」
ところがそれでもカシムはモジモジして決められない。
「あの~~~?そろそろ決めてもらえませんか~~?」
受付の幼女もあきれ顔になる。
「だってよ!」
「でも・・・・・・」
カシムの態度に、ファーンも受付の幼女も顔を見合わせる。
「そうすると~~~、こっちの方にしておきましょうね。お兄さんはむっつりスケベさんだから、おっぱいド~~~~~ンなジュリアンさんにチュッチュさせてもらった方が喜ぶと思いますよ~~~~~!」
幼女が、あからさまな大きな声でアドバイスする。ファーンが腹を抱えて笑い、周囲からも笑いが起こる。
「いいねえ、兄ちゃん!」
「俺もおっぱい好きだぜ、同志よ!」
「しっかり甘えて来いよ!!」
カシムはどんどん真っ赤に小さくなり、ひどくモジモジしながら「は、はい」「はい」「どうも」とモゴモゴ言うのみだった。
センス・シアは見た目は幼くとも下ネタ大好きな種族だ。
ひとしきり笑いが収まると、受付の幼女が受付票をカウンターに置きつつ、青いプレートもガチャリと4つ置くとファーンに告げた。
「そうそう。ファーンさんたち一行の4人は、全員青ランクにランクアップしてますので、青プレート4つ支給しますね」
「ええええ?!!」
ファーンが叫ぶ。
「どういうことだよ!!!」
ファーンが青いプレートを手にして、信じられない物を見るようにして叫ぶ。手が震えている。白ランクのファーンとカシムにとって青ランクは黄色ランク、緑ランクの上のランク、つまり3つも上のランクになる。
「あら~?大きな声で言っちゃって良い事なんですか~?」
受付の言葉にファーンが慌てて小声になる。
「い、いや。騒がれると面倒だから勘弁な・・・・・・」
「やはりそうでしたか~」
センス・シアは見た目は幼くとも魔法適性はあるし寿命も長く、頭が良い。チラリと見ただけの冒険者証と、リーダーであるはずのカシムが冒険者証を見せなかった事で、色々と察したのだろう。
「あなたたちが邪悪な魔法使いの企みを退けた事、ハイエルフの里長と交流した事が大変高く評価されまして、特例で全員が青ランクに昇格しました。報奨金も出てます。50000ペルナーですが、今受け取りますか~?」
受付の幼女は淡々と語る。
「マママママ、マジか!?ど、ど、どうする?カシム?」
ファーンがカシムに聞く。カシムもようやく正気に戻ったようで、受付の話しに驚きの表情を見せている。
「わかった。今受け取ろう」
カシムが答える。50000ペルナーは大金だ。
「ではパーティーメンバーを確認しますので、4人の名前をこの紙に書いてください。最後にここに受取人の署名をお願いします」
カシムが代表して、用紙に4人の名前を書いていく。この時点ではランダはまだパーティーメンバーではなかったので、書く名前はカシム、ファーン、リラ、ミルの4人だ。最後にカシムが署名する。
「受け取りは紙幣と貨幣どっちにしますか~?」
受付の質問に2人同時に答えた。
「紙幣で」
「金貨で!!!」
ファーンがキラキラした顔で金貨を要求する。
「あ、じゃあ、金貨でお願いします・・・・・・」
あっさりカシムが折れた。
「ではどうぞ~」
受付は金貨が25枚入った袋をカウンターに置く。
ファーンがそれを嬉々として受け取る。
「うひゃ~~~!おっも~~~!」
金貨25枚ともなると、ずっしりとした重みが手に来る。
「オレ、こんな大金手にしたの初めてだ~~~~!!」
ファーンが小声で歓喜の叫びを上げる。
そして、金貨の入った袋をカシムに手渡す。
「ほら!オレたちがんばったもんな!!」
ファーンが会心の笑顔を向ける。カシムはファーンの笑顔に素直に頷いた。
「ああ。がんばった」
そう思いつつ、まだ、白竜山での事は知られていない事にホッとする。レベルが低いのに青ランクにまでなってしまったのだ。このままランクだけ上がったら堪ったものじゃないと、カシムは冷静な部分で判断する。
高ランク冒険者の任務は、ランクに応じて厳しい依頼が多くなる。カシムたちにも臨時任務として厳しい依頼が舞い込んでくるかも知れない。
世間からしても、高ランク冒険者のレベルが低いなんて思わないものだろうから、無茶な要求をしてくるかも知れない。実力を伴わない周囲の評価は恐ろしいと、カシムは特に実感しているのだ。
まあ、今でも竜騎士探索行、そして、アズマとのハイエルフとの国交を開くという、とんでもない任務を受けている訳だが・・・・・・。
「なあなあ。オレたちの事、『ただ中』で取り上げられたりしてな!」
ファーンが小声だが、嬉しそうに耳打ちしてくる。
「ただ中」とは、冒険者の活躍や、情報を取り上げた、隔月発行の雑誌「ただいま冒険中」のことだ。
印刷技術が、ここ十数年で飛躍的に進歩して、今ではそうした雑誌も作られるようになっている。
そうした印刷技術の発展の為に不可欠だったのが、写真の技術の応用なのだが、残念ながら、現在は写真の技術を発表できないでいる。これは、念写魔法を神が先に開発した為、写真技術が世に出たら、神としては困る。その為に、20年以上前から神と協議中なのである。
その為に、基礎となる技術よりも、応用となる技術の方が先に一般化する奇妙な状況となっている。
ともあれ、印刷技術だけは高いので、念写した画像も、本や雑誌として綺麗に印刷することが出来るようになっている。
ファーンが浮かれる中、カシムは思案する。
『確かにありうるな・・・・・・』
闘神王の「竜騎士探索行、指名依頼事件」以来、カシムは冒険者たちからの注目を集めている。
顔は知られていないが、特徴と名前は知られてしまっている。
そして、「魔術師の塔」「ハイエルフとの交流」の2つの事件に、今度は白竜との会合、竜騎士の認定1つ確定したことが明るみに出たら、間違いなく世界中からの注目の的となってしまう。そしてそれは隠しおおせるものでは無い。
『俺は、本当は考古学者になりたいんだから、冒険者として注目を浴びるのは迷惑なんだがなぁ。実際には弱いし・・・・・・』
カシムは常にコンプレックスを抱いており、実像よりも虚像が拡大していくことを、心の底から恐れていた。
『ならいっそ、インタビューでも受ける機会があったら、しっかりと俺は弱いんだって事を伝えれば良いんじゃないか?』
動機はネガティブながら、カシムの思考はポジティブな方に向きを変え、少し気が楽になる。
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