白竜の棲む山  ドラゴンドロップ 1

 俺を、白竜が・・・・・・竜騎士として認めた?

 楽では無かった。決して簡単にたどり着いたわけでは無い。だが、あまりにも呆気なく白竜が俺を認めた。何故だ?

「な、なぜ?」

 俺が疑問を口に出したとたん、仲間たちが俺に飛びついてくる。

「やったな、カシム!!」

「信じられません!まさに新しい歌の誕生です!!」

「おめでとー!」

 仲間にもみくちゃにされるが、俺は何の実感も無い。

「ま、待ってくれ!まだ俺は竜騎士じゃ無い!!早まるな!!」

『その通りです』

 白竜の声に、仲間が落ち着きを取り戻して、白竜を見る。

『私が勝手に認めただけです。でも、これで1つです』

 そうだ。俺は後三柱の創世竜に認められなければいけないんだ。

『カシム。冷静に判断したことは誉めましょう。でも、今度の聖魔戦争は今までとは規模が違います。勝算も僅かにあるのですが、それはあなたの仕事ではありません。それでも、今度の戦いに竜騎士は不可欠です。さらに、十一柱の創世竜、全ての力が必要なのです。その為には四柱の創世竜の承認では足りません。七柱の創世竜の承認を得て来なさい。その時あたなは初めて、本当の竜騎士となるのです』

「な、七柱!?」

 俺の目の前が一瞬暗くなる。あまりの衝撃に膝が折れる。今回のような苦しみを最低でもあと6回?!

 崩折れかけた俺を、ファーンが支える。リラさんも俺に寄り添ってくれる。ミルは俺の手をぎゅっと握る。

 俺1人じゃ無理でも、仲間たちがいるか・・・・・・。俺は足に力を入れる。

「ありがとう、みんな。これからも俺を支えてくれるか?」

「任せろよ、相棒!」

 リラさんも、ミルも頷く。

「ミルは・・・・・・あたしは早く大人になって一生支えてあげるからね!」

 そう言うミルの頭をリラさんが叩く。

「まだ早いのよ!」

「まだ、な」

 ファーンがニヤけて、ミルが笑い、リラさんがふくれる。

 あれ?リラさんの雰囲気がちょっと違う。そう言えば、ミルも、ファーンもどこか雰囲気が違う。何というか、とても自然で、打ち解け合ってる気がする。

「何か・・・・・・俺・・・・・・」

 疎外感。あれ?俺も仲間だよな。ちょっと置いてかれた気がする。


『さて、カシム。これからあなたは何処に向かいますか?』

 白竜の問に、俺は意識を切り替える。

「一度王城に戻って報告をしてから、次は青竜の元に向かおうと思っている」

『青竜ですか・・・・・・』

 白竜が首をひねって目をすがめてこっちを見る。

 青竜は大人しく、人間に害を成すことも無いと聞く。であれば、確実にもう一柱の創世竜の承認を得るには適しているように思えたのだ。当初の予定では、白竜、青竜、聖竜の順番で、可能であれば天竜に向かい、四柱とする予定だった。

『やめておいた方が良いでしょう』

 白竜の言葉に、不安が首をもたげる。

「なぜ?」

『確かに青竜は人に害を成さない創世竜ですが、それはこの世界に興味を示していないせいです。それにあの子はずっと湖の底に引きこもっていて、滅多に水面に出てきません。つまり、水中探索が容易に出来ないあなたたち人間では、まず遭遇することが叶わない創世竜です。10年経っても、100年経っても会えないかも知れませんよ』

「うう・・・・・・」

 そう言われればグウの音も出ない。これは無理だと断言せざるを得ない。俺の考えが甘かった。

『黒竜になさい』

「ええええええ!!!??」

 俺は、いや俺だけでは無く仲間たちも盛大に叫んでいた。

「でも・・・・・・あの、黒竜って結構凶暴だと聞いているんだけど・・・・・・」

 俺の言葉に白竜が笑う。

『その通りです。黒竜は強欲な竜です。人間の作る宝物、貴金属が大好きな困った竜です。その為に人間の国を襲ったり、自分の島に金鉱の町を作って税を課しています。また、自分の宝物を管理するのが趣味で、金貨一枚ですら把握していて、無くなると怒り出す短気な性格です。そのくせズボラで、宝物は一見散らばり放題という有様です』

 うわあ・・・・・・。困った奴だ。


 散らかし放題の部屋でも「俺は何処に何があるかわかってるんだから、1ミリも俺の物に触るな!」とか言う奴を俺は知っている。あまりにグッチャグチャな部屋なので、嘘だろうと思って紙くずにしか見えない物を数センチずらしたら、本当にバレて文句を言われた。あんな感じか・・・・・・。


「それで、なんで黒竜なんだ?俺としては赤竜の次に避けるべき竜だと思っていたんだけど・・・・・・」

 すると白竜が憤慨した様子で俺を見る。

『お前はジーンの孫であろう!私と黒竜はあやつの友です』

「あ!そう言えばそうだ!」

 俺の祖父が「竜の眷属」と呼ばれる所以ゆえんは、白竜、黒竜と会って会話をして生きて帰ったことによるものだ。でも、今の話しだと、生きて帰っただけでは無く、創世竜に「友」と呼ばれるほどだったとは・・・・・・。またしても尾ひれが小さい伝説だったか。

『とは言え、私もそれだけが理由でお前に目をかけていたわけではありません、カシム』

「え?それってどういう・・・・・・」

『お前の仲間たちはわかっているでしょうが、言わねばわからぬ様ですから私が代わって言ってあげましょう。お前がお前だからです』

 白竜が俺にそう言う。だが、言われても俺にはさっぱりわからない。

 するとファーンが馬鹿にしたように肩をすくめる。

「白竜さんよぉ。カシムは時々バカだから・・・・・・っても本当は常時バカだから、言ってもわかんないんだよ」

『そのようですね』

 あれえ?ファーンや仲間たちが俺をダシに白竜と笑い合ってる。何だこれ?夢のような状況だ。

 わからないなりに俺も愉快になってきて笑う。謎の男も笑いをかみ殺しているようだ。


「それなら、俺はこのまま、黒竜島を目指すことにする。ここからならその方が早いから」

 俺が言うと、白竜が頷く。

『あやつは人間に執着が強い。ですが、気分屋でもあるし偏屈者です。私の様に簡単にお前に味方するとは思わぬ方が良いでしょう』

 白竜にそうクギを刺されたが、そんな事は承知している。そもそも、創世竜に会うこと自体が無謀な冒険なのだ。

 それはそうと、さっきから白竜は黒竜のことを無茶苦茶けなしている気がする。なのに黒竜を推すのか・・・・・・。

「わかった!ありがとう、白竜!」

『うむ。万一、黒竜の承認を得たなら、その時にまた会いましょう』

「え?」

『約束です』

 また会うって、またこの白竜山に来いって事か?!結構無茶な要求だな。でも、受けるしか無い。

「わかった。約束する」

『良い心がけです。では褒美としてこれをあげましょう。手を出しなさい』

 何だろうと、俺は手を差し出す。創世竜が俺の手の上に首を伸ばしてきて、大きな牙で挟んだ小さな赤い宝石を俺の手のひらに器用に落とす。

 ちょうど卵大の大きさの赤くて透き通ったきれいな宝石だ。見る角度によって赤の色味が変わって見える。

「これは?」

『ふふふ。我ら創世竜が希に生成する、所謂『排泄物』です』

「うわ!?これ、アレ?」

 俺は思わず赤い宝石を放り捨てる。仲間たちも俺と宝石から跳び退しさる。

 謎の男が「やれやれ」と首を振りながら創世竜の排泄物である赤いウ○コを拾い上げて、とても大事そうに俺の手のひらにのせて握らせる。

「・・・・・・そういう言い方をされると、大抵こうなるが、これは恐らくはドラゴンドロップだろう」

 ド、ドラゴンドロップ!!!??


 確か、国宝級の宝石で、魔法道具の素材として最高の万能素材でもある、伝説の宝石だ。俺の祖父の装備と同等の価値を持つアイテムではないか!?

『その通りです。排泄物と言っても我々は人間や他の生き物とは造りがまるで違います。我々の力の絞りカスであるのは確かですが、そこにはまだまだ利用できる力が凝縮して残されているのです。もちろん汚いものではありません。これからの冒険の役に立つでしょう』

「そ、そう言うことは早く言ってくれ・・・・・・」

 ウ○コではないのか・・・・・・。俺は一度投げ捨ててしまった物の価値を知って、持っているのが恐ろしくなる。白竜が笑う。わざと紛らわしい事を言って楽しんでいたな。

『宝石として扱うので無ければ割ろうが傷つこうが関係ありません。必要なら小分けにして持っていてもいいでしょう』

 そう言われても扱いに困るのは確かだ。

 俺はファーンのリュックに入れてもらおうと、多分情けない顔でファーンにドラゴンドロップを差し出す。だが、ファーンも多分俺と同じぐらい情けない顔で首を振る。

 リラさんなら一番しっかりしてるから保管してくれるのではと、リラさんを振り返るが、露骨に顔を逸らされた。

 ミルは・・・・・・止めとこう。

 仕方なく、俺のウエストバッグに入れようとするが、何とウエストバッグは無くなっていた。竜との戦いで焼失してしまったようだ。

 仕方が無く、何ともいい加減な扱いのようで心苦しいが、ズボンのポケットにそのまま突っ込むことにする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る