白竜の棲む山  冒険者として 4

『さて、カシム。お前の願いは知ることでしたね。良いでしょう。教えてあげましょう』

 白竜の言葉に、俺の胸がドクンと強く脈打つ。

『しかし、私が全て話してしまっては面白くない。私は少しだけ真実を語るとしましょう。後は他の創世竜と会った時にでも聞いてみると良いでしょう。もっとも、それで教えてくれるとは限らぬし、そもそも生きていられるかもわかりませんが』

「かまわない。いや、その方がいい」

 俺は答える。ここで、全てを知ってしまったら、俺は他の創世竜に会うべき意義を見いだせなくなってしまう。俺の冒険がここで終わってしまうことを意味しているのだ。

 俺はこの仲間たちと、もっと冒険をしてみたいと思っている。これも俺の真実の願いとなっているのだ。



『では、話しましょう。まず今のエレスの文明は第三文明です』

 白竜の言葉に俺は驚きを隠せない。

「第三?!」

 俺は第二文明という定説を疑ってはいたが、こうもはっきり言われると衝撃が大きい。

『まず、この星エレスには何もありませんでした。そこに私たち創世竜が世界の礎として、生命が活動できる環境を造り上げました。つまり、この世界を創ったのはわたしたち創世竜です。

 それから最初の文明で、神と魔神と人間が生まれました。精霊、つまりハイエルフたちは違う誕生の仕方をしました。

 そして、文明を築いていきましたが、誰も気付かずに放置していた歪みが、やがて地獄へとつながり、蓋がされていなかった穴から大量の魔物が出現して地上の文明を滅ぼしました。

 我ら創世竜が地獄の穴に蓋をしたため、地獄の魔物の侵略は終わりましたが神も、魔神も、人間も、精霊も大きな被害を受けました。しかし、第二の文明を築き直すことに成功したのです』

 俺たちの前の文明だ。

『この文明は長く続きました。現在のエレスよりも文明は発展していました。

 その頃は、エレスの大陸は1つではなく、4つの大陸がありました。無論、この大陸「アッカドアナ」の地形も、現在とは少し違っていました。

 ところが、この文明も、せっかく我らが閉じた地獄の蓋を、魔神と人間が開けてしまい、滅びたのです。地獄からの干渉を受けた魔神と人間が裏切ったのです。その裏切りによって、今度の聖魔戦争の被害は甚大に過ぎました。

 3つの大陸は海に没し、エレスにはこの大陸のみが残ることとなりました』

 衝撃的な話しだ。エレスに他の大陸があったとは思いも寄らなかった。そして、現在はただ「エレス」とのみ呼ばれているこの大陸が、かつては「アッカドアナ」と呼ばれていたのも、初めて知ることだった。


『地上に住む者は、絶滅に近しい状況にまで陥り、残った人類による文明再建までかなりの時間を要することとなりました。人々も石器時代にまで文明レベルが後退してしまっていたのです』

「聖魔戦争は2回あったと言うことか?」

『その言い方は正確ではありません。聖魔戦争は200年前のを入れると3回です。200年前の聖魔戦争は破滅的結末を避けられただけに過ぎません』

 そうだった。だが、世界崩壊が過去に2回あった訳だ。その理由も聖魔戦争。つまり地獄勢力との戦争だ。


『地獄の階層は全部で第七階層あります。前回までの聖魔戦争では第五階層までの魔物が地上に現れました。しかし、地獄の魔物は深い階層に行けば行くほど強大になるのです。第五階層までの魔物なら我ら創世竜で倒すことも封じることも出来ます。しかし、第六層であっても、そこに棲むだけの魔物までならともかく魔王クラスが出現しては我々とて敵うまい。第七階層ともなれば、もはや我ら創世竜であっても、小さな羽虫も同然となってしまうのです』

 創世竜が地獄について語る。

 その驚異はもはや明確である。そんな恐ろしい魔王が出てきたら、この世界だけでは無い被害が出るだろう。


『恐ろしいことですが、そんな魔王が、地獄には何十万、何百万といるのです』

 衝撃を受けるが、もはや想像の埒外だ。あまりにスケールが大きすぎる。

『次の聖魔戦争は、恐らく深部の魔物どもを地上に出現させてしまうでしょう。それを止める為には竜騎士が必要になるのです』

 白竜の語りに俺は息を呑む。闘神王も同じ事を言っていた。次の聖魔戦争は「聖魔大戦」となる、と。


 そして、当然の疑問を口にする。

「なぜ竜騎士が必要なんだ?竜騎士がいなくても、あなたたちが戦いに参加してくれればいいんじゃないか?その深部の魔王とやらが出てくる前に。・・・・・・これまでの聖魔戦争でもそうだったんだろ?」

 そう言うと、白竜は目をすがめる。困った顔をしているのだろうか?

『私はそれでもいいと思っているのですが、他の竜たちは地上を、この世界そのものを愛してはいない。執着はあっても、いざとなれば違う次元に移り棲めば良い程度にしか思っていないようです』

「違う次元?」

 聞き慣れない言葉だ。


『我々創世竜の棲む領域は、そもそもがこのエレスとは違う世界に存在しているのです。お前たち人間の住むこのエレスの存在する世界、地獄とつながるこの星々を含む果てしなく広がる世界を宇宙と言います。

 その宇宙全体が一つの泡としましょう。そんな泡がこの世には無数に存在しています。

 それと別の所に私の棲む領域が泡として存在している場所があります。ただしその場所はお前たちの住む世界の泡とは違う高さにあるのです。

 他の創世竜たちの棲む領域も同様に、高さが違う場所にあります。

 低い場所にある泡は、高い場所にある泡に近づくことは出来ない。しかし、高い場所にある泡は、低い所にある泡と結びつくことが出来るのです。つまり、お前たちの泡は、本来私たちの泡に触れ得ぬ所にあるのです。

 しかし、我々はそれを我々の世界に強引に結びつけているので、行き来が出来るに過ぎないのです。だから、お前たちの世界が滅ぶとしたら、我々はその結びつきを解けば、また好きな世界を己の領域に創ったり、別の低い所にある泡につなげれば良いだけということです。

 地獄も我々と同じ高さの場所には無い泡にすぎないので、いくら魔王たちの力が強力でも、我々が世界とのつながりを切り離してしまえば、我々には手出しができなのです。

 つまり、この世界が地獄と同化したとしても、我々創世竜は困らないのです』

 

 うおお。何だか規模が大きすぎてわからなくなってくるが、創世竜がとんでもない存在だというのはわかった。


『一方で神や魔神、精霊たちもそれぞれに泡を創ってお前たちの世界と結び付けているが、我々の様に容易に切り離したり結び付けたりすることは出来ません。また、泡のある高さもエレスのある世界と同じ高さにあるので、地獄の脅威からは逃れきれないのです。それ故に聖魔戦争ともなると必死になるのです』

「だから、あなたたちは地獄の勢力との戦いに消極的で、エレスのある世界全て、星々まで全てが滅んでも気にしないと言うことか?」

 非難するつもりは無いが、口調がきつくなってしまった。そもそもが違う世界の住人に、自分たちの世界の危機を救え等と強要するのはお門違いだ。言った後で、自分の態度を恥じる。


「その、すまない。筋違いだったな・・・・・・」

『ふふふ。気にする必要はありません。お前の言った通りほとんどの創世竜はエレスの行く末に興味は薄い。少なくとも我が身を危険にさらしてまでも戦おうとする者は少ない。だからこそ、少なからず、この世界に執着有る竜を味方にして、私は十一柱全ての創世竜と誓約を結んだのです』

「誓約?」

『ええ。我々竜に認められた人間が現れた時は、我々に命令する権利を持つ『竜騎士』とする事を。四柱以上の創世竜に認められることを条件に、全ての創世竜が同意して誓約を結びました』

「それが・・・・・・竜騎士・・・・・・」

 思ったよりも竜騎士という存在は大きすぎた。「騎士」と言うよりまるで「王」ではないか。『竜王』。破格のじつを持つ称号だ・・・・・・。俺は思わずつばを飲み込んだ。



 そこで白竜は巨大な翼を大きく広げる。その姿は背後からの光を背負い、白く輝いて神々しい。そして、威厳に満ちた美しい声で宣言した。 



『カシム。私はお前を竜騎士として認めましょう』

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