白竜の棲む山 襲撃 4
一番に狙うべきは弓矢を持つ2体のゴブリンだ。ゴブリンは知能が低く、弓を持つにもかかわらず、1体が前の方にいる。近づかなければ中々当たらない程度の腕前なのだろう。
先頭には棍棒を持つゴブリンがいたが、弓矢のゴブリンに駈け寄りざま、棍棒の攻撃を回避しながら剣鉈を腹に突き刺す。
「グゲエエエエエエエッ!!」
叫ぶゴブリンを蹴り飛ばして、続いて襲って来ようとしているゴブリンに叩きつける。2体が巻き込まれて倒れ込む。
その隙に一気に弓矢を持つゴブリンに迫る。向こうも弓矢を構えて俺に向かって放つ。その矢をハーフメットの額当てで受けて弾くと、速度を落とさずに突っ込み、弓矢もろともゴブリンの首をはねとばす。
「んぐっ!!」
その直後、隙の出来た背中を棍棒が襲う。一瞬息が詰まるが、頭でなくて良かった。痛打した棍棒を脇に挟んで掴むと、棍棒を持つゴブリンの口に剣を突き込む。これで3体。
「うおおおおおおおっ!!」
俺はゴブリンの注意を引き付ける為にも雄叫びを上げる。
「こっちだカシム!」
ファーンの声に振り返ると、ファーンが2体のゴブリン相手に押されている。後ろにちゃんとリラさんを庇っている。リラさんはファーンを信頼して、目をつぶり治療に専念している。
ファーンは棍棒で殴られたようで、頭から血を流している。
俺はすかさず投げナイフを2本投擲する。1本はゴブリンの肩に刺さったが、もう1本は棍棒に当たり、はじき落とされてしまった。ファーンの元に駆け戻っている余裕は無い。俺は剣の柄尻を外して、その剣を構えて投擲一閃。
1体のゴブリンの首に刺さり、即座に仕留める。
俺の剣には回収用のワイヤーが付いているので、すぐにワイヤーを引くと、剣は俺に手に戻って来る。
目の前に迫って来るゴブリンを回避しながら剣の柄尻を元に戻すが、ワイヤーがはみ出てしまって取り回しがしづらくなってしまった。これは改良が必要だ。
止む無くワイヤーを剣鉈で切断する。
もたもたしている間に、俺は5体のゴブリンに取り囲まれてしまった。5体はマズイ。3体まではかろうじて同時に対処しきれるが、5体となると確実に2体はフリーになってしまう。
軍の訓練でも良く5人一組での連携をさせられた。訓練でも5人一組の強さは3人とは大きく違っていた。
『エアリセント!!!』
風の刃が俺の右側面のゴブリンを切り裂く。
リラさんが戦線復帰してくれた。
「エアリセント」は、「悪魔の鎧」を作成していた魔法使いゼアルも使った「エアストル」と同じ風の刃の魔法だが、威力は段違いで、ゴブリンの体を真っ二つにしてしまった。
魔法コントロールもばっちりで、すぐ側にいた俺には何の影響も無い。安心して背中を預けられる。
魔法の攻撃にひるんだ瞬間に、俺は正面のゴブリンを蹴りつけつつ、左右のゴブリンに牽制の為に剣を振るい、ダッシュでひとまず包囲を脱出する。
そして、脱出しざまに1体のゴブリンにミスリルの剣鉈で切りつける。
その1体はひるんだが、さすがに多勢に無勢だ。
すぐに逃げる足を棍棒がかする。ダメージは無いが、バランスを崩して転倒してしまう。
そこに矢が飛んでくる。とは言え、あの地獄教の危険な男ヴァジャの矢には比べるべくもない。
俺は転んだ勢いで前転しながら矢を剣で叩き落とす。そして、剣を投擲して、弓矢のゴブリンを仕留める事に成功する。
「あ」
ついメイン武器を投げてしまった・・・・・・。剣にはもうワイヤーは付いていないので回収できない。敵はまだ10体以上いる。
ガトーにも笑われたが、投擲に適した形にしてしまっているだけに投げやすく、ついやってしまう。
サブ武器を多く装備しているが、これは反省した方が良いとは思うが、どうもすでに癖みたいになっている。
俺は一瞬の硬直から解けて、すぐに剣鉈で近くのゴブリンの棍棒を持つ腕を叩き切る。そして、右手でゴブリンの腕付きの棍棒を取ると、腕を切られたゴブリンの頭を粉砕する。
ある物は何でも利用しなければいけない。泥臭くても生き延びる為にやらなければならない。
「殲滅するぞ!!!」
「おうよ!」
「はい!」
俺が雄叫びを上げると、仲間たちが答える。
魔法の援護も効いている。ミルが自分が請け負った4体のゴブリンを倒し終えて、こっちに加勢に来てくれる。
そして、ファーンは探究者の仕事に戻る。これでもう大丈夫だ!
「行くぞ!!!」
戦闘は明け方まで続いたが、最後には32体全員を殲滅する事が出来た。
リラさんとファーンにキャンプの撤収を頼み、ミルには俺とミルが投擲した武器の回収を任せる。ミルもかなりの量の投擲武器を隠し持っている。
俺はゴブリンの遺体を見て回る役を自分に課す。ほとんどのゴブリンは息絶えているが、中にはまだ息をしている者もいる。特にミスリルで攻撃されたゴブリンは激痛にもだえている。俺はまだ息のあるゴブリンたちにとどめを刺して回る仕事だ。
ゴブリンは醜悪で邪悪。これは間違いない。
仲間意識も家族の意識も無い種族だ。
己の快楽をのみ求める特性しか持っていない。その為に他の生き物がどんなに苦しもうが・・・・・・いや、苦しめば苦しむほど喜ぶような種族なんだ。同情の余地無く殲滅、絶滅すべき種族である。青い血も、ゴブリンが地上の生物では無いのではと言われる
だが、それでも俺はゴブリンたちが無駄に苦しむのはイヤだった。
そんな特性を持って生まれてしまった為に、憎まれ、嫌われ、その存在自体を許してはもらえない種族だ。ある意味悲しい種族だと言える。同情はしないが、楽にしてやれるならそれが良い。
「お兄ちゃん、優しいんだね」
ミルが俺のやる事をじっと見ている。
「そんなんじゃ無いよ。ただ、俺がこいつらみたいに、苦しむ姿を見て喜ぶような人間にはなりたくないだけだよ」
「ふ~~ん」
ミルは下から見上げるようにのぞき込むと、俺の頬を優しくなでる。
「お兄ちゃんはやっぱり優しいんだよ!ミルは・・・・・・あたしはそんなお兄ちゃんが大好きだよ!」
お互いに手も体も、血と泥にまみれている。俺の周りにはゴブリンの死体がゴロゴロしている。実に血なまぐさい。にもかかわらず、この子の笑顔に少し心が癒やされた。
「でも、くっさいね~~」
ミルが俺や自分の体の匂いをかいで顔をしかめる。
血と泥とにまみれていて、みんな全身雨でびしょ濡れだ。
いろんな匂いが体中からする。
「ああ。臭いな」
俺とミルが笑い合う。雨はもうじき上がりそうだ。
「ワオオオオオオオオオーーーーン!!!」
「!!??」
遠吠えだ!?意外と近い!!
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