白竜の棲む山  襲撃 3

 キャンプのたき火には火を残したまま、俺たちは静かに雨降る外に出る。タープの中にはミルだけ残していく。ミルはタープの中で楽しそうに歌っていてもらう。おとり役だ。ミルなら敵の攻撃に対して、誰よりも早く反応できるし、ゴブリンの攻撃を回避する事もわけない。


 俺は長い下草を利用して、敵の予測進路の側面に隠れる。リラさんは反対側に待機しているはずだ。

 ファーンは・・・・・・うん。俺のすぐ後ろに張り付いている。当然武器は構えていない。雨なので手帳も手にしていない。


 ゴブリンたちは無言ではあるが、ドチャドチャ、ガサガサと雨の中なのに賑やかに歩いてくる。キャンプが視認できたら我先にと走り出すに違いない。知能が低いので無策でツッコんで行くだろう。


 俺は目の前を通過していくゴブリンの数を数える。

1、2、3、4、5、6、7、8、9。9体通過したら後は3体。それなら1人で対応できる。


 俺は10体目が通過する直前に飛び出して、剣を振り抜きゴブリン1体ののどを切り裂く。すかさず足の投げナイフを抜き、後続のゴブリンに投げつける。ナイフはゴブリンの目に刺さり、動きを止める。その間に俺は一気に間合いを詰めると、剣でゴブリンの胸板を貫く。


 最後尾のゴブリンがようやく反応を示す。仲間がやられた衝撃が去ると、目に残忍な光を宿らせて、殺せる獲物が飛び出してきたことに喜んでいるようだ。

 モンスター共の特徴として、自分は殺す側で、殺される事など微塵も考えない。殺せる喜びだけを感じるようだ。

 信じがたい程、嫌悪に値する種族だ。


 胸板を貫いた剣は簡単には抜けないので、すぐに剣から手を離すと、腕の小手の内側に装備している短刀を抜くと、ゴブリンが振りかざすクワ(これはきっと襲った村から盗んだ物だろう)の柄を切り払う。同時にゴブリンに左の肘を叩き込む。小柄なゴブリンは吹き飛ばされる。


 俺は短刀を左に持ち替え、右手には腰の後ろに装備しているミスリル製にグレードアップした剣鉈を持つ。その剣鉈を倒れているゴブリンの腹に叩き込む。ミスリルはゴブリンにとって猛毒である。

 ゴブリンは「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!」と汚い叫び声を上げて悶絶する。

 こうなるともう反撃も出来ずにじきに死んでしまうだろう。放って置いても問題ないのだが、俺は近づくと短刀でのどを切り裂いてとどめを刺す。

「カシムは無駄に優しいな」

 ファーンが俺の剣を回収して来てくれる。

「そんなんじゃない」 

 俺はそれだけ返すと、剣を受け取る。


 異常に気付いたゴブリンの後続数体がこっちに向かって坂を駆け上って来た。前半分はキャンプに向かって走って行ったようだ。


『セメテル!!』


 リラさんの暗視魔法が発動し、周囲がボンヤリ明るく見える。これでファーンやリラさんは動きやすくなるだろう。


 俺は短刀を収納し、剣を右手、剣鉈を左手に装備し直すと、リラさんと合流して、前面に俺、背後にリラさんとファーンを背負う隊形を取る。

 前からゴブリン5体が、棍棒や農具を構えてにじり寄ってくる。

 ゴブリンがリラさんを見た時に好色そうに笑ったことで、急速に怒りが沸き起こる。

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 俺は雄叫びを上げて、ゴブリンに切り込んでいった。



 俺たちは戦いながらキャンプの方にじりじりと押していった。

 俺の剣で2体。リラさんの風魔法で1体を倒した。

 ファーンも大戦果で、俺に「やれー!」「そこだー!」「ぶっさせー!」と何度も声援?いや野次か?を送る事に成功していた。たいした奴だと感心する。後で誉めてやろう。


 キャンプが見えると、タープが無残に引き裂かれていた。だが、ミルの姿はそこには無く、2体のゴブリンがたき火に照らされる位置で絶命していた。

 ミルの武器「望月丸」もミスリル製だ。ミスリル武器は別名「ゴブリン殺し」と呼ばれている。


「おまたせ、お兄ちゃん!」

 ミルがいつの間にか俺の右側に、距離を置いて立っていた。これで隊形が整った。

 俺とミルが前衛。後衛にリラさんとファーンだ。

 残りのゴブリンは4体。ゴブリンは数が減ってもそれで動揺する事が無い。常に奪う側の思考しか無いのだろう。下卑た笑いを浮かべている。

 ジリジリと距離を詰めて来る。油断しなければこの数なら問題ないだろう。

 そう思っていた時だ。



「おい!あっちだあっち!!」

 ファーンが叫ぶ。慌ててファーンの方を見ると、背後を指さしている。その瞬間、矢が飛んできた。その矢がリラさんの腕に刺さる。

「きゃああああっ!?」

 リラさんが倒れ込む。俺は急いでリラさんに駆け寄り庇いつつ、ケガの具合を見る。粗雑な矢が左腕に突き刺さっている。俺は慎重に、だが素早く矢を抜き取る。

「ああっ!」

 リラさんが声を漏らす。


 ゴブリンの放った矢のやじりを見る。石の鏃だ。毒は無いようだが、ゴブリンの矢だ。雑菌まみれなはずだ。急いで治療した方が良い。


 状況を把握すべく、「無明」を全開にする。一瞬無防備になってしまうが状況は把握できた。

 いつの間にかゴブリンの増援が来ていた。数は20体。おまけに今度の奴は弓矢や斧を装備している奴もいる。いずれも人間から奪った武器だろう。矢だけは消耗品なので、ゴブリンが作った物だ。


「ファーン!『探究者』は一時中止だ!」

「何でだよ!!」

 この状況でもファーンは探究者にこだわる。

「今はパーティーの仲間として行動してくれ。頼む」

 俺がそう言うと、ファーンは渋々といった風に「わかったよ」と言う。

「少しの間で良いから、リラさんを守ってくれ。俺とミルでゴブリンたちを引き付ける。その間にリラさんは傷を治療してください!」

「分かりました。すみません」

 リラさんは言うが早いか、すぐに魔法の詠唱を始める。

 そして、ファーンも腰の2本のダガーを引き抜く。

 ミルは前方の4体に向かい、俺は後続の20体のゴブリンに向かって突っ込んでいく。

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