白竜の棲む山  襲撃 2

 太い薪はファーンのリュックに入れておいた物を使う事にする。

 薪までしめっている物を使うとなると手間が増えるし、煙が結構すごいのでやめる。次の村までも近いから出し惜しまないで簡単に済まそう。

 表面を拭いて湿気をとった石の上に、保管用の缶から取り出した着火用の圧縮綿を置いて、火打ち金で火をつける。綿はギュウギュウに圧縮してあるので、燃え尽きるまで多少の時間が掛かる。時間をかけて火力も強いので大抵はこれで火がつく。ただし湿気た小枝なので煙は多い。


 レベル1魔法で構成された「生活魔法」と呼ばれる魔法群に、着火の魔法がある。非常に便利だが、リラさんは使えないし、ミルは使わないらしい。

 便利だが、多少手間を駆ければ問題なく火起こし出来るから必須では無いよな。


 俺が火をつけている間に他のメンバーは順番で乾いた服に着替えて濡れた髪や体を拭く。

 かまどの火が充分に安定したところで、俺も着替える。

 濡れたマントと服をロープに掛けて、乾いた服を着ると人心地がつける。


 俺が着替え終わった頃には、リラさんが食事の準備を始めている。ちなみに、リラさんだけは着替えても同じ服だ。同じ服を3着持っているらしい。

 宿屋で寝る時は、丈の長いワンピースだが、それ以外は同じデザインの服である。細部は違うが、言われないとわからない。


 そんなリラさんのスープ作りを俺も手伝う。

 料理が出来ないファーンとミルは寝床の準備だ。と言っても、組み立て式の簡易ベッドが有るので、それを組み立てるだけだ。

 普通ならこんな物、かさばるし重いし持ち歩きたくないが、なんといってもファーンのリュックがある。そうなると、とたんに便利な道具になるので、我がパーティーはそれを使っている。こんな雨の時には快適だ。

 

 それから少しして食事が出来上がった。今夜のメニューは野菜たっぷりのスープに、魚の香味焼き。それから卵を使ったリゾットだ。雨なのでせめて食事を豪華にする。

 夏とは言え、雨に濡れた体は少し寒く、日が落ちてきたら火にあたり温かいスープを飲むとホッとする。体に体温が戻ってくると心も軽くなってくる。


 リラさんが笛を取り出して演奏し出す。するとそれに合わせてミルが勝手に歌詞を付けて歌い出す。


 リラさんもミルも、雨でも、その天気をまるで愛おしんでいるかのように楽しんでいるようだ。

 俺とファーンは濡れるし冷えるし、何か色々面倒くさいので嫌な気分になる。その差が精霊が見えるほどの感受性の差なのだろうか?

 そんな事を考えていると、タープに落ちてくる雨の音が何だか心地よく感じてきた。



 と、突然リンリンと鈴の鳴る音が鳴り響く。

「アラームだ!!」

 俺が小声で叫ぶ。みんなすぐに立ち上がり武器を手にする。キャンプ中も武器、防具は常に身に着けておくのが鉄則だ。みんなの反応は早い。

 これまでの旅路で、野獣や魔獣と遭遇しても、たいていの場合は逃げてやり過ごしてきた。

 だが、逃げられない場合、相手が敵意を持って襲ってきた場合は、撃退したり、仕留めたりもしてきたので、仲間同士の力量は把握している。

 役割分担や、連携にはまだまだ課題が多いが、まだ結成1ヶ月程度の低ランクパーティーだ。仕方が無いだろう。


「どっちから?!」

 アラーム魔法は、侵入者の侵入エリアの判別も出来る。リラさんはすぐに一方行を杖で指し示す。道と反対の茂みや木々が生い茂る斜面の上の方だ。

「数は10以上。人型です!!距離300メートル!」

 緊迫した声でリラさんが告げる。

「見てくる!」

 ミルが身を翻す。

「気を付けろよ」

「うん」

 返事だけ残してミルが視界から消える。

 ハイエルフは夜目が利く。暗さも雨も障害にならないどころか、敵から姿を隠してくれる味方になる。


 俺も暗さは問題にならない。だが、ファーンはハーフエルフだが、人間のリラさんと暗闇での視力は変わらない。

「リラさん、『暗視魔法』の準備をしておいてください」

 俺が言うとリラさんは頷き、魔法の予備詠唱を始める。



「ただいま、お兄ちゃん」

 緊張感の無い明るい声でミルが戻ってくる。さすがに早いな。

「敵はゴブリン12体。装備は棍棒と農具だけ。隊列も無くゾロゾロとこっちに来てるよ」

「了解した。じゃあ、迎撃するぞ。相手はゴブリンだ。必ず全滅させなくてはいけない。いいな」

「おう!」

「はい!」

「うん!」



 ゴブリンは全世界共通の認識で「モンスター」、つまり地上世界の住人に明らかな害意を持つ敵性生物である。


 見た目は小柄で頭髪も無く、尖った鼻と耳、裂けた口に小さい牙、緑色の皮膚を持つ人型の生き物だ。

 人間を食い物や性奴隷としてしか見ておらず、度々人を襲って食ったり犯したり、残虐行為を嬉々として行う種族だ。

 独自の言葉はある様だが、地上人と意思疎通に使ったり、最低限の社会的ルールを守る事もしない。

 知能は低く、残忍で貪欲。腹が減ると仲間でも家族でも(家族がいるならばだが)平気で食べる。力は人間より弱いが、凶暴である。


 彼らは食べる為に殺すのでは無く、快楽の為に殺し、いたぶる。その邪悪な性質から、地獄勢力が作り出したのでは無いかと噂されているのだ。


 繁殖力が何故か異常に高い様で、どれだけ討伐されても、沸いてくるようにまた出現するのである。それにもかかわらず、何故か雄の個体しか存在は確認されていない。

 人々の安全を守る為、群れは必ず全滅させる必要があるのだ。


 ゴブリンを討伐した際には右耳をそぎ落としていけば、数に応じてギルドから報酬が出る。

 だが、俺たちはしばらくギルドに寄る予定は無いので、今回は殲滅に徹する事にする。

 と、簡単そうに言うが、ゴブリンといっても甘く見てはいけない。数でも俺たちの方が劣るので、全力を尽くさなければならない相手だ。

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