白竜の棲む山 竜 1
どの位意識を失っていたのか?
俺が目を開けてもなお、そこは真の暗闇だった。とは言え、俺にとって暗闇は苦ではない。
だが、ちょっと起き上がれない。体を起こそうとしたとたんに体中に激しい痛みが走る。
「指・・・・・・。動く。腕は?・・・・・・無事だ。足は?・・・・・・折れてはいないな」
一つ一つ俺は体に異常はないか確かめる。どうやらあちこち派手にぶつけてはいるが、何処も異常は無いようだった。
「フ~~~~」
俺はため息をつくと、体中の痛みを我慢しながら体を起こす。
「確か回復ポーションがあったはずだけど・・・・・・。まあ、割れてるよな」
ケガを少し治すことが出来る魔法薬だ。飲んでも体にかけても効果があるのだが、ウエストバッグに入れていた為、転がり落ちた衝撃で瓶が割れてしまっていた。
一応冒険者が使うので、簡単には割れない造りになっているのだが・・・・・・。
仕方が無いので、軟膏を出して、特に痛みがひどい箇所に塗りつける。これも魔法薬なので、痛みが多少だがすぐに和らいでくる。これで少しはマシになった。
「ヨシッ!」
俺は気合いを入れて立ち上がると、近くに落ちていた俺の剣を拾う。
「良かった。折れたり曲がったりもしていない」
頑丈に作ってくれたガトーに感謝だ。額当てはなくしてしまったようだ。恐らく落下中にどこかに引っかけたのだろう。
周囲の状況を確認する。
落ちてきた穴は、途中で溝の様な裂け目に変わっていたようで、狭い穴だったのに、横に広い、かなりの急斜面を転がってきたことになる。もう何処から落ちてきたのか分からない。それに登るのは困難だから、よじ登るのはやめておこう。
大声で助けを求めるのもマズイ。この洞窟には肉食の野獣が沢山いるんだ。しかも俺はだいぶ落ちてきたから、強力な野獣が多いエリアだ。
このまま1人で進むしかなさそうだ。
仲間たちは約束通り洞窟の入り口で待っていてくれるだろうか?そして、俺が戻らなければ、村に戻って救援隊を組織するかも知れない。でも、これでいい。
誰も巻き込まずに俺は役目を果たせる。
「あいつら、怒るだろうな・・・・・・」
ファーンの怒る顔、リラさんの悲しむ顔、ミルが泣く顔が見える気がした。少し淋しいが、最善の道だ。
俺は震える足に力を入れると、ゆっくりと歩き出した。
「あいつは、時々バカだから、絶対にオレたちが村に引き返したとか思ってるんだぜ!馬鹿にしやがって!次に会ったら殴ってやる!!」
ファーンが勝手に想像して怒っている。
「私もカシム君がそう思ってるとは思うけど、殴ったらダメよ」
リラが
「そうだよ!ファーンだけ殴ったらダメだよ!みんなで殴ろーーーー!」
「うふふ。それなら良いわね」
「だな!」
3人で笑う。
「まあ、どの道を進もうが、あいつの行き先は分かってる。最初っから悩む必要なんか無かったって訳だ」
「行きましょう!最深部へ!」
3人が盛り上がるのを、少し離れてついてきているランダがため息をついて見ている。
「おう。ランダさんよ。あんたもカシムには振り回されっぱなし何だろ?同情するぜ!」
ファーンがランダに声をかける。
「確かにな。俺はカシムが1人で旅すると思っていた。なのに仲間が3人にも増えた。しかもそこの女の支援魔法で俺の監視魔法が阻害されてしまった。おかげで追跡が困難になった。おまけにそこのハイエルフだ・・・・・・」
「おいおい。あんたがどんだけ凄い冒険者だろうとな、『女』だの『ハイエルフ』だのって呼ぶのは気にくわないぜ!ちゃんと名前で呼んでくれよな。呼び捨てで良いからさ」
するとランダがまたため息をつく。
「俺はお前たちの仲間ではない」
「でも、同じ冒険者という意味では仲間ですわ、ランダさん」
リラが微笑む。またランダがため息をついて首を振る。
「ランダでいい。・・・・・・リラ」
「ふふふ。よろしくお願いします、ランダ」
「いいなぁ!あたしもミルって呼んで?ランダ!」
「・・・・・・俺はこういうのが苦手なんだ。ほっといてくれないか?」
ランダはグイグイ来るミルが苦手なようで、明らかに不快そうに顔をゆがめる。ミルが言う通り、優しい顔をする時など来るのだろうか?ファーンとリラが首を傾げる。
「わかったよ!そういう奴も結構いるからな。悪かったよ。おい、ミル!あんまりしつこくしてやるなよ!」
ファーンは物わかりが良い。
「スマンな」
ランダも礼を口にする。
ミルは「ブーブー」言いながら頬を膨らませている。
「さあ、どんどん先に進みましょ!」
リラが先頭に出る。とは言え、ほぼ3人が団子状態で進んでいる。隊形も何もあったものでは無い。
「張り切ってるな~」
「それはそうよ。私の魔法でカシム君を助けてあげるんだから!」
リラが「フンッ」と気を吐く。
「それならあたしの速さでお兄ちゃんを助けるモン!」
「そこ!張り合うなよ!」
「私は張り合ってないわよ。ミルが勝手に言ってるだけよ」
「ああ!ミルのこと子ども扱いした!!」
「・・・・・・でも、自分のこと時々『ミル』って言ってるしなぁ・・・・・・」
ファーンが笑う。だが、ミルは言い返したりせずに不敵に笑う。
「フフン。みんな知らないようだから言っておくけどね。ハイエルフって大人になるまでは人間と同じ速さで成長するんだよ。つまり、後2、3年もすれば、あたしも『ボンッ』『キュッ』『ボンッ』な大人のハイエルフになるんだよ!」
これは衝撃的な発言だった。2人は絶句して顔を見合わせる。
特にリラにとっては衝撃が強すぎる。大人のハイエルフなんて、反則級の美人確定ではないか。それがカシムの嫁になろうと積極的な行動に出たら・・・・・・。
2人は恐る恐るランダの方を見る。ランダは第三世代のエルフだ。
「・・・・・・なんで俺を見る」
ランダが不快そうに
「だって、ランダならハイエルフの事情にも詳しいかと思ったのですから・・・・・・」
リラの哀願にランダはまたしてもため息をつく。そして短く答える。
「事実だ」
ミルが勝ち誇り、リラがしおれていく。
「全く気楽な奴らだ・・・・・・」
ランダが口の中で文句を言う。
「お出ましだぞ」
ランダの声に、3人の反応は早かった。
ファーンも素早くダガーを抜いて構える。
「あれ?ファーン?」
ミルの隣に立つファーンに、ミルが驚きの声を上げる。
「あなたが積極的に戦闘するなんて珍しいわね」
リラも驚きの声を上げる。
「オレは探究者だからな!」
「だから探究者って何よ!?」
「探究者は『観る者』だ!今は観るべき対象のカシムがいない!って事は、オレは仲間の為に剣を振るう!!本当はダメなんだけどな」
ファーンが出現した野獣に向かって走って行く。出現したのは「ジャイアントトード」だ。つまり巨大ガエルである。
「ぎぃやあああああああああああ!!??」
突進していったファーンが絶叫しながら急ブレーキする。ファーンはカエルが苦手だった。そのファーンをジャイアントトードの舌が打ちのめす。ファーンはあっさりと吹き飛ばされて、地面を転がりながらリラたちの元に帰ってくる。
「「・・・・・・」」
「・・・・・・でもほら、オレ、レベル3だし・・・・・・」
「役立たずだね~~~」
「そうね・・・・・・」
リラとミルに断じられて、ファーンがふてくされる。
「それなら!」
「あたしたちが手柄を立てちゃうよ~~~!」
リラが魔法を唱え、ミルが刀を抜いてカエルに飛びかかる。
「・・・・・・やれやれ、張り切っちゃって。可愛いねぇ。・・・・・・で、あんたは戦わないのかい?ランダ」
ファーンが寝転がったままランダを仰ぎ見る。
「俺の受けた依頼は『カシムの監視』と『カシムの護衛』だ。お前たちの護衛は含まれてない」
それを聞いてもファーンは腹を立てたりしないで、ゆっくりと起き上がると「ヒヒヒ」と笑う。
「ま、そう言うと思ってたよ。あんたもプロだもんな!それでいい!!」
そう言うと懲りずにカエルに向かって走って行く。
「ぎぃやああああああああ!!やっぱ無理!!」
だが、またすぐにはじき飛ばされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます