白竜の棲む山 襲撃 1
翌日、4月32日は朝からの雨だった。
俺たちは白竜祭に間に合うように、センネの町を朝早くに出発した。
雨が降ると特殊な油をしみこませたマントを被って旅をするが、結構重くなるし、雨がひどくなると染み込んでくるので、雨の旅は結構気が滅入る。ただ、「月視の背嚢」のおかげで荷物がほとんど無いのが救いだ。月視の背嚢は、防水性もかなり優れているので、収納品が濡れる事はまず無い。
足元も悪くなり、歩きにくい。リラさんはサンダルだから足が泥まみれになってしまう。それでも、馬車を借りようと提案したら、勿体ないからと却下されてしまった。
まあ、リラさんは雨の中でも何だか楽しそうに歩いているし、ミルは元気いっぱいだ。ハイエルフは濡れても風邪引かないので、時々フードを外して雨を浴びたがる。で、カエルを捕まえて来たりする。
「うお!カエルとか苦手なんだよぉ~」
ファーンがうなる。
「ファーンってばおかしいの!可愛いのに!」
ミルがキャッキャと笑って、ファーンにカエルを突き出す。 本当に小さいカエルなので可愛いもんなんだが、ファーンは明らかに嫌そうに身を引く。
「ギエエエッ!!やめてくれ!何かヌルヌルした感じの奴はイヤなんだよぉ」
ファーンが本気で嫌そうにしている。意外な弱点だ。いいぞ、ミル。もっとやれ!
「こぉら、ミル!嫌がってるんだからやめてあげなさい」
リルさんがミルを優しく
「はぁい。ごめんなさい」
ミルってすごく素直だよな。無邪気で素直で、良い子だよな。ちょっと甘えん坊というか、隙を見せられないところはあるが・・・・・・。
今、ミルは宿屋で同部屋泊まりとなると、リラさんと2人で少し離れて寝ている。これは油断するとすぐに俺の布団に侵入してくる為だ。
リラさんが見張りを兼ねてミルと一緒に寝ている。なので、俺はファーンと隣り合って寝る事が多い。
最初は女の人との同部屋には戸惑いがあったが、野宿ではみんな一緒なので、さすがに
大体の冒険者たちは、衝立だけで同部屋泊まりは当たり前らしい。高ランクの冒険者ともなると話しは違ってくるそうだが・・・・・・。
「リラはカエル怖がらないの?」
ミルがリラにカエルを差し出すが、リラさんはカエルの背中を優しくなでて微笑む。
「私って森育ちだから全然よ」
するとミルが頬をブ~~~~~ッと膨らませる。
「つまんないの!!」
「あっ。さては本当は私を怖がらせようとしたんでしょ?!」 リラさんがミルを叱る。
「ちっがうよ~~だ!」
ミルが猛烈な勢いで逃げていった。
「まったくもう!」
リラさんが頬を膨らませる。仲が良いんだか、悪いんだか。
まあ、姉妹のようにも見えるやりとりに、雨で気が滅入っていたが、思わず頬が緩む。
しかし、あの「森の至宝」はしょっちゅうパーティーメンバーから見えない所に行ってしまうが、あれは良いのだろうか?もう少し守りやすい場所にいて欲しいのだけど・・・・・・。まあ、斥候は盗賊としての仕事なんだし、いいのかな?
夜が近づいてきた。雨だし、視界もどんどん悪くなる。こうなると早めにキャンプの設営をしなければならない。
ミルに頼んで野営しやすそうな場所を探して来てもらう。 しばらくするとミルが駆け戻ってくる。道を少し外れた辺りに木立があるとの事だ。
ミルの案内で木立に着いた。
丘になっていて、木がまばらに生えていて、茂みもあるが、キャンプには充分だ。
俺とファーンでキャンプの設営を担当する。
リラさんはキャンプの周囲にアラームの魔法を掛けに行く。この魔法は、周囲に魔法の糸を張り巡らせるようにして、その糸に何かが触れると反応してキャンプで警報が鳴る魔法だ。上手い具合、糸を張る場所を選定しないと、役に立たなくなるので、そこは術者のセンスが求められるが、リラさんはその点的確だ。
ミルはリラさんのサポート兼、薪拾いだ。小枝を集めてきてもらう。
キャンプの設営はタープ張りからだ。まずは適当な間隔の木にロープをピンと張り、その上にタープを乗せて、四隅をロープで張ってペグを地面に打つと、屋根の形となる。その屋根の下にも、もう1本ロープを張る。ここには濡れたマントを掛けて干す事が出来る。
タープの縁に沿って溝を掘って、地面を流れる雨水がタープの内側に入ってこないようにする。
下草の長いところは刈り取ってしまう。
次に火起こしの準備をする。地面を掘って、掘った土を淵に盛る。小石を拾い集めて掘った穴に敷き詰める。少し大きめの石は淵に重ねてかまどを作る。
俺がかまどを作っている間に、ファーンが張ったタープの三角に広く空いた側面部分に、壁となるタープを取り付ける。更に上手い具合に小さい間仕切りを作る。ここで1人ずつ乾いた服に着替えたり出来る。
ここまでで2人で分担すると10分程度で出来る。
そうしている内にリラさんとミルが帰ってくる。
「ただいま~」
ミルはそこそこの量の小枝を集めてきてくれた。どれも濡れそぼっているが、油を染み込ませた圧縮綿が有るので、火を付ける事は可能だ。
出来るだけ細い小枝を厳選して、まとめて持ち、出来るだけ水気を飛ばすべく振る。振る。振る。
そして、適当な長さに折ったらかまどに並べる。横に寝かせて置くのでは無く、縦に木が立つように並べる。そうすると火が着いた時に下から上に火が効率よく燃え広がっていく。
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