白竜の棲む山  二人の買い物 4

「私、さっきも言いましたが、第三級神になったばかりなのですが、今は魔法開発が神にとって一番重要な仕事となっております。そこで、私も魔法を開発したのですが、知名度が無い為、あまり使ってくれる人がいないのです。だから、直接魔法屋に、私の魔法を店に置いて宣伝して欲しいと頼んでいるのですが、なかなか親切にしてくれる人がいないのです」

 低級神が、魔法屋に直接魔法を売り込みに来るのは、最近では珍しくないという。

 とはいえ、こうして直接それに遭遇した事はリラも初めてだ。

 あまり無名な神の魔法は、客に紹介したくないというのが魔法屋の本音だし、契約補助の手間を新しく魔法屋も覚える必要があり、言ってしまえばメジャーな神以外の魔法を扱うのは面倒なのだ。


「だから、どうかな。お嬢さんは魔法が使えるのだから、私の魔法を一つ覚えていってもらっては?」

 メセテルがそう言うと、店の女主人が怒鳴る。

「勝手に客を取らないでおくれ!!」

 老婆の怒声に、メセテルは肩を縮めて「ひえっ」と叫ぶ。かなり気の弱い神である。

「ねえ、この人本当に神様なの?!」

 あきれ顔のミルが老婆に尋ねる。

「ん~~~。まあ、それは本当みたいだねぇ」

 老婆もあきれ顔になる。第一級神ともなれば、人々は畏れ敬う。第二級神でも同様に畏れ入る。第三級神でも、威厳のある神様は少なくない。

「あ~~。じゃあ、魔法代は主人に払ってあげてくれますか?安くするから」

 メセテルがそう言うと、また老婆がメセテルに怒鳴る。

「魔法の値引きは違法だよ!!」

 闘神王グラーダ三世と神と魔神の契約で、魔法の値段の値引きは違法なので、何処の国でも同じ値段で同じ魔法が買えるようになっている。

 自分で開発したり研究したりする分にはいいが、弟子に無料で教える事も違法だ。必ず魔法屋なり師匠にも代金を支払わなければならない。もちろん法の抜け道は存在するが・・・・・・。


「じゃあさ、契約の儀式はサービスで私が補助するよ。それなら良いだろう?」

 メセテルが老婆に確認すると、不機嫌そうに老婆が鼻を鳴らした。魔法を店に置かなくても、魔法の代金が入るならそれでいいし、契約補助しないで済むなら自分も助かる。

「それで、どんな魔法があるのですか?」

 リラがため息交じりに尋ねると、メセテルはリラに尋ねる。

「お嬢さんは見たところ吟遊詩人だね。とすると支援系の魔法が良いのでしょう?レベルは?」

「11です」

 リラの答えにメセテルが胸をなで下ろす。

「良かった~~。私の開発した魔法はちょうどお嬢さんに向いている」

 もし、向いていない物を勧められたら断れると思っていたリラは、少しガッカリする。

「私の開発した魔法の一つに、暗闇でも目が見える様になる魔法がある。ダンジョンに入る冒険者にとっては助けになるのでは無いかな?」

 メセテルが得意げに言うが、そういった魔法は多くの神が作っている。


「ナイトヴィジョン系の魔法ですか?だったらゼウス様やヴィーナス様の魔法が有名ですが?」

 リラの指摘に、メセテルが嘆きの叫び声を上げる。

「ああああああ~~~!だからみんな私の魔法に見向きもしてくれないんだよ!」

 リラがため息をつく。

「わかりました。話しを続けて下さい」

 メセテルが自信なさげな小さい声で話しを続けた。


「私の魔法は、暗くてもちょっと困らないぐらいに目が見える程度なんだ。でもそれだけに、消費魔力がゼウス様やヴィーナス様のナイトビジョンよりも少ないし、契約も簡単だ。しかも広範囲の対象に魔法を掛ける事が出来るから、レイド戦とか、大勢でダンジョンに潜る時に便利なんだよ。それなのに、魔法のレベルが2だから、値段も安いよ」

 魔法の種類や効果などによって、神や魔神が魔法にレベルを設定していて、それによって価格も違ってくる。

 基本的にはレベル1から10まである。それ以上の魔法は超級魔法、超位魔法と呼ばれている。

 また、魔法改革以前の、かなり複雑で習得困難な魔法も存在する。古い魔法使いは、そうした魔法を幾つも知っている。



「レベル2って事はデメリットもあるって事ですよね?」

 リラの追求に、メセテルが怯む。

「も、もちろんそうだよ。言おうと思ってたんだ。つまりね、その・・・・・・光の調節に弱いので、急に松明の火とか、明かりを見ると眩しくて目が眩むんだ」

 その言葉にリラは首を振る。

「じゃあ、いらないです」

「ああああ~~~~!そんな事言わないで下さい!!眩むと言っても、ちょっとなんですよ。明かりにもすぐに慣れるようになってますから、試しに使ってみて下さい。気に入らなければ契約解除しても構いませんから~~~」

 メセテルが泣き崩れる。

 あまりにも情けない神の姿に、リラが額を抑える。


 どうせ覚えるなら、光の明暗に対応できる第一級神のナイトヴィジョンが欲しいが、そうなると魔法レベルが4以上になり値段が跳ね上がる。それに、今のリラでは契約に成功するとは思えない。

 多少のデメリットがあっても、値段が安く、何より開発した神が直接契約補助をしてくれるなら、魔法を覚えられる可能性が高くなる。

 契約を解除すれば、魔法を使っていなくても消費される、ごく微量の魔力消費を無くせるし、もう一度契約し直すのも容易たやすい。

「レベル2の魔法だったら200ペルナーですよね?」

 メセテルが頷く。

 リラは今回一本150ペルナーもするポーションを2本買いに来ている。カシムの金を使うわけには行かないので、自分の財布と相談する。レベル4の魔法だと10倍の値段にもなる。

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