白竜の棲む山  白竜祭 3

 夜になった。

 全員が防寒具を並べて、慣れない防寒具の着方をチェックする。インナーとかマフラーとかも。

 ミルは少し厚めのマントだけで大丈夫と言うことだ。ハイエルフは暑さ、寒さにも強いらしい。感じるのだけど、それで辛くなることは無いらしくて、出来るだけ身軽にしておきたいそうだ。ハイエルフってすごいなぁ。


 

 そして、今夜は祭りだ。俺たちは広場に繰り出した。祭りなので、装備は置いて身軽な恰好になっている。とは言え、リラさんとミルはいつもの恰好と大差ない。

 広場には篝火が焚かれていて、明るい。舞台の横のテーブルには食事が山盛りになっていて、誰でも好きにとって食べて良いそうだ。俺たちも遠慮せずに食事をごちそうになる。

 その代わりに俺たちは村人に冒険の話しをしたり、魔法を見せたりする。

 俺は「無明」の技を使っての目隠し投げナイフを見せて村人たちを喜ばせることに成功した。投擲ばかりが得意な「戦士」ってどうなのかとも思うが・・・・・・。


 だが、なんと言っても、一番村人が喜んだのはリラさんの歌だった。村人みんなに請われて舞台に上がったリラさんは、精霊そのもののような神々しさで、しっとりと歌を歌い上げる。

 更に、俺が昼間おばちゃんに聞いたカルピエッタの話しも知っていたようで、しっかりと物語を歌い上げたもんだから、村人はみんな大喜びしていた。おかげで、俺たちへの待遇もとても良かった。

 ミルは村の子どもたちと同じ踊りの衣装を着せてもらって、みんなに交じって踊りを楽しんでいた。白に青の模様が入った可愛らしい服だ。リボンが沢山付いた長いスカートが普段のミルとギャップがあって、ミルがおしとやかな女の子に見える。実際、この衣装を見せに来た時のミルは恥ずかしそうにかしこまっていてとても可愛かった。


 広場の白竜像も頭と翼が取り付けられていて、それっぽく見える。

 ファーンは子どもたちに人気で、もみくちゃにされていた。

 俺たちはその夜を楽しんだ。

 


 そして、翌日。5月1日は朝から太鼓の音が村に鳴り響き、村の若い衆が大きな車輪の付いた荷車に、ワラで出来た白竜像を乗せ、山車だしにして村中を引いて回る。

 村を隅々まで3周するらしく、中々大変そうだが、みんな生き生きと、汗びっしょりになりながら引いている。途中途中休憩をして、その間に願い事を書いた木札を村人たちが刺しに来る。

 俺たちも木札をもらったので、それぞれに願い事を書く。ファーンは当然「マスターになる」だし、リラさんは「歌を見つけたい」。ミルは「忍者マスターになりたい」と「カシムお兄ちゃんと結婚する」の2つだ。

 みんなそれぞれ冒険者としての願いを書いている。だが、俺は迷う。何と書いたら良いのだろうか?


 ファーンにも言われたが、俺は俺の冒険者としてやりたいことを見つけなければいけない。いや、見つけたいのだ。

 でも、俺には本当に未来は有るのだろうか?有ったとして、この先、何の為に冒険するのか?俺の願いは何なのか?

 ファーンに言われた時から、実はずっと考えている。俺の願い。叶えたい強い願い。

 それは竜騎士になることか?アクシスの願いを叶える事か?祖父のような立派な騎士になることか?


 俺が真面目に悩んでいると、ファーンがやってきた。

「何だよ!まだ決まんないのかよ!オレが代わりに書いてやる!」

 ファーンが俺から木札を奪っていった。

「おい!」

 俺が追いかけていって奪い返したが、遅かった。

『大きいおっぱいが好きです。カシム』

「ふざけんなーーーーー!!!」

 怒鳴った俺から、ミルが盗賊らしくすごい速さで木札を奪っていき、リラさんに告げ口する。固まる俺の方をリラさんが見てにっこり微笑んで、無言で木札を山車にぶっ刺した。

 終わった・・・・・・。


 結局新しくもらった木札には「仲間と旅を楽しく続けたい」と書いた。

「つまんねぇけど、悪くないな」

 ファーンがそう評する。

「あたしもずっとみんなと一緒にいたいな~」

 ミルはそう言うが、ハイエルフの「ずっと」ってどの位なのだろうか?

 リラさんには怖くて近寄れないので、見せていない。そのまま山車に刺して封印。


 夜になると、山車は村はずれに引っ張り出されて、太鼓の演奏と踊りの後、踊りの衣装を着た子どもたちが山車に火を着ける。ミルもそれに混ぜてもらっていた。

 白竜像が勢いよく燃えていく。炎と煙が俺たちや村のみんなの願いを白竜に届けてくれることだろう。

 そうしみじみと思って眺めていたら、村の上空で、煙が緑色に輝きながら広がり、無数の流れ星のように光の尾を引きながら白竜山に飛んでいった。俺は思わず息を呑む。

 そうか。この村は真実白竜に守護されていたんだ。でなければ、こんな辺境で柵がいらない訳が無い。魔法障壁のように、白竜の力がこの村を包み込んでいたんだ。

 そして、この祭りの事もちゃんと見ていて、本当に村人の願いも受け取っていたんだ。だから、みんな「願い」と言いながら決意表明のような物を書いていたんだ。

 俺は感動に打ち震えた。

 創世竜の力の一端を見ることが出来た。そして、白竜に慈悲の心があること、いつくしむ心があることを知った。それが俺たちにとっての一縷いちるの望みになる。

 俺は明日、白竜山で白竜に対面する。そして話をして生きて帰るんだ!少なくともそれが今の俺の決意表明だ。

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