白竜の棲む山 ギルドの司書様 2
そんな感じに旅をして、4月31日。
俺たちは白竜の領域に入る直前の町である「センネ」に到着した。
カナフカに入ってからは天気も良く、旅は順調だった。おかげで昼前にセンネに付いたので、俺たちは宿屋に部屋を求めると、1階部分の食堂で食事をしながら午後の予定を話し合った。
「じゃあ、とりあえず俺とファーンでギルドに行って、白竜山の情報を得てきます」
「わかりました。私とミルとで買い出しに行ってきましょう」
「お願いします。ところで・・・・・・白竜山は寒いそうですので防寒具が売っている店をチェックしておいてくれますか?何せ夏真っ盛りなので、そもそも有るかどうか不安で・・・・・・」
「わかりました。でも、どの位寒いのか想像が付かないので、しっかり情報を得てきてくださいね」
しゃべるのは、ほぼ俺とリラさん。ファーンもミルも食事に夢中だ。
うーん。ミルはハイエルフなので、本来は食事をする必要ってないはずなのだが、とにかく食べるのが好きだ。
そして、放っておくといつまでも食べ続けられる。ハイエルフの消化器官とかどうなっているのか?吸収器官も同様だ。
ふざけた事に、ハイエルフは「いくら食べても太ることはない」という全ての女性の敵の様な種族だ。
ある程度で止めないと、俺とリラさんの食べるものが無くなってしまう。
「おい、ファーン。お前分かってるだろうな?」
一応俺は確認する。
冒険者ギルドに俺の名前で行くと、竜騎士騒動が世界各地のギルドに知れ渡っているのは間違いない為、色々と面倒になる。
なので、ファーンがリーダーとして冒険者証を提示して司書に面会して、白竜山の話しを聞くことになっている。
「分かってるって!まあ、任せろ!」
ファーンは豆乳の冷やしスープをズビズバ飲みながら返事をする。
ミルと2人して、口元ベタベタじゃないか・・・・・・。
リラさんがミルを止めて、口元を拭いてあげているが、俺がファーンの口元を拭いてやる義理はない。・・・・・・のだが、リラさんとミルのやりとりを見て、何故か嬉しそうに自分の口元を指さしながら俺の方に「ん!ん!」とか言ってくるので、仕方がないから俺が奴の口元を拭いてやる。
ため息しか出ない。なんでコイツはこんなに嬉しそうなんだ?
とはいえ、司書と面会するのにコイツの助けがいる。恩の先払いだ。
まあ、司書との面会といっても、司書が空いていればの話しだ。
冒険者ギルドの花形である司書は、美男美女揃い。
各支部でも常時3~4人は司書がいて、冒険者が知りたい情報を提示してアドバイスをしてくれる。
ギルドの受付はごつい面々なので、その代わりに司書は華やかにすることで、冒険者にアメとムチを与えることになっているとか。
そんなわけで、アメ役の司書の人気は高く、大きな町のギルドでは、予約を入れても待たなければいけない事もザラである。
ここは、カナフカ国の田舎町のギルドだが、さて、どうだろう・・・・・・。
俺は個人的な事情から出来れば旅を急ぎたい。
なので、翌日予約とかになったらちょっと嫌だな。
このセンネの町を過ぎれば、もう領域内に唯一存在する村「カルピエッタ村」が有るのみで、そこには冒険者ギルドの支部は無い。
白竜山に一番近い町であるセンネが、一番白竜山の詳しい情報が得られると思っているので、日数を使うか、そのまま白竜山に向かうのかの選択をしなくてはいけなくなるかもしれない。
もしくは俺がカシムであることを証せば司書も協力的になるのかも知れない。だが、これは最終手段にしたいところだ。
なんだかんだ言って、まだちょっとは余裕がありそうだ。
食事が終わると、俺たちはそれぞれの仕事に取りかかる。
リラさんと別れる前に、ファーンが自分のリュック「
「これ、持って行った方が便利じゃないのか?」
この「月視の背嚢」は、ハイエルフからの贈り物で、小さく軽いリュックサックなのに、とんでもなく大容量収納できて、しかも軽く、食料品の鮮度もある程度保ってくれるというアイテムだ。
人間の作る魔法道具にも似たような物があるが、ここまで高性能ではない。
そもそも作り方が違うのだそうだが、これはハイエルフの秘密だし、ハイエルフの中でも特殊な技能を持つ長老たちにしか作れない宝物だ。つまり、とんでもなく高価な品物である。
今や、ファーンにとってのアイデンティティーにもなっている大事な物だ。
「いいえ!大丈夫、大丈夫!」
リラさんはそのリュックを絶対に受け取ろうとしない。俺だって受け取りたくない。
ファーンにとっての宝物であるのも理由の一つだが、今やこのリュックは我がパーティーの生命線でもある。そんな物をホイホイ誰かに渡そうとするとは、コイツはそこんところを分かってんのかな?
「そっか?便利なのに」
「あのな、ファーン。それはお前の宝物だろう?俺たちはそれが無いと困ってしまう。つまり、お前がいないと俺たちのパーティーは成り立たなくなってしまうって事だ。だから、その宝物はお前が大切に持っているべきだと、俺は思うんだ。うん」
俺が上手い具合にファーンをのせる台詞を吐く。すると、単純なファーンはすぐにニコニコする。
「おう!そうだな!!」
すぐにリュックを背負い直す。実際このリュックのおかげで、俺たちは宿で部屋を取ったが、荷物を置いて身軽になる必要がなく、すぐに行動を開始できる。
ちなみにこのリュックを使うとおかしな現象が起こる。
ある時、野営準備をしていて、ロープが必要になった。
「ファーン。ロープくれ」
「おう」
ファーンはリュックに手を突っ込むとロープを取り出す。
「ベッド出してくれ」
「おう」
明らかにリュックより大きい折りたたみベッドを取り出す。
「・・・・・・」
その無造作なファーンの動作に、俺はどうしても気になっていた事を聞いた。
「なあ、ファーン。それってどうやって取り出してるんだ?入れる時もさ、どう入れてるんだ?」
するとファーンが「ええ?」と言った後に首を傾げる。
「どうって・・・・・・?普通に?」
いや、どう見ても普通じゃ無いだろうが。大体、かなりの物があの袋に入ってるわけだが、どう収納されてるんだよ。その中からいとも簡単に目的の物を取り出せるのは何故だ?
「普通なわけないだろうが!」
「わっかんねーよ!やってみりゃいいじゃんか!」
ファーンが俺にリュックを渡す。
「もう一個ベッド出してみ?」
ファーンが言うので俺はリュックをのぞき込んで手を突っ込みベッドを取り出した。
「おお」
その程度の感想だった取り出してまた、ベッドを袋に入れてみる。
「ああ」
こちらも特に感想らしい感想は持てない。何か普通に出して、普通に入れただけでしか無い。
「それ、私にもやらせて?」
その様子をじっと見ていたリラさんも参加する。リラさんもずっと気になっていたようだ。
何かワクワクした少女のような様子でリュックを受け取り、リュックからベッドを取り出す。
「おお」
そして袋に入れると「はい」とつまらなそうにリュックをファーンに返した。
「な?普通だったろ?」
ファーンがつまらなそうに言うので、俺たちもガッカリして頷いた。
でも、考えてみるとやっぱりとっても普通じゃ無いよなぁ。それはわかるんだが、不思議を求めてあのリュックから物を取り出すのはお勧めできない。何故かものすごく普通さを感じて落胆するだけだからだ。
余談が長くなったが、俺たちは宿の前で別れて、それぞれの仕事に取りかかった。
このセンネの町は、田舎の町とはいえ、冒険者ギルドの支部があるくらいなので、そこそこの規模がある。
町には冒険者の数もチラホラと見られる。武器防具の店や薬屋、魔法屋もある。
魔法屋というのは、魔法契約のアドバイスや、魔法の情報を売ったりしている。また、魔法使いに必要な装備も取り扱っているところもある。
普段は冒険者相手以外の仕事をしていて、魔法の力が必要な人が、一定の賃金で魔法を使ってもらえる。地域限定便利屋である。
鑑定屋はまだ、4月なので当然閉店中。鑑定士の資格更新研修はその国の王都レベルの大都市で行われる為、地方の鑑定士は往復期間を含めて3月、4月、5月の3ヶ月閉店している事も多い。
ただ、それでも鑑定士は儲かるので、研修期間を旅行ととらえて遊山して帰ってくる鑑定士も多い。
いろんな店や施設があるが、やはり冒険者ギルドの支部は大きな建物だ。木造土壁、瓦屋根の家が多いカナフカ国で、石造りの3階建ての大きな建物が人目を引く。
「こんちゃーす!」
ファーンがギルドの入り口をくぐりながら挨拶する。俺はフードを被り黙っている。隻眼なんて珍しくはないだろうけど、一応目立たなくして、だんまりを決め込む。
「あいよ!何の用だ?」
受付は例に漏れず体格のいい元冒険者風の男だ。頭は禿げていて、年期を感じさせる髭の男だった。
「いや~。ちょっと司書さんに相談したいんだよ。空いてる?」
そう言いながらファーンは冒険者証を提示する。受付の男は冒険者証をチラリと見ただけで納得する。思ったよりもチェックが薄い。俺が冒険者証出しても問題なかったかも知れない。
受付の男は、司書の空き状況を確認する。そして、ニカリと笑う。
「あんたらタイミングが良いな。今ならウチの司書全員空いてるぜ。よりどりみどりだ!」
「うひょ!?全員?何人いるんだよ、おっさん」
おっさん呼ばわりは悪いだろうが!と、俺が心配したが、受付の男はまるで気にする風でもなく、カウンター越しに身を寄せてきて、司書のプロフィール票を出す。確か念写魔法で顔も分かるんだよな。その念写はバストアップの念写らしい。
「うひょー!割と小さいギルドのくせに、6人も司書がいるのかよ!儲かってんなぁー」
「だろ?!この辺だとここしかギルド支部がねーから、司書様も6人も侍らせてるんだぜ!」
俺も見てみたい。どんな司書様がいるんだろうか?はっきり言ってワクワクが止まらない。噂に聞く美女の司書様だ。
情報も大事だが、俺にとっては司書様と会うこともとても重要な任務なのだ。大都市アメルで果たすはずだった俺の念願が、ここで果たせる。
俺も念写が見たいが、ファーンと受付の男とで盛り上がってて見ることが出来ない。
ここで、カウンターに身を割り込ませてのぞき見たりしたら「スケベな男」としてリラさんに報告されてしまうから、グッと我慢だ。
まあ、ファーンもその辺は上手くやってくれるはずだ。俺は俺の相棒を信じる。
「あ、そうそう。オレたち白竜山に用があるんだけど、その辺りに特に詳しい奴っている?」
おお。ちゃんと仕事してるじゃないか。
「ああ。それならみんな大丈夫だ。白竜山に用がある奴は大抵ここに寄るからな」
「ええ?そんなに白竜山に冒険者たち行ってるのか?」
俺も驚く。白竜山なんて、創世竜がいるわけで、滅多に人も近寄らないのかと思った。
「いや、山の中まで入りゃしないよ。だけど、創世竜の棲息エリアは独自の生態系が出来ていて、全く外界とは違う環境なんだ。それだけに希少な素材が取れたりするんで、冒険者たちへの依頼も多いのさ」
「なるほどねー。じゃあさ、創世竜についても詳しい奴は?」
ファーンがまたしても良い質問をする。すると、受付の男は少し眉をしかめた。
「いや・・・・・・。まあ、みんな大体は詳しいが。詮索するわけじゃないけど、どうかしたのか?」
冒険者の事情に関して詮索しないのは受付としてもマナーだ。事情はそれぞれにある。言いたくない、言えない事情なんてザラだ。
「いや、好奇心だよ。こえーじゃん、知らないでうっかり遭遇しちゃったら」
すると受付も安堵のため息をつく。
「そっか。なら良かった。大きな声じゃ言えねーが、大体年に1~2組のパーティーが、白竜に会うとか、挑むとかバカな事言って白竜山に向かうが、誰1人として帰っちゃ来ない」
「うへぇ。そいつらバカだね~」
おお、良く言う、良く言う。俺らもそのバカだってのに、そんな事はおくびにも出さない。まあ、ファーンは口が達者だから任せておいて安心だ。俺だったら言葉に詰まってぼろを出すし、きっと正直に話してしまっていただろう。コイツを連れてきて正解だった。
「まあ、それなら、3人に絞った方が良いな。後はお前さんの好み次第だ」
「おお!それでも3人も候補がいるのか!贅沢~~~!」
嬉しそうだな。俺も嬉しいぞ!ファーンは念写を見ながら吟味すると、1枚の念写を指さして言う。
「オレ、このティンピーナさんが良いな!!」
ファーンが指さした念写を見て、受付の男が笑う。
「おお!お前さんも好きだねぇ!結構人気だぜ、その司書様はよ!」
おおおお!これは期待値大だ!!でかした、相棒よ!!
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