旅の仲間  冒険開始 2

 リラが同乗したリザリエの馬車は、冒険者ギルドの前に停車した。

 リザリエが急いでくれたので、2日でアメルに到着した。もう間もなく日が沈み、冒険者ギルドも多くの施設が閉まってしまう。もっとも、冒険者ギルドはその性質上、規模を縮小して25時間開所しているのだが。

 到着するやリラは馬車のドアを開けて飛び出す。続けてリザリエも馬車から降りる。

 リラがギルドの階段を駆け上がろうとすると、大柄な女性が階段を掃除していた。拭き掃除だ。惨めな様子で人が大勢行き交う幅が30メートル、段が12段もある玄関前の大階段を雑巾で拭き掃除している女性をリラは見知っていた。

「ジャ・・・・・・ジャスミンさん?」

 大柄の女性が顔を上げる。ドワーフの美女だ。

「あ、ああ。リラじゃないか・・・・・・。久しぶり~」

 いつになく元気がなく落ち込んだ様子のジャスミンにリラは驚く。

「どうしたんですか?」

 はやる気持ちはあるが、ジャスミンの哀れな様子が放っておけなかった。

 するとジャスミンがヨロヨロと立ち上がると、ため息を一つ付いてからボソボソと話し出す。

「いや、冒険者の秘匿情報を大公開しちまう、ひでぇヘマしちゃったんだよねぇ~。おかげで昨日からギルドは大騒動・・・・・・。だもんで、あたしは3ヶ月の減給と終業後の罰掃除・・・・・・」

「ああ・・・・・・」

 リラはそれしか言えなかった。詩人と言えど、掛ける言葉が無い事もある。

「そっちこそどうしたんだい?血相変えてさ」

 ジャスミンがリラに尋ねる。

「そうだ、ジャスミンさん。カシムという男の人が冒険者登録に来ませんでしたか?」

 するとジャスミンがうな垂れる。

「お前さんも『カシム』かい?!もう勘弁してくれよ・・・・・・。あたしが悪かったからさぁ~」

「カシムさんがどうかなさいましたか?」

 その声にジャスミンが顔を上げて驚く。

「ええ!?リザリエ様?!」

「はい、こんばんは」

 リザリエが気取る事なく挨拶する。リラが焦ったように言い募る。

「それより、それより!カシムさんがどうしたんですか?」

「あ、ああ。いや~。あたしがやらかしちゃった件なんだけどね。昨日そのカシムが冒険者登録に来てさ、あたしが担当したんだよ~」

 そして、ジャスミンは事の経緯を話す。



 話が終わると、リザリエが「おほほほほ」と上品な笑い声を上げる。

「ジャスミンさん。その件でしたら、もう気にしなくて良いですよ。王都メルスィンでは世界中に喧伝けんでんされていますから。あなたが何もしていなかったとしても、すぐにグラーダ中に噂は広まりますよ。あなたの減給と罰掃除に関しても私が所長に話しておきましょう」

 その言葉を聞いて、ジャスミンが涙目でリザリエを見る。

「うううう~。ありがとうございます、リザリエ様~。でも減給免除は嬉しいですが、罰掃除は続けます。あたしがやらかした事は確かですから・・・・・・」

「良い心がけですね。ではそのようにしましょう」

「それで、それで。カシムさんは何処に行ったか知ってますか?」

 リラがそう言うと、ジャスミンが申し訳なさそうに頭を掻く。

「いや~。それが、あのまま飛び出して行っちまったっきりなんだよね。普通は司書に相談したり、パーティー組んだり準備したりするもんなんだけど、あたしのせいで大騒ぎになっちまったからなぁ~。それにあいつソロでやるとか言ってたし。・・・・・・まあ、事情を知って納得だけどな」

「そ、そんなぁ~~~」

 リラが空を仰ぎ見る。するとリザリエがジャスミンに聞く。

「カシムさんがギルドを出た時間はわかりますか?」

「はい。昨日、4月3日の14時ぐらいでした」

「では、約1日の遅れですね」

 リラはリザリエを見つめる。

「リラさん。カシムさんは恐らく、白竜の元に向かいます。白竜の棲み家は『カナフカ国』。ここから南、エルフの大森林に沿って下る道があります。それほど広い道ではないので、その道を行けばいずれ会えるでしょう」

 リラはリザリエからの思わぬ情報に、真剣に耳を傾ける。

「ただ、この道を行くならそれなりに準備が必要ですよ。この先、町も村もしばらくありませんから。もし行き違ってしまったとしても、白竜の棲み家の近くに一つだけ村があります。白竜の山に登るなら、必ずその村には立ち寄るはずです」

 リザリエの言葉にリラは深々と頭を下げる。

「ありがとうございます、リザリエ様!私、行きます!」

「はい。行ってらっしゃい。頑張ってね」

 リザリエが微笑む。

「本当に何から何までありがとうございました!」

 そう言うと、リラは駆けだし、リア街道を横断して南に続く道を走って行った。

「リラってあんな子だっけ?何か前見た時と違って子どもっぽいな~」

 ジャスミンがポツリとつぶやく。そのつぶやきを聞いてリザリエが微笑む。

「これが恋なのですよ。良いですね、若者は」

「はあ、恋ですか~」

「あ、秘密ですよ、ジャスミンさん」

 ジャスミンは頭を掻く。

「やだなぁ~。もうわかってますって、リザリエ様」

「そうですね。では、所長の下へ参りましょう」

「お願いします!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る