冒険の始まり 遺跡の謎 3
考古学者は遺跡を保護する義務があると俺は思っている。遺跡を大事にして昔の人々の暮らしに思いを馳せたり、判明した事を後世に伝えていく仕事だ。
歴史に埋もれた物語を見つけ出すロマンある仕事だ。そう。さっきから何度も繰り返しているが、考古学はロマンだ。
ロマンというなら「新発見」こそが最大のロマンではなかろうか?そのためには他の何かを犠牲にする事もやむを得ないだろう。・・・・・・うむ。やむを得ない。
「ああ!しまった!」
俺は誰も見ていないのに、つまらない小芝居をして、クサビを壁面のヒビにあてがうと、思いっきりハンマーを打ち込んだ。
風化した壁はあっさり砕かれ、崩れ落ちた。大きな崩落を懸念して素早く出口に走るが、壁面はごく一部が崩れ落ちただけで、他に崩壊は波及しなかった。
俺は安堵のため息をつくと、恐る恐る崩壊した壁面に近付く。
崩落した壁面の穴は、俺が這って通れるほどの狭さだが、穴はそれほど長く続いているわけではなかった。
50センチほど先で別の細い通路と交わっているようだった。
「風化が激し過ぎるおかげで、今になって発見できたって事か・・・・・・」
そう呟きながら、新たに発見できた壁の穴を調べる。
さっきから、心臓がバクバク言っている。
カンテラを穴に差し入れてから、俺も上半身を穴に突っ込む。
先の通路を確認すると、やはり狭い通路のようだった。右側はすぐに行き止まりなので、一本道で左側、遺跡の向きからすると西側に向かって一直線に伸びているようだ。
カンテラの光では通路の先は見えない。
しかし、奥の方から風が流れてきている以上、どこかにつながっているのは間違いない。
俺は一度遺跡に戻ると、急いで発見した事をノートに書き付ける。図も描く。興奮して鼓動が高鳴り続けている。暑さではない熱さで汗が噴き出てくる。
この先に進む覚悟はとっくに決まっている。
俺は急いで遺跡の外に飛び出ると、地面に埋めていた食料を取り出し、ショルダーバッグに余計に詰め込んでからまた埋め直すと、泉の水をそのままがぶ飲みする。
そして、カンテラの油を補充して、予備の油を瓶に詰めウエストバッグに放り込み、すぐに遺跡の中にとって返した。
砂漠の旅のために、ここしばらく昼夜逆転していたので、今はもうとっくに寝ている時間なのだが、今は眠っている場合ではない。
怖いと感じることもなく、俺は狭い通路に四つん這いで潜り込む。
狭い通路をカンテラで照らして俺は驚く。
「なんだ?この壁?」
外の遺跡が風化してボロボロだったのに対して、この壁面はやたらとつやつやしていた。
「金属の壁?いや、何か違う気がする・・・・・・」
艶(つや)やかで冷たく、金属の様だが、どこか違う気がする。いずれにせよこれまで見たこともないような材質の壁だった。
「なんでこんなに真新しいんだ?」
そう思いカンテラで照らし、ルーペで表面をよく見てみた。すると、僅かに腐食したような状態の所が発見できた。にもかかわらず、まるで新品同様の壁なのである。
俺の鳥肌が収まらない。まさか、こんなに早くに俺の研究命題の手がかりをつかめるとは。
エレス歴文明以前の「超文明」が存在していたと言う証拠。
この通路の壁は、おそらく遺跡の壁面よりはるかに昔に作られた物だ。
つまり、今の文明より以前にあった、現代より遙かに優れた、そして滅んでしまった文明が作り上げた壁面なのだ。
どれくらい古いのか見当も付かないが、少なくとも5000年以上は昔のものだろう。にもかかわらず、ほとんど腐食も風化もしない壁面。いったいどれほどの文明があったというのだろうか?
俺は抑えようのない興奮に目眩を覚えたが、通路の先に進みたいという、より抑えがたい好奇心に駆られ、狭い通路を這って進んでいく。
「もし、これが通路だとしたら、この遺跡を作った古代人は『センス・シア』よりも小さい種族と言う事になるのかな?」
「センス・シア」は背の小さい、幼児のような見た目の、長命種族である。
個人的な知り合いはいないが、とても賢く、魔法の能力が高い種族である。身長は大人でも120センチ程度。
だが、この通路は、立って歩くとしたら60センチくらいでないと頭をぶつけそうだ。
横幅も狭く、腰の剣が邪魔で動きにくい。仕方が無いので腰から外して剣帯を胸に巻いて、更にウエストバッグのベルトに鞘の剣先部分を通し、胸でショートソードを抱えるようにして進む事にする。
四苦八苦して、何とか剣をいちいち壁にガチャンガチャンとぶつける事なく進めるようになった。
気になるのは奥から流れてくる風が、何とも言えない甘いような匂いがかすかに混じっている事だ。
俺はポケットに入れてあるタオルで口元を覆い、ゴーグルを下ろして進む事にした。
それにしてもこの通路、何処まで続いているのだろうか?もう20分ほど進んでいるが、まだ先が見えない。
膝当てと肘当ての有り難さを痛感しつつ、俺はなおも進んでいく。
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