冒険の始まり  遺跡の謎 2


 「砂の岩戸」周辺は、砂漠の中としては平らで固い地面になっていた。大小の岩が林立していて、有り難い事に小さな泉があり、木も数本生えていた。

 そして、風化していびつな形になっている4メートルほどの岩の板が二枚、地面から垂直に屹立していた。明らかに人工的に加工された跡が窺える。

 その板の間に、小さな地下への入り口がある。

 以前にこの遺跡を訪れた調査隊によって、入り口に戸板を乗せられているが、地下への入り口として四角く口を開いていた。戸板に、多少砂が積もっているが、簡単にどかせるだろう。


「よし、まずはシェルターの設営だ」

 俺は引っ張ってきたソリを、シェルターを設営しやすい場所に移動させる。ここで数日過ごす予定だ。

 

 今は夜なので、日差しはなく、逆に肌寒い。星明かりと、だいぶん欠けているが、月明かりだけで充分作業できる。

 俺はシェルターを設営すると、手早く食事を済ませる。

 とにかく早く遺跡に向かいたい。


 食事等の片付けが済むと、遺跡調査に必要な装備をまとめる。

 剣とナイフ。

 ロープとフック。カンテラと火口ほくち。小さく折りたたまれた油紙や鉛筆、ノート、ルーペ、ハケ、針金、コンパス等が入っているウエストバッグ。

 砂よけのゴーグルは頭に装着している。

 この遺跡は小さいので必要ないが、念のために小さな水筒と少しの食料もウエストバッグに詰め込む。

 ハンマーとクサビも使うかもしれないのでズボンのベルトに挟み込む。

 遺跡では這いずり回って調べることが多いので、革製の膝当てと肘当ても装着する。中に綿が入っているので、這いずり回っても大丈夫だ。

 これで準備万端である。


 本来ならシェルターも目立たずカモフラージュしたいのだが、こんな砂漠の真ん中の朽ちかけた遺跡に誰が来るのだろうか。カモフラージュは必要ないと判断する。

 それにグラーダ国内はとても治安がいい。悪人たちもグラーダの国王が恐ろしいのだろう。

 かつて闘神王は街道の敷設や海路を開くに当たって、国内の野盗、盗賊を殲滅せしめ、海賊は自国への行路を犯す海賊を殲滅し、グラーダの旗を掲げる船に対する絶対不可侵の掟を叩き込んでいた。


「よし、行くか」

 俺はカンテラに火をともし、胸を高鳴らせつつ、遺跡の入り口を覆う戸板をどけて、遺跡に足を踏み入れていった。




 遺跡は、俺が思っていたより小さかった。

 目測で大体の距離や角度が分かるので、俺は一応ノートにマッピングする。

 最初の下り坂が30メートルほどで、30度の角度を付けて降り、そこにまた木で出来た戸板が立てかけられている。遺跡に砂が侵入するのを防ぐために立てかけられている戸板だ。

 その戸板もだいぶ古くなっていて、今にも崩れそうだ。

 町に戻ったら、誰かに依頼して新しい戸板を設置してもらった方が良さそうだ。

 考古学者はこうした遺跡の保護をする義務がある。

 

 戸板をどけると、階段が7段下っていた。

 その先は一つの部屋だけだった。かなり古く、風化が進んで、今にも崩れそうな壁と天井だった。

 石で出来た円柱が、左右の壁から50センチほど離れたところに、6本ずつ並んでいる。壁面に比べて、やや新しいので、後年設置された物だとわかる。


 部屋の真ん中に石棺が置かれ、石碑が一つ建てられていた。石碑の内容は、研究者の記した本に書いてあったので知っている。内容は「いついつ誰々が、この遺跡を発見しました」というものだ。その石碑の文字も風化してほとんどが消えかかっている。


 石棺も蓋は開いており、中は空。開けられた石棺の蓋は遺跡内に砕けて落ちている。研究者が来た時には、もう何も入っておらず、荒らされた後だったそうだ。

 後年取り付けられた石柱が、かろうじて天井部分を支えているが、遺跡自体がかなり風化していて、あと10年もすれば完全に崩れてしまっても不思議ではないくらいだ。

 

「うーん。さすがに何もないだろうなぁ、やっぱり」

 小さくため息をつく。それでも胸が高鳴る。

早速ハケとルーペを取り出して、あちこち細かく見て回る。


 この遺跡は昔このあたりに住んでいた貴族の墓などと言われているが、実はよく分かっていない。石棺と、遺跡の壁では古さが明らかに違う。石棺もかなり風化しているが、壁面は更に古い。

 床には二重の戸板をものともせず、大量の砂が積もっていた。ここも、町に戻ったら依頼して、砂をどけてもらうように手配しなくてはいけない。考古学者の義務として。



 俺は夢中になって、そこら中這い回り、この遺跡の成り立ちや、どう使っていたのかなどに思いを馳せる。

 考古学は想像していくのが楽しい。

 俺が考古学に求めるのはロマンである。好奇心を満たしたい思いで学び、調べている。


 考古学者として、遺跡の石組みの間に、常に持ち歩いている、極薄い鉄のカードを差し込んでみたくなるが、この遺跡は風化が激しいので、流石にやらないで、見るだけにしている。

 管理していないのと、地理的な問題もあるが、それだけでは無い古さが、この遺跡を直に見ればわかる。

 下手にいじれば、この遺跡自体が崩落しそうで、その意味では身の危険を感じる。

 ロマンに浸っていたいが、そう何日もこの遺跡内で過ごすのは勇気がいりそうだ。


 そう思いつつも、俺が時を忘れて調査する内に、とっくに外は明るくなっていた。遺跡内の温度もかなり上がってたし、そろそろシェルターに戻り休むべきか。外よりははるかにましだが、汗が額から流れる。


 しかし、やはり気になるのは、この壁の古さだ。

 俺は入り口から見て、右側の壁を、すぐ近くに作り足された柱との間に挟まるようにして、調べていた。すると、壁からわずかに涼しい風が流れてきているのに気がついた。風化が激しく、壁面にヒビが入っている。そこからかすかに風が流れてきているようだ。

 俺は恐る恐る壁面を、ハンマーで軽く叩いてみた。

 コンッと軽い音がする。壁の後ろが空洞である証拠だ。

「うそだろ・・・・・・」

 腕に鳥肌が立つ。まさかの新発見?

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