千代田康太 15
放課後、隣を歩く緑ヶ丘に柄にでもないことを口にしたのは、一体どうしてだろうか。
「明日開校記念日で休みじゃん? よかったら俺と遊びに・・・なんて」
伝わったかわからないが、曖昧に、そして気持ち悪く、そんなことを口にした。
「? どこへ?」
「えっと……それは……」
いつも放課後は緑ヶ丘の指示……ではなくて誘いがあってのことで、俺がこうやって休日に誘うなんてこと予想していなかったと思う。
「遊園地に……行かないか?」
まさかそれが遊園地という家族以外で行くことなど想像したことすらない地。
「ゆ、遊園地……」
どこか驚いた表情をする緑ヶ丘。
無理もないか。遊園地は隣町の田舎にある施設で、休日はカップルや家族ずれで賑わうこの辺じゃ最も遊べる遊戯施設。地元の喫茶店でお話ししようとはレベルがかなり違ってくる誘いをしたのだから。
「ど、どうだ?」
「いいわ。行きましょうか」
まじか、と口にしようとしてやめた。これは持論なのだが、告白してOKされた後に、本当に? と聞き返すのはダサいと思う。それと同じ理論だ。
「そしたら、駅前から無料シャトルバスが出てるからそれに乗ろう。時間は・・・どうしようか」
腕を組み、考えた表情をした後、
「せっかく行くのなら、絶叫系アトラクションは全て乗っておきたいし朝から行きましょう。確か、十時出発の便があったからそれで。四十分くらいで着くから、十時四十分に到着、その後はあれに乗ってこれに乗って──」
「その辺は明日決めないか?」
長々と饒舌に話し始めた緑ヶ丘を制止させた。永遠に止まらなそうだったので。
「そしたら、明日は十時のバスに乗れるように駅に集合!」
「ええ」
こうして、明日の休みは女の子と遊園地という約束を取り付けた。
これも、死にたいという気持ちを拭いさるため。
俺と一緒に遊園地へ行ったぐらいで、意志が固い緑ヶ丘の気持ちを動かせるとは思えないけど、何かしてあげたかった。
開校記念日が明けた明後日に、突然いなくなられたりしたらたまったもんじゃない。
昨日と一昨日はそれが心配で心配で落ち着いていられなかったし。
そうこう話していると、俺の家の前に到着。
「また明日な」
「はい」
胸の前で小さく手を振る緑ヶ丘に見送られて帰宅した。
「ただいまって、誰もいないか」
「おかえり」
玄関から居間へとつながる廊下を進み、居間に足を踏み入れると妹がいた。
「学校はどうした?」
「早退したー」
珍しい。小学校から香恋が早退してくるなんてことはなかった。これが初めてだ。
「具合悪いのか?」
マスクを着け、冷えピタを貼っている顔は赤く、いつもに増して弱々しく見えた。
「見ればわかるでしょー?」
はいはいそうですね。
「何か食べたいものあるか? 買ってくるけど。それと、ソファじゃなくて自分のベッドで寝ろ。そんなところで寝ても、体調よくならんぞ」
「プリン食べた〜い。牛乳プリンね」
「分かったよ。今からコンビニ行ってくるから、自分の部屋で寝なさい」
「ぶー、分かったからー」
廊下に逆戻りし、靴を履き家を出て歩き出す。
徒歩二分のところにあるコンビニで牛乳プリンとスポーツドリンク。あと、運試しというかノリで昔やっていたカードゲームのパックを一つ買って帰宅する。
居間に香恋の姿はなく、兄の言う通りにしたみたいだ。
そのまま階段を登り、香恋の部屋へ。
「買ってきたぞ」
「んー、ありがとう」
「あとこれ」
「きゃ、冷たいっ」
首にペットボトルを当てて、牛乳プリンは手渡しする。パックは・・・また無駄遣いしてると怒られそうだったのでポケットに隠した。
「食べさせてー」
「は?」
風邪を引いて弱っている香恋は新鮮だ。こいつ、熱出たら甘えてくるんだな。
「はい、あーん」
透明のプラスチックスプーンでプリンをすくい、香恋の口へ運ぶ。
兄妹だと照れ臭さなんて全くなかった。
「それにしても、どうして風邪なんか引いたんだ?」
「昨日なかなか寝付けなくて、睡眠時間が足りなかったのかぁ」
そのまま母さんが帰ってくるまで、香恋の看病という名の話し相手になった。
俺が解放されたのは夜二十一時を回っていた頃だった。
明日の準備しないと。
どれを着ていこうか……。
タンスを開けるも、どれもオタク丸出しの服しかない。いや、イケメンが着たらそれなりにおしゃれに見えるのかもしれないけど・・・。
オタクのファッションの決め手は、周りと比べて変じゃないかという一点のみ。
「まぁ、これでいいか」
香恋が高校入学祝いに買ってくれた服。
機会がなくて、まだ一度も着ていなかったけど、いい機会だ。これにしよう。
俺は珍しく、明日が休日であるのに日が変わる前に就寝した。
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