緑ヶ丘梨乃 8

 月曜日になった。

 二日間、考えに考えたが答えは出ず、完全に行き止まった。

 ──いや、途中から考えることを放棄した。

 彼女は私を探して回るかもしれない。それで、また殺されても生き返るのだから、時間は十分にあると判断したからだ。

 その結果、私は全く別のことを考えるのにこの二日間を費やした。

 今私の隣を並んでいる同級生──千代田康太についてだ。

 金曜日の夜、確かに私たちは友達だと、この曖昧な関係に終止符を打った。それもこれも、私が友達という言葉に何だか恥ずかしさを抱いていたのが原因だったのだが。その日、私が死んでしまったため、きっと彼にはその会話の記憶がない。

 死んだら生き返る──この力は、他人に辻褄の合わなくなってしまう部分も忘却させるのである。つまり、私が昨日、彼の家にお邪魔したことを彼は覚えていないことになる。死ぬ瞬間を目撃した彼女は覚えているのだろうけど。 

 世界というのは、案外簡単に、そして知らない間に変わってしまうものなんだと思った。

「金曜日のことって覚えてる?」

「金曜日? なんかあったか?」

 念のため、聞いてみたがやっぱり無意味に終わる。

 私の想いは、その通りにいってはくれないみたいだ。

「最近、暑くなってきたな」

 通学路に咲いてあった桜も完全に散った五月上旬の今日。金曜日の嵐が、綺麗だった桜を完全に殺したのだろう。

「ふぁーあ」

 大きなあくびをする彼を横目で見ながら通学路を進む。

 特に会話もなく、数分歩くと校舎が見え始めた。

「今日はどこか行くのか? 放課後」

 まるで仲のいい友達のように、彼は話しかけてくる。

 彼からすると先週は金曜日以外、私からしてみれば金曜日も彼と放課後の時間を過ごした。

「ど、どうしようかしらね」

 珍しく、放課後の予定は何も考えていなかった。

 私の中で、何かが変わってしまったのだろうか。

 もう一度、友達だと言いたい。

 もう一度、本音で話し合いたい。

 あの日以来、私の気持ちはそんな方向に行ってしまっていて、他に何も見えていなかった。行動を起こさなければ結果は得られない。そんな簡単なことさえも、忘れてしまっていた。

 このまま、彼と学生生活を過ごして行くのだろうか。それも悪くないと思う。

 死ねないまま、時は進んでしまうのだろうか。

 私はどうなりたいのか。

 ただ漠然と、一度思った死にたいという感情は頭から離れなくて。

 それなのに、彼と友達になりたいという自己中心的な考えがあって。

 どんな人間だって、友達が死んだら悲しんでしまう。

 私は、もう戻れないところまできてしまっていたのだとやっと理解した。

 どうすることが、私にとって、そして彼にとって幸せなんだろうか。

 その答えは、いくら考えたってわかりそうにない。

「とりあえず、一緒には帰りましょうか」

「了解」

 そう言って、彼は少し走って学校に行った。

 ああ、もう一人は嫌だ。

 彼に隣を歩いてほしい。

 ──ああ、そうか。つまりこれは、そういうことだったんだ。

 彼に抱いていた私の感情は、すっかり別のものに変わっていたのだった。

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