千代田香恋 4

 実弾を、確かに目の前に立っていた女の撃ち、見事に直撃させた。

 女は即死。

 実弾を心臓に受け、生きていられる人間などありえない話。

 私は敵と決めた女をこの手で殺すことに成功したのだ。

 私にとって、邪魔でしかない存在を消した。

 これで、康太が私にしか興味を持たなくなるはず……。

 そのためだけに、今日があって。

 そのためだけに、私は殺人を犯したのだから。

 でも、私は捕まることはない。

 そんなの、捕まりたくないと想うだけで容易く叶えてしまえる。

 ────事実を捻じ曲げる。

 それが私の、産まれた時からの特殊な力。

 なんでも、想い通りに、自己中心的に世界を改変できる。

 ただ、この力にも欠点があって。

 生物が持ち寄る『感情』だけは、操ることができなかった。

 それは自分のもそうで、だから私はこんな歪んだ恋をしてしまっている。

「……そんなことより、これどうしよう……」

 遺体。

 まだ匂ってはこないが、死体は時期に腐り、強烈な異臭を放つ。

 もちろん、こんなところには置いておけない。

 適当に、外に投げてしまおうかしら。

 力を振り絞って、女の遺体を担ぎ、近所の公園に向かう。

 こんな時間に外を歩いたのは初めてだ。

 光る街灯を頼りに、誰もいない世界の中で私は一人、遺体を担ぎながら歩き続ける。

 誰かに見られることは絶対にありえない。

 私がそう想っているから。

 やっと公園に着いた。

 適当に遺体を公園の端に投げ捨てる。

 朝になれば誰かが見つけ、ニュースになるだろう。

 でも、私は絶対に捕まることがないのだから、遺体を投げ捨ててもこんな清々しくいられる。

 康太との平穏な日々はこれで守られ、死ぬまで一緒にいられる。

それは、なんて幸せなことだろうか。

「帰ろう」

 もう時刻は午前三時を回っていた。

 家に着くと、そこは相変わらず静かな環境だった。

 兄の部屋を覗くが、今ここであったことなんて全く想像していなかったような、いつものように幸せそうな寝顔があった。

「おやすみ。お兄ちゃん」

 もう、あの女───緑ヶ丘梨乃が私の目の前に現れることがないと思うと、自分でもびっくりするくらいゾクゾクして、にやけてしまう。

 でも───

「あっけなかったな」

 敵に期待はずれだったなという感想を残して、私はようやく眠りについた。

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