千代田香恋 2
「ただいま」
玄関からいつもの低い声。今日はいつもより少し早い。
「おかえりー」
帰宅部で友達がいない兄がこの時間に帰って来るのは家族内では重大ニュースだったりする。
「これ、お前が食べたがってたロールケーキ。並んだんだぞ?」
康太からケーキの入った白い箱が渡される。箱は冷たく、今にでも中に眠るケーキを食べてしまいたい欲が湧いてくる。
「あれ、食べないのか?」
冷蔵庫に入れているところで、康太が声をかけてきた。
こんな何気無い会話も少し久しぶりに感じてしまう。
今までは、ずっと一緒だったから。
「夕飯の後にデザートで食べるよ。お母さんもう少しで帰ってくるみたいだし。部屋行って着替えてきな」
「おう」
気の抜けた返事をして、康太は階段を登っていく。かっこいい制服姿からヨレヨレのスエット姿に変身というのは、少し見劣りしてしまうのだが、そこに康太らしさがあって私は好きだ。
にしても。
「完全に機嫌とるためだよね」
ここ最近の私たち兄妹の関係はイマイチだ。
業務的な会話しかなく、今朝なんてお母さんに喧嘩したの? と聞かれてしまった。
康太は悪くない。私の嫉妬心が原因だ。
緑ヶ丘梨乃という、ちょっと私より胸が大きいからって他は私の下位互換に過ぎない女。愛想もないし、どこがいいのか。
「はぁ」
このため息も、最近だいぶ増えた。授業中も無意識でしてるって結穂ちゃんにも言われた。
にしても、二人は異常だと思う。
友達になって数日。いや、話すようになって数日とかだろう。それなのに、こんなに毎日のように遊ぶだろうか。やっぱり、騙されてるとしか思えない。康太があんな美人と。
「う〜ん」
何度考えても解は出ない。ぼっち生活を続けてきたが故に、人を信じすぎるのはよくないと心得ているだろうし、騙されてるとかそういうのはないだろう。
じゃ、何で・・・。
「やっぱり、付き合ってるのかなぁ」
よくないこと真っ先に考えてしまうのは私のよくない癖だ。
私のお兄ちゃん。私の康太に限ってそんなことはないに決まってる。
あの日から、私と康太は一生一緒だって、想ったのだから。
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