千代田康太 11

 ゲーセン内は様々なゲーム機が置かれている。UFOキャッチャーから音ゲー、小学生の時によくやった、百円をいれたらカードが出てくるゲーム。もちろんプリクラも。俺たちはそれらの機体を見ながら、ゲーセン内を見て回った。

「やっぱり、ゲームセンターって別に何か特殊なものがあるわけじゃないのよね」

 とりあえず、ゲーセン内を一周して緑ヶ丘が漏らした感想。俺も同感である。

「なんか、欲しいぬいぐるみとかなかったのか?」

「なかったわ。あんまり可愛いものとか興味なくてね」

 結局、また入口付近で止まってしまう俺たち。

 クール系ヒロインがぬいぐるみなどの可愛いものが好き、という定番属性は緑ヶ丘には備わっていないらしい。

「もう一周、しましょうか。何か見落としがあるかもしれないし」

「え?」

 緑ヶ丘からの意外な提案に思わず聞き返してしまった。

 その俺の反応に、聞こえてなかった? という視線を送ってくる。

「やっぱり、なんか欲しいものあったんだろ?」

 俺の言葉はスルーされ、緑ヶ丘は先に歩き始める。

「ちょっと」

 俺の呼びかけは緑ヶ丘には届かず、彼女は足早に進んで行く。

 その調子でゲーセンの最奥地にやって来たところで、足を止める。このゲーセンの最奥地には五台ほどのプリクラ機が置かれた場所である。

 今思えば、さっきはここは本当にただ通り過ぎただけといった感じだった。無料券のこともあり、変に意識しまっていたが、何より俺たちには無縁だろうと判断したからだ。でもそれは、俺の勝手な判断だったのかもしれない。

 緑ヶ丘はプリクラ無料と書かれた券を持ち、プリクラ機を見つめている。知らないモデルが載っているその機会は、俺に撮ってはあまりに眩しい。

「まさか、さっきの一人で撮ってこいってのはマジだったのか?」

「……」

 無視ですか……。

 ゲーセンに来たけどやることがない。しかし、プリクラ無料券も所持している。この状況、普通の高校生ならプリクラを撮る流れになるだろう。でも、俺たちは特殊だ。普通じゃない。

「千代田君、あなたとても失礼な勘違いをしていない?」

「え、いや、そんなつもりは・・・」

 緑ヶ丘の目がいつも以上に笑っていない。心なしか、透き通った綺麗な声に棘があったような気が・・・。

「私だって、女子高生なの。プリクラに興味持つことのなにがいけないのかしら。それにね千代田君、無料という魔法を使わない手はないでしょう。せっかくもらったのに、もったいないとは思わないのかしら?」

 スラスラと饒舌に話す緑ヶ丘に再度、驚いてしまう。こいつといると、本当に驚くことが多い。

「そ、そうだな! よし、撮ってきなよ」

「はっ⁈」

 緑ヶ丘の大きな声が周りに響く。正確には大きな声ではないし、周りに声が響いたわけでもない。ましてここはゲーセンだ。機械の音で、人の声はあまり通らない。緑ヶ丘のその迫力に俺がそう感じたのだ。

「えっと……。緑ヶ丘さん?」

 俺の問いかけに、緑ヶ丘は右手で頭を抱えながら、

「一緒に撮るに決まってるでしょ」

 と、衝撃の一言。

 一瞬、時が止まったような沈黙が流れた後で、

「本当にすまん」

 素直に謝罪をした。

 そのまま俺たちは例のごとく無言のままプリクラ機の中へと移動。

まさか人生二度目のプリクラがこんな感じで訪れるとは……。まだ、罰ゲームで一人で撮ったほうが納得がいく。

「この無料券ってどう使うにかしら……」

 プラスチック製の無料券と書かれたそれが機械のどこかに入るわけもない。きっと店員さんに渡したらいいのだろう。

「ちょっと貸して」

 俺は緑ヶ丘からそれを取り、機体の中から出る。ちょうど目の前を店員さんが通ったので、すかさず声をかける。

 声をかけると、どの機体で撮りますか、と聞かれ、緑ヶ丘が待つ先ほどの機体へ。

「はい。これで撮れますよ」

 好青年といった印象の店員さんは機械の操作を完了し、機体から出て行く。

 それは、ついに始まるということを意味していたわけで……。

『撮影コースを選んでね』

「「⁈」」

 機械から発せられた声に驚いてしまう俺と緑ヶ丘。どうやらさっき載っていたモデルさんが案内してくれるみたいだ。

「お、おい」

 未だ固まっている緑ヶ丘に声をかける。

「な、何かしら」

「これ、どうすんだ」

 画面をよく見ると、制限時間が書かれている。

 のんびりしていると機械においていかれそうだ。

「わ、私が独断と偏見で選択していくわ」

 そのことを察知したのか、緑ヶ丘は画面に触れる。

 全ての選択を終えると、当たり前だが撮影が始まるようだ。

 すると、

『3、2、1』

 なんと一枚目を撮られてしまった。

 画面には、真顔の緑ヶ丘と明らかにテンパった表情の俺。

「待って! 早くない⁈」

「集中しなさい! 次来るわよ!」

 まるで戦場にいるかのようなテンションの緑ヶ丘の注意を受け、今度こそは、と準備。

 しかし、画面には真顔の高校生二人。どんなポーズをするべきかなど考えているすきに撮られてしまっていた。ってか、隣の人全く表情変わってないんですけど・・・。

『3、2、1』

 三枚目のカウントダウンが始まる。結局、ポーズは思い付いていない。緑ヶ丘はポーズとかする気あるんだろうか。

 三枚目も真顔。モデルさんの、こんな感じに撮れたよ、が煽っているようにしか思えないほど腹がたつ。人間には得意不得意があるんだよ・・・。

 案の定、四枚目も二人とも真顔。苦手だったものが嫌いに昇華した瞬間である。

『撮り直しができるよ♪』

 もはやこの地獄みたいな雰囲気にその配慮は無駄だと思った。

 しかし、そう考えていたのは俺だけのようで、

「撮り直しましょう」

 俺に注意を促して以来、無言だった緑ヶ丘からの提案。スキップするもんだと思っていたが、そう思っていたのは俺だけのようだった。

「マジで言ってる?」

「ええ」

 この会話をしているうちに、画面に表示されたカウントダウンの数字は、10、と表示されている。

「ピース、でもしましょうか」

「お、おう」

 緑ヶ丘は撮り直しを選択しお馴染みのカウントダウンが始まる。

 カシャ、という音。撮り直しは終了。画面には真顔でピースする二人。逆にこっちの方がシュールな気もするが、

「あなた、ピース下手ね」

「お前こそ、やり慣れてない感満載だぞ」

 俺たちはこの写真を見て笑いあった。その一枚は、俺たちをよく表現していると思ったからだ。

 今のを一枚目の俺が明らかにテンパっている写真と交換し、落書きコーナーへ。

 にしても、今時のプリクラはすごい。もう誰かわからなくなる。もともと美人の緑ヶ丘はさらに綺麗になっている。俺に関して自分の語彙じゃ表せない、本当によくわからない感じ。

「俺よくわかんねーし、任せるわ」

 俺のセンスだと、変にいじっておかしくなると判断し静観する旨を伝える。

 緑ヶ丘は頷くと、何やらポチポチ画面をタッチ。

 それから一分ほどして、取り出し口からプリクラが出てきた。

 緑ヶ丘はそれを近くに置かれてあるハサミで切る。

「それ、千代田君の分」

 渡されたそれには四枚全てがあった。合計で八枚のを選んでたみたいだ。

「まぁ、ありがとう、な」

「お礼なんておかしいでしょ。私から撮ろうと言ったようなものだしね」

 それもそうだな、と言おうとしてやめる。もう時刻は夜八時の迫っている。そろそろ帰るべきだろう。この時間なら、残業していなければいつもの夕飯の時間に間に合う。 

 軽く映画の感想を話をしながらエレベーターで一階まで降り、そのまま店から出る。外は暗く、少し肌寒い。珍しく話しながら歩いたせいか、ここにたどり着いたのが一瞬の事のように感じた。

「家まで送るか?」

「近いからいいわ。早く帰りなさい。妹が待ってるわよ」

「そうかもな」

 緑ヶ丘の冗談に軽く笑って、

「また明日学校で」

「はい。また明日ね」

 俺たちは別々の帰路に着いた。

 

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