千代田康太 7
下校を知らせるチャイムの音。長く、そしてだるい一日が今日も終わりを告げる。学生にとっては学校が終わる=一日が終わる、みたいなことだ。HRが終わると疲れがドッと押し寄せてくる。しかし、隣の席の女子生徒はそんな疲れは感じさせない足取りで教室を出て行く。俺もそれを追うように教室を出てストーキング開始。これがストーカーだと認めたつもりはないが痴漢と一緒だろう。相手の受け取り次第である。だけどその相手がストーカーしても良いと言っているのだ。ここでストーカーしなくてはどこでする!
ストーカーを続け、俺の家が見えてきたところで朝と同じように斜め後ろから話しかけようと少し小走りになる。学校を出たなら良いだろう。
俺が緑ヶ丘に追いついくと、突然振り返って、
「ここ、あなたの家よね?」
と、緑ヶ丘。
俺はもちろんキョトンとした顔で、
「そうだけど」
と、答える。
「落ち着いて話したいし、あなたの家にお邪魔しても良いかしら」
確かに、喫茶店とかだと同じ学校の連中に遭遇する可能性があるし、それが良いかもしれない。周りをキョロキョロ確認する。俺たちと同じ制服を着た人間はいない。香恋も今日は習い事のピアノのはず。変態と勘違いしないでほしいのだが、絶好の女の子家に連れ込み日和である。
家の鍵を開け、緑ヶ丘を中へと通す。
だが、突然の美少女と一つ屋根の下という男子高校生として最高のシチュエーションもウキウキワクワクなわけではない。今日は真剣な話をするんだ。
冷蔵庫から麦茶を出し、二人分を用意し、テーブルに持って行く。
「気が効くのね。私としては紅茶が良かったのだけれど」
ソファに座る緑ヶ丘はそんなことを言って、ちびりと一口飲む。ただお茶を飲むという行動も、緑ヶ丘には気品があり、見惚れてしまう。
「あなたは床でいいの?」
「ああ。家で俺の定位置はここなんだ」
いつも妹の香恋がソファを占領しているため、とは言わないでおこう。なるべく手短に話を終わらせたい。昨日のうちに質問はスマホのメモ機能に書いてある。まるで握手会に行くアイドルオタクのように。
「今朝の話の続きだ。お前は何者なんだ」
無言で見つめてくる緑ヶ丘。きっと、本当のことを話してくれる。
「ここから話すことは私の憶測がほとんどよ。私だってどうして自分は死んでも生き返るかなんてわからない」
淡々と話す緑ヶ丘に俺は頷いたりして、しっかり聞いているとアピールする。本人でもわかっていないというのは意外だが、ここは突っ込まずに聞く以外ない。
「最初に私が死んだのは高校の入学式の日、自殺だったわ」
自殺? そんなことをするようなやつじゃないと思うが・・・。その理由もまた気になるが、ここは頷いてしっかり聞いていると伝える。
「誰もいない夜の学校の屋上から飛び降りてね。確かに私はあの時確実に死んだ。痛みとか自分の血がどれだけ出たとか、うっすらとだけど覚えてる。だけどね、次の日私は自分の家のベッドで目を覚ましたの。おかしいでしょ? 病院のベッドならまだわかるけどさ」
「それから、お前は何回死んでるんだ? 俺は二回しか知らないぞ」
「あなたがどうしてその二回の記憶が残っているかはわからないけれど、合計で十回になるわ。詳しく聞きたい? どう死んだのか」
つまり、緑ヶ丘は俺が知る二回に加え最初の一回、さらに七回も死んでいたことになる。
どうしてそんなことを……。
「驚いているみたいね」
そりゃそうだ。十回も死んでいるってことはその回数分、家族が悲しんでいるというわけだ。次の日になれば緑ヶ丘梨乃が死んだという記憶がなくなって普通の日常に戻ったとしてもそんなことはしてはいけない。そう簡単に人は死んだらダメだ。
「おい」
「何かしら」
聞くんだ。
「一つ、質問させてくれ」
「どうぞ」
もし、地雷を踏むという結果になろうとも。
「何? 早くしてくれないかしら」
昨日初めて話した俺なんかが緑ヶ丘の助けになるかはわからないけど。
「どうして、自殺なんてしたんだ」
俺がそう問うと、緑ヶ丘はポーカーフェイスを崩さずにソファから立ち上がり、
「ごめんなさい。今日はもう帰るわ」
とだけ言い残し、家を出て行った。
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