千代田康太 4

 放課後になった。授業中、緑ヶ丘を観察していたが特に変わったことは見られなかった。

「帰るか……」

 気味が悪いが帰る以外にすることがない。

 帰路につき、数分歩いたところで緑ヶ丘を発見した。まさに歩く姿は百合の花と言える彼女はただ前を見て歩いている。

 付けてみるか……。

 完全にストーカーだが、たぶん問題はないはずだ。たぶんね。

 十分ほど歩いたところで右に曲がり、また十分ほど歩いて右に曲がる。

「街中に住んでいるのか」

 学校から二十分歩けば大きな駅がある。その駅を中心に、デパートや遊べる施設にデートスポットがあり、学校帰りの学生や主婦などで賑わっている。「遊びに行こう」=「街行こう」であり、誰もが非常にお世話になっている。友達がいない俺でもアニメショップがあるためよく足を運んでいる。ちなみに街中に住んでいるのはお金持ちぐらいで、富裕層しか住めないような高級マンションが立ち並んでいる。美人で育ちが良さそうな緑ヶ丘ならここに住んでいるんだろうなという感じがする。ってことはそろそろストーカーやめないとな、と考えていると、

「え、そこ曲がるのか」

 緑ヶ丘は人一人しか通れないほどの隙間しかない道に曲がる。まさに路地裏といった感じだ。近道か何かだろうか。

 ここまで来たら秘密を暴いてやる。

 しかし、俺もその道を曲がったところで、彼女は俺を曲がってくるのを待っていたかのように立っていた。

「何の用かしら。千代田康太君、だったわよね?」

 つ、捕まる! 助けて! 

「どうしたの? ストーカーさん」

 俺の心の叫びは何の意味がなく、緑ヶ丘は追い打ちをかけてくる。いや、すでにオーバーキルだ。

「お、俺も家がこっちなんだ」

「あなたの家は学校の近くでしょう。訴えたりはしないからこれ以上、嘘は吐かないことね」

 まばたき一つなしで俺を見る姿は威圧感がすごい。まるでRPGゲームび出てくるラスボスのようだ。もう逃げ道はない。素直に本当のことを言うしかない。

「で、何の用なの?」

「聞きたいことがある」

「何かしら。ふざけたこと聞いたらやっぱり訴えることにするから」

 変なことではないはずだ。ここは単刀直入に。

「お前、昨日死んだだろ」

「どうして知っているの」

 緑ヶ丘に動揺はない。ただ、本当にどうして知っているのかと思っているのだろう。

「やっぱり、死んだのは事実なんだな」

「ええ。なぜあなたが覚えているのかは不思議だけどね」

「いったいどういうことか教えろ」

「・・・・・・」

「どうして黙る」

「付いてきなさい」

 緑ヶ丘は後ろを振り返り、細い道を進み始める。俺も慌てて歩き始める。

「へー、あの道抜けたら中央公園あんのか」

 中央公園はこの辺じゃ一番大きい公園で、夏にはお祭りが開かれ出店が立ち並ぶ。この時間の中央公園はサッカーやらドッジボールをする小学生で賑わっていて、公園を散歩するカップルもちらほら見られる。

「デートしようってか?」

 そんな俺の発言に首を傾げる、死んだはずの美少女。冗談を対して何も言わずにきょとんとした顔をされたがそんな表情も可愛いと思ってしまったのが悔しい。ちょっと会話しただけでこいつのことは苦手なんだとわかった。もう今後は変なこと言わないようにしよう。メンタルが持たなくなる。

「何が言いたいのか知らないけど、私たちは真剣な話をしているのよ」

「す、すみません・・・」

 緑ヶ丘はさらに歩き続け、俺もそれに続く。

「何でわざわざサッカー少年たちの近くに?」

 話なら別にここじゃなくてもいいだろうに

「見苦しいものを見せるわ。だけど、私から目を離さないように」

 どういうことだろうか。緑ヶ丘はそれきり何も言わず、サッカー少年たちを見ている。

 それから十七分ほどして、

「あ! ボールが!」

「ごめーん」

「何してんだよ〜」

「僕、取ってくる!」

 一番身長の高い男の子が蹴り出したボールが公園の外に出てしまい、別の男の子がボールを取りに道路へと、

「危ない!」

 男の子がボールに追いついたところで巨大トラックが。俺の叫びはきっと届かない。くそ、また人が、今度は小さな男の子が死ぬところを目撃してしまう。

しかし、死んだのは、

「緑ヶ丘!」

 まるで昨日の事故と同じように倒れている彼女。

 緑ヶ丘梨乃はまた死んだのだ。男の子をかばって。

 男の子の叫び声が響き渡り、近所の住人たちが出てくる。やがてパトカーや救急車が到着し中央公園周辺にはたくさんの大人がいる。

 彼女が言っていた「見苦しいもの」とはもう一度死ぬところを見せるという意味だったのだ。その行動の理由はわからないが、きっと彼女なりに考えがあったんだろう。

「帰るか」

 今度こそちゃんと自分の家に帰ることを決める。

緑ヶ丘はどの段階で俺に気づいていたのか。いろいろ聞きたいことがあるがまた明日、生き返って学校に来ていることを願うしかない。そしたらきっと、彼女は本当のことを話してくれるはずだ。

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