第4話 待たされる者は悩む。
「ああ・・気持ち悪い」からみ酒と言うのは本当に困ったものです。
寝取られ勇者の愚痴を聞かされ、記事の検閲を終えてようやく開放されました。
「それにしてもです、あの勇者の二人も十分恵まれているはずなのに・・」
彼を心配する手業師(職業・盗賊)の方や仲間の戦士、友人に恵まれ肉体も技も常人以上で戦果だって普通の戦士より上。
(見下していた人間が突如、救国の英雄なったら人間はあんなにひねくれてしまうのでしょうか)
程々以下の生き物の私には到底理解に苦しみますよ。
・・・・なんでしょう・・凄い人達と話をしたからでしょうか、あちらのローブの方からとても危険なオーラ・気配を感じます。
ローブの奥に覗く黄色い爬虫類のような目、そしてクィッと空中を掻くように招く長い爪。本来は大声で叫び逃げることが正しかったのでしょうが、少し前日の悪い酒のお陰で判断を誤りました。
「よう、逃げるかと思いきや、中々肝のすわった人間だ。気に入った!」
ローブを深くかぶった男は陽気に声を上げ、『取り敢えず生!』・・エールを頼んだ。
「・・すみません、その・・反社の方でしょうか、なにか私の記事に問題でも・・」陽気の中の狂気、暴気とでも言うような吹き上がる熱気をまとう男は、目を開き私の顔を覗き込む。
クカカカカッ!「やっぱりだ!いやぁオレの感って奴はやるなぁ・・鼻か?まぁ良いだろ?まずは飲め!話はそれからだ!」
恐いヒトにグラスを薦められ、断れる男ならつまらない物書きなどしてませんよ。グビグビとエールを流し込み、喉に上がるシュワシュワと舌に残る苦み。
「良い飲みっぷりだ、これでひとまず盃を交わした事にするぞ。」
男は深いローブから顔を出し、その姿を現わした。
爬虫類の様な目・堅く石のような灰色の肌・金と銀の混じる金属的な頭髪・・・・人間?でしょうか?私の知らない種族です。
「お!驚かないな、関心関心。魔王の前で平伏さないのは人間だからとしても、逃げ出さないのは・・素質があるんじゃないか?」
[魔王]男はそう言った、魔王・魔族の王・魔物の支配者・魔族の国の王・・・
『ええ!・・***』私の口をアゴごと押さえる手は、熱を持つ石のように堅い。
「陽気なのはいいが、大声は駄目だ。大事になるからな?」
その手を軽く捻るだけで、私の首は捻れ飛ぶだろう。私は震えながら頭を上下させた。
「一応、お忍びだ。お前も・・暴力屋を相手にするように接しろ」
・・・「それに」と見せた腕に鈍い銀の手枷。
「封印だ、オレの力を封じて街の魔力探知を誤魔化す意味でな。お陰で体がチト重い」ジャラリと繋がる太い銀の鎖、この輪の数だけ魔力を封じているそうです。
「つまり・・いま貴方は腕力が強い・・ヒトと言う扱いで?」
「当然解除はいつでも出来るぞ?そのさいのペナルティは大きいけどな」裂けるように笑う口元からは獰猛な牙が覗く。
はあっ・・ふぅ・・「まさか人生で魔王様とお会いする事があるとは・・心臓が持ちませんよ」動悸・息切れには酒だ!度数の高いヤツをワンショット・シングルで。
「一応お聞きしますが・・偶然ってわけでは」ないのでしょうねぇ。
「当然だ、お前から発する勇者の匂い、王族の匂い。ああこいつだと直ぐに解った」 笑うだけで恐い魔王様が少年のような瞳で覗き込む。
「お前の記事、特にヒト王の話は中々だった。オレも参考にすべき所もあったぞ」
ああ、追放勇者の。・・なんで魔王様が参考にするんだ?
「・・ああ!そうそう、オレの紹介で[魔王]はマズイな。・・[西の魔王]って事にしてくれ。魔王全部の話として括れば、この国が滅ぶ」
はいぃ?ひょっとして私、今凄くヤバイ橋を渡ってますか?
「国が滅ぶって・・一応この国にも勇者はいますし、壁だって」高く分厚い。
「オレの話でムカついた魔王が大挙して襲ってきてもか?一人や二人ならまだしも
10人規模で襲ったら、あっちの帝国でも2日で落とせるぞ?」
・・「人口100万人、ドワーフと錬金魔術士で構成された機動魔道大隊ほか、戦えば世界最強の一角とも言われる帝国が・・ですか」ハハハッ。目がマジだよこのヒト。
「おれでもこの国なら・・一年か?軍団付きで、そんな気はねぇが。」
少し考えるような仕草を見せたのは・・この国の力を計算したからだろうか。
「で・・では西の魔王様・・今は魔王様と呼ばせていただきますが・・」
なんの用で?私の肝を喰う為とかは止めて下さいよ。
フッ「当然記者には記事を、私にも聞かせたい事があったからこうして出向いたのだ」私の部下に命令すれば、首だけを届けかねんからな!ですって。ははは。
「魔王様直々に・・と言うのは、どうなんでしょうか。安全性というか」私の身の。「ああ、暴れはせんし、お前も脅され聞かされたでいいんじゃないか?」
そう言って私と同じ火酒を呷る、今日は一体何を聞かせてくれるのだろうか。
「西の魔王っても、ここの西じゃねぇ。もっと遠くの西、火山に囲まれて、人間は住めねぇ熱とガスの高地だ」そんな荒れた場所に住む魔族の王は語る。
「四方・六族の魔物と魔族を力で束ね、数千の魔族の上に君臨するのがオレ。
だから魔王だ、人間の慣習でも王であってるんだろ?」
「民族・国土を束ね支配する、王さまですねぇ。はい」
後は国民の支持とか、支配者層とかありますが、おおむね王でしょう。
「でだ、オレが苦労して魔王になったら、今度は何が起こったと思う?」
「反乱でしょうか?」魔物は統制出来ないから魔物、魔族は簡単に他者に従わないと
聞く。だから魔族の国は小さく、同じ種族で集まるのだと。
「反乱は鎮圧すればいいだけの話だ、逆らえば殺す・滅ぼす、それが出来るから魔王。じゃなくて・・外の、人間の世界での話だ」
「人間は魔族の国の内情には詳しく・・・ひょっとして・・勇者でしょうか?」
魔王現れる時、勇者も現れる。星読み・易学者が兆しを見つけ、勇者を呼ぶ。
「そうだよ、勇者・勇者だ!オレが苦労して血を流して国をまとめたら、オレを殺すだけの人間が現れるんだよ!」理不尽と言うように火酒が進む。
確かに・・魔族からすれば不幸だろう、でもです。魔族が団結し、人の国を襲うとなれば人間が多く死にます、私はそこを理不尽とは・・・
「勇者も力で黙らせる!それが魔族!魔王ってヤツだ!だからそれはいい、だがな」
黄色い目に赤い光りが挿す、それだけで背骨が振るえ体が硬直する。
フゥ「・・なぁ?人間の住め無いような土地、通常の獣すら近づかないガスと熱と
薄い空気。草木も少なく毒草が殆どだ、そんな所に住み続ける事が出来るのは魔族と魔物くらいだ、人間に価値は無いだろ?」
「確かに、早死にするくらいなら、住む場所を変えるのが普通ですね」
たとえ価値のある物が地面に埋ってたとしても、私は住みませんよ。
「それでも人間と勇者ってヤツは攻めて来る、なら普通は撃退するよな?」
敵がくれば戦う、生きる為に戦う事は鹿や牛でもするだろう。
「それは・・あなた達が・・人間を食べたり・・襲ったり・・とか・・」
恐いからだ、人間は魔物・魔族が恐い、だから数が増える前に減らそうとする。
「お前らだって牛とか・・そこの鶏とか喰うだろ?ヤツらは弱いから人間に喰われる
なら弱い人間を喰う魔族は悪いのか?・・確かに牛・豚に知識と力を与えたら人間に牙を剥くか。なら人間が魔族に牙を剥く事もわかるな」
・・・・・・・
「でだ、魔族と人間、強い方が支配する。それはそうとして、オレも魔王だ、魔王を名乗った瞬間から覚悟してたさ」勇者との戦いを。
「では・・勇者と戦って・・勝った、のでしょうか」つまりこの街が次ぎに侵攻する場所として選ばれたのか。
「う~~ん、どうなんだ?勇者ってのは人間の一番強いヤツが勇者なのか?それとも挑んで来るヤツが勇者なのか・・」そこん所なんだよ、オレが知りたいのは。
「勇者の定義は私にはわかりませんが、王様や神官が勇者を見つけ支援する。つまり国の支援で魔王様に挑む人間が勇者でしょうか」
「そう・・なのか?」・・・「そうだよなぁ・・オレが魔王なのも、他のヤツを支配してるから魔王なんだよなぁ」
眉間にしわを作り、悩むようなに考え込み、思い出すように頭を上げる。
「その勇者を・・・多少腕は立つ男共だったが、ソイツ等を倒したら終りか?他にも勇者ってやつはいないのか?」
『魔王様お代わり!』ですか、ですが勇者だって早々見付かる事も無いですし、
異世界から呼ぶにしても簡単では無いはずですが。
「なんかなぁ・・まだいるような・・どっかにいるような、感触りでモヤモヤしてたときだ!お前さんの記事を見たのは・・わかるだろ?」
・・・う~~ん、わからない。でも「わかりません」で答えられる空気でも無い。
「つまり、戦わない勇者がいるって話しだ。オレの敵がどこかにはいるが、そいつはどこかで領主やったり砦を作ったりしてるって事かもって話だ」
「ああ!・・イエ、私に聞かれても勇者様の居場所なんてわかりませんよ?」それに口が裂けても・・は言い過ぎですが、勇者の闇殺に関わる個人情報の提示はしません。
「居場所が知りてぇってわけじゃない、そのモヤモヤを解決したかったんだ。
わかるだろ?どこかにいる宿敵、隠れて力を付けている勇者を毎日気にする心労」
「来るなら早く来い!って事ですね」わかります。
殺す・殺される、どちらにしてもスッパリ終わらせた方が楽ですから。
「でだ、お前に聞きたいのはコレだ!勇者ってやつは、魔王を倒す存在なのになんで真っ直ぐオレの所に来ず、その辺で畑作業とか・商売したりしてるんだ?」
・・・・
「いや、オレ自身の話だからな、気になって調べるだろ?そしたらあいつら」
森を切り開き・畑を作り、行商とか他国との小競り合いをしているんだ。
「仲間はとっくに返り討ちにしてやったのに、なんで一人・二人、謎の行動をしてる?オレを倒すつもりが無いのか?」
戦いが嫌な勇者もいる、前線で戦うだけが戦争では無い事も知っている。でも・・
「かなりの実力と武器を隠し持ってる事が女型の魔族に調査させてわかった。が、
こっちから仕掛けないかぎり戦う気が無いとか・・どうなんだ?」
「中には魔族と商売を始めた勇者もいる、なんなんだ?訳がわからん。確かに魔物は人間の敵だ、滅ぼす滅ぼされるなら、いずれは魔族は滅ぶだろう。神の天秤はいつも人間側だからな。所詮魔族は人間を団結させる為のシステムだ・・
魔王になってわかった、オレ達は神の造ったコマ・人間の敵だって事がよ」
・・・・
「その人間の牙、勇者がなんで魔物と商売をする?人間同士で小競り合いをしている」わからぬ、頭をテーブルにぶつけ、ゴキンッと鈍い音が響く。
「私から言えるのは・・人間にも色々ある、って事ですか。同じ人間に欺され揶揄され人間より金や商売を信じるようになった者、神に見放され信仰に見切りを付けた者当然仲間にだって裏切られ、魔族の方・・つまり力・実力主義に傾倒していった者、そう言った人間は魔族領の方が暮らしやすいのでは・・」
人間が人間を信じられなくなったら社会は終わる、契約・約束を守れない相手をどう信じればいいのだろうか?コロコロ変る心情か?変化し続ける政情か?
風向き一つで言う事が変るような、人間の言葉を聞き留め憶えて置く必要があるのだろうか?聞く価値の無い言葉を吐く人間との会話をする人間はいるだろうか?
「・・面倒くさいヤツらだな、人間てのは。欲望と力に従順な魔族の方がまだ純真だと思うぞ?それが悪だろうと、善だろうとしたいようにする。それでいいじゃねぇか」
「それでは、人間はまとまらないのですよ」その為に神は魔族を・魔王を用意するのかも知れない。(・・・それは・・魔族側の考えだな・・)
「もし気に入らなければ、その勇者と戦うのでしょう?・・なら1度会って見てから判断なされてはどうですか?モヤモヤも少しは晴れると思いますが・・・」
「『悩むより殴れか』オヤジに良く言われたな、まさか人間からその言葉を聞くとは。
どうせ殺り合うんだ、こちらから出向くのも悪くは無いか・・」
「そんな話はしていません!」『殴る前に考えろ!』です。・・・まずは行動から、ニュアンス的には近いのでしょうか?
ガハハハッ、「悩むくらいなら動く、そう言う事だろ?わかってるって、蜂の巣に手を突っ込む気はねぇよ」そこに価値がなければ、ぼそりと呟く。
「最後に一つ、これはお前の考えでいい。魔族に生きる意味ってあるか?人間とは別の文明・文化、必ず衝突する敵対者に産まれたヤツらは、人間から見て存在する意味はあるか?」
・・・・
「人はウソを付き、欺し・搾取し・虐げ・殺し合う、それでも他人が必要無いかと、問われたら『私は、必要だと』答えます。だってライバル・競争者がいない世界なんてつまらないじゃないですか」
・・・くっ・・クカカカカカッ「自らを殺す者も競争者だと!なるほど、人間が強い・強くなるわけだ!敵すら模倣し改良し踏破し飲み込む!なるほど、殺し奪うだけの魔族が手を焼くわけだ!」ははははっ愉快・愉快。
「そうですね、いずれは魔族の力も取り込み人間は成長するでしょう。私の代では無理でも、次ぎの・その次ぎの次ぎの世代でね」
どこかのんびりやっている勇者さま、すみませんがそちらに魔王様が行くと思います
私の感想では、悪い魔王では無いと思われますので河原で殴り合いなどして解り会う事が出来る方なので、どうか宜しくとまだ見ぬ勇者様に托すのであった。
異世界居酒屋こぼれ話 葵卯一 @aoiuiti123
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