第3話 寝取られ勇者の絡み酒
先日はとても尊い方々のお言葉を傾聴する事が出来ましたが、今夜は陰鬱な空気が漂っています。さて・・今日はどんな方の話が聞けるのでしょうか。
ここはナーロッパ大陸の某国、その更に路地裏でひっそり明かりを灯す隠れ家。
居酒屋ネギ泥棒、そこは様々な人間模様が渦巻きお酒で唇を湿らせている。
私は駆け出しのジャーナリストとして、彼等の話を今日も拝聴させていただこうと思います。今日の・・・これは・・また・・大物が・・
「・・あの・・失礼ですが・・その、間違いなら・・申しわけないのですが・・勇者様・・ですよね?」
元々は黄金色だったと思われる重厚な鎧は欠け汚れ、宝剣を包む鞘には爪痕や何かのキズでひび割れ、全身の中鎧は黒く変色が見える。
「ああっ?誰だ?」こっち恐い方。
「・・帰ってくれ・・お前らと口をきくのも・・な?」こっち疲れている方。
「えーと、先ず自己紹介させていただきます。自分はその・・この街で記事を集めて新聞社に売る程度の記者でして・・できれば勇者様のお話を記事に出来ればと・・」
「へっ、それでオレを馬鹿にしようっていうのか?そんなに死にたいのか?」
「止めとけって・・なぁ記者、オレらの記事なんて笑い話にしかならねぇだろ?
誰が好き好んで笑いものになりたいって思う?」
「いえいえ、勇者様は勇者様でしょう?誰が笑えますか、この国も隣の国も皆あなた達に感謝はすれど、嘲笑などと!」
「・・・感謝か?どうだかな、知ってるんだぜ?オレが『寝取られ勇者』とか卑怯者とか言われているのは、そうだろ?」
「なぁ記者さんよ、もし・もしもだ、オレ達が感謝されているとして。インタビューに答える事で笑っている奴・陰口を叩く奴が少しは減ると思うか?」
「もちろん!みんな知らないのですよ、そりゃあ勇者様は特別ですから遠巻きの噂しか知らないので・・・悪い話しの方が先に広まるのは世間ではいつもの事ですよ」
「人間はゴシップの方に食いつく・・か、そりゃそうだ。他人の良い行いを報道し始めたらそりゃあ、国が悪い方に進んでいる証拠だからな」
「まぁでも、ゴシップネタが欲しいんだろ?記者?」
「それこそ、いえいえですよ。私はその辺の・・下世話な話にはペンが動きません。私が知りたいのは事実!特に勇者お二人の話は、多分誰も知らないでしょうから!」
「事実ねぇ・・どうする?おれは別にいいか」
「・・顔は覚えたからな?その記事が出鱈目なら夜道には気をつけろよ」
「ははは・・こわいこわい、ではお話しして戴けると言う事でありがとうございます」 二人の勇者、異世界から召喚された少年のような彼等の横に座り、手帳を開いた。
「まず最初に質問したいのですが・・その本当に異世界から?・・多くの勇者様がいらっしゃるから嘘ではないとは思いますが・・私達からすればその・・」
「信じられない・・か、オレだって異世界が有るなんて知らなかったさ、あんな物 ガキの読むようなマンガの話だろ・・て」
「お伽の国ですか、私達からすれば勇者様の世界の方がお伽話ですが」
「ああ、そうだな。オレ達は異世界から来た、オレは王の召喚で・こっちは王女だ」疲れた勇者は恐い勇者に指をさした。
「魔王って奴を倒す為に力を貸してくれ・・てな、知ってるか?オレ達、ナギリスの王女が濡れた瞳で見上げながら言われたんだぜ」
「ああ、確か・・銀滴の姫でしたか?とても美しい姫だとお聞きすますが」
光りを反射する流れるような銀の髪、青く透き通るような瞳、宝石のように美しい姫だとか、王様の喧伝なので本当の所を市民は知らない。
「んで、オレ達は魔軍の撃退だ。援助は惜しまず、魔物に奪われた領土を取り返し民を救ってくれと。そうすれば黄金・美女と共に帰してやる・・てな」
魔王は倒れ、魔軍は今魔物の領土に戻っている。でも彼等はまだこちらにいる。
(う~~ん、触れるべきか、避けるべきか・・ここは賭けだな)
「でも・・魔王は伐たれましたよね、ならどうして・・」!ひぅ!
「お前・・本当にジャーナリストか?ただの野次馬根性なら今だけ許してやる、
うせろ」
「駆け出しなもんで!本当に知らないのです!勇者の皆さんで魔王を討伐したとだけ」そう、勇者とその仲間が魔王を伐ち倒し、その力を封印したとか奪ったとか・・
「・・本当に知らないのか?・・王の戒厳令ってやつか?はぁ・・・しょうがねぇ」
「確かに魔軍は退いた・・正し、オレ達以外の奴の力でな」
チッ、隣ではやさぐれた勇者の舌打ちが。
「・・はぁ、それでも契約は契約でしょう?帰還されなかったのですか?」
「次ぎの侵攻がわからない、それにオレ達の力じゃないってな。今から考えたら本当に帰る手段があるのかだって怪しい」
「ではやはり、噂は・・その・・本当だったと」
あの噂、信じられないが。彼等の姿を見ていると本当にそんな事をしたのか、もしそうならどんな理由があったのか、私は知りたかった。
「うわさ・・な、どんな噂なんて聞くまでもない・・けど、こっちの人間はどんな風に聞いているんだ?」
「その・・非常に言いにくい話ですが・・その・・仲間を見捨てたとか追放したとか」嘘ですよねぇ・・な~~んちゃって・・
「・・仲間・・か、どうなんだろうな?アイツはオレ達の仲間だったのか、もうよく判らないな」
「あの糞野郎が仲間ぁ?ざけんな!ボケッ!死ねクソッが!」
「落ち着いて下さい落ち着いて、余程腹の立つ事が有ったのでしょうが、ここは落ち着いて」勇者同士の仲が悪いとは聞きましたが、ここまでとは。
「一つ質問だ、記者さん、アンタ文字を使うって事は学校とかには行ったんだろ?」
「ハイ、とは言え貧乏でしたので教会の少年学級でしたが」
貴族や王族・騎士達の学院とは違う、貧しい子供が最低限の知識を与えられる場所。
「その学校・・学級にさぁ、馴染まない奴・ずっと黙ってる奴とか、みんなに付いてこない奴っていたか?」
「ああ、確かにいました。掃除や炊き出しの手伝いとかしない、終始学級をサボる奴」
そんなのは何所にだって居る、異世界では違うのか?
「まぁ・・実際、足手まといって奴だ。部活もしない、話す奴もいない、そのくせ 『自分はオレ達とは違う』みたいな顔でチラ見してきやがる」
「アイツはただのコミュ症の根暗なゲームオタクだ、特別なんかじゃ無ぇよ!」
「はぁ??ゲーム??」チェスとかでしょうか?確かにそのテの達人は寡黙と聞きますが、根暗ですか・・
「え~~とお互いのコミュニケーション不足と言うやつでしょうか、人間同士ならよくある事ですが・・」
ヘッとハッが返って来た、彼等の間にどれだけの諍いがあったのでしょうか。
「アレだ、元いた世界で足手まとい・・邪魔と言っていいやつがいたとして、ソイツと全く知らない世界に連れて来られてだ。お前ならどうする?」
「そうですねぇ・・無視か放置でしょうか、まずは自分の身の安全ですから」
「「だろ?」」二人同時の相づち、良かったこれは勇者のいる異世界でも同じ行動だったようです。
「でだ、世界を渡った人間には天恵とかギフトとか、とにかく凄い能力が手に入るんだ。そしてオレは[絶対斬]物体ならなんでも斬る能力だ」
「おれは[勇者特性]だ、他の奴と違い全部のステータスが伸びる。筋力・反射力・視力・聴力・当然魔法だって属性の縛り無しで憶えられる」
「それは・・凄い!凄いじゃないですか!さすが勇者様」
魔法なんて普通は特性を持つ属性しか使えない、上位魔道士でも2つまで。
それを極められるだけで、100人の騎士に匹敵すると言われている。
「で・そのみそっかすのスキルが[ ]空白だ、何も無い空っぽだ。どうよ?」
「こっちの陰キャはステータスがマイナス、全部-補正だ。向こうより貧弱になってやがったんだ」
・・「それは・・何と言うか・・ご愁傷さまとしか」
王様だってただの市民を召喚して戦わせるのには、気がとがめるでしょうに。
「おれだってな、そこそこ使えるなら同じクラスの奴だ、守ってやるかくらいは思う。でもな、ただでさえ運動もしない奴が魔物討伐になんてな・・
『ああ、こいつ死ぬな』って思ったよ。そしてそれもしか無いって」
「おれは荷物持ちでパーティに入れて、経験さえ積めばステータスが上がるだろって・・少しは思った・・そしたらアイツ、マイナス成長してさ、歩くだけでフラフラしやがる・・なぁ、そんな時レベルの高い魔物が現れたら、逃げるだろふつう・・」
「弱肉強食・・魔物は強い弱い関係無く襲ってきますから・・」
私も戦場で逃げ遅れた人間を見捨てた事はある、どうしようも無かったと今でも思うが、それでもその時に力が有ればとも・・
「大体な?弱っちくてマイナス成長でさ、なんでアイツが!・・クソッ!由美の奴もなんでだよ、わかんねぇよ!」
「由美さん?・・彼の許嫁でしょうか?」
「こいつの学年で・・学校で一番の美人だよ、頭が良くてスタイルが良くて優しい」
「・・勇者様はその由美さんとお付き合いをしてたんですね」
「・・その女が今ここにいないのが答えさ、当然死んだってわけでもない」
「おれは、さ。チビの頃からサッカーやって、小学中学で大会優勝もした、高校でもチームを引っ張って、毎日朝晩走って蹴って。みんなで馬鹿やって、そりゃ尖った奴もいたけどチームだから間を取り持ったり」
「先輩とかの付き合いとかも、なんとか緩衝してな?部活あるあるだよ」
「汗もでるからニキビとか気にしてさ、シャワー浴びて髪を短くして汗臭くならないようにしてさ、服だって泥とかで汚れるから部活と私服のバランスとか頭使って」
「部活の遠征でクラス行事出来ない事があるから、クラスの奴に気を使ったりしてな」
「なにがカースト上位だ!お前らそれだけの努力してんのかって!」
「つまり、体を鍛え、身だしなみや会話術を身に付けた、と」
「それだけじゃねぇ、馬鹿だとクラブを辞めさせられるからクッソ眠いのに参考書やったり部活仲間で勉強会したり、毎日必死だ。だから!だから!」
「まぁモテたんだ、オレ達は。だってそうだろ?筋力・体格・会話・学力、そんで チームとか試合で点を取ったら自信だって付いてくる。実力と自信がある奴はモテる」
「確かに、それに努力だってしてるじゃないですか。女性にもてて悪いんですか?」それこそ、この世界と同じ、力ある人間に男も女も集まって来るでしょう。
アレ?ではなぜ由美氏はこちらの勇者の隣にいないのでしょうか?
「・・その顔、それだ。おれもそう思うよ。でもな・・女子ってのは・・保護欲?
母性?なんつーか弱い奴ほど守りたくなる・・のか?」
「しらねぇよ!」
「でも・・その弱い勇者と共にいたら、死んでしまうじゃないですか」
この世界は弱者には優しく無い、弱者・運の無い人間から死んでいく。
「・・・逃げて・仲間を説得して、『強くなったら仇は伐つ』って、オレ達は戦い続けたんだ。魔軍指揮官だって倒したんだぜ?マジで」
「おれはさ、由美を抱えて逃げたんだ。崩れて行く柱や梁が見えたからさ、『アイツ運までマイナスだったんだ』って思った。
『運の無い奴から離れられて助かった』と思った。
『あんなヤベェ魔物が出て来たのも、こいつの運の無さだろ』って思った」
「仕方無かったんですね、わかりますと軽々しく言えませんが、その時にした選択が今あなた達を生かしていると思えば正解だったのでしょう」
「まぁな、あのまま戦っていたら全滅してた。今でもそう思うでもな・・はぁ・・」
「なにか有ったので?」
「アイツの[ ]空白な、チートだったんだ。」
「チート?とは?そういえば偶に聞く言葉ですが」
「白紙・空白って事は、なんでも記入出来るって事。つまり何でもスキルさ、なんでも出来るって事。それこそ魔物のスキルだろうと、オレの[絶対斬]だろうと、
なんでも幾らでも記入出来て使えるってスキルだ・・・そんなのわかるかよ」ハハッ
「そんでアノ屑は[マイナス特性]つまり自分にマイナスに働く呪いの武具や道具をペナルティー無しで使えるって・・どうよ?」
?「そちらはよく解りませんが」
呪いの武具を装備出来ても、狂ったり命が吸われるとか聞きますが。
「[成長鈍化]の呪いは、奴に取っては[成長加速]、体力を奪う呪うなら体力回復だ。マイナス+マイナスじゃなく、マイナス×マイナスだってよ馬鹿じゃねぇか!」
「それは・・凄い、のでしょうか?勇者特性の方が凄いと思いますが。」
「魔王の呪いだって+に働くんだ![死の呪い]も[死なずの祝福]になるんだ、 呪いの吸収、状態異常の吸収、運だってプラスだ。それに呪いの武具も魔具も禁呪も使い放題、チートだろ?おかしいよな?」
運の無さがそのまま裏返る、呪いの武器には自分の命を奪い、強力な一撃を放つ物も有るらしい。使用者の生命・魂・未来を犠牲にするような道具には、それこそ竜の息吹にも匹敵する威力も物のあるとか・・・
「え・・・それって、無制限でドラゴンの息吹が放てる人間ってこと?ですか」
ハハハハッ、「お陰でオレは奴の風下だ、魔王すらアイツには勝てなかった。なんせ魔王の力ってのは、人間に対する恨み・世界の負の力だからな。
「負の力をプラスに変えられる勇者には勝てない・・・と、なるほどでもそれと」
女性は関係ないのでは?
「奴を見捨てた痼り、一人で戦う奴の姿、呪いを引き受けて助けた貴族の子、一族を呪いから開放して付いて来た獣人少女・・・由美の奴4番目の女だって」ハハッ。
・・・・
「オレなら浮気なんてしねぇよ、好きなのは一人だけだ!向こうにいた時からずっと好きだったんだ!お前が庇うから・・おれは・・おれはアイツが嫌いだったんだ!」
「オレには好きとか嫌いとか、感情は無かったけどな。まあ駄目だ、ハーレム作ってふんぞり返る奴の目がな・・まるで虫を見るような目だった」
万能に近い力を得た元同胞、自分を見捨てた過去の強者。その二人の間に出来た溝はどのくらい深く、その壁はどれだけ厚く高いのだろうか。
「なぁ、オレ達の非は無いとは言わない、けどさ。そんなに悪かったかなぁ?」
「今でもな、アイツの笑い顔・泣いてる顔・落ち込んだ顔が浮かぶんだ。そんで現実はアイツは今、肌の透けた布を付けてクソッタレにしなだりかかって!そんで!そんで!」血涙、そんなものを見た気がした。
今でも魔王を倒した勇者は、その言葉の中に『見捨てられた』と時折顔を歪め、 美姫の胸に顔を埋めているらしい。
そして魔軍を追い払い、自ら建国した勇者はハーレムを作り
『おれは追放されてから本気を出したんだ』と様々な種族の女性に囲まれている。
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