第2話 おおっ!?彼を追放するとは何事か!
「この間は酷い目に合いました、神様ってのは本当に・・・・ですがどうやら戻れた様ですね」
滅多に人の寄りつかない隠れた名店、それが居酒屋[ネギ泥棒]そんな場所には吸い寄せられるように今日も様々な人達がやって来る・・あちらにおわす御方々は・・
「スイマセン、突然お声を掛けてしまい・・ですがどうしても問わずにはいられなかったのです・・もしかして・・いえ、もしかしなくても王様・・ですよね?」
肩に掛ける分厚いマント、白髪混じりの黄金の髪、少しやつれた顔の年かさの顔。そこいらの老人とは全く異なる隠された威厳、国王様ですよね。
「・・誰だ?・・と言っても儂が憶えているのは甘言しか吐かぬ元重鎮のみ、お前のような若い男など・・クソッ、知らん知らん!そっちの知り合いか?」
「儂だって知らんよ、なぁ若いの。こちらに憶えが無いが、そちらは知っている。
もし儂らに掛けられた追っ手でも無いのであれば、名前を聞いてもいいか?」
「まぁ・・しがない物書きと言いますか、記者と言いますか」
2人の王の前には、王の食卓とも思えないような地味な煮物。それをフォークとナイフで器用に口にし、濁り酒を一口。
「記者・・か記入する編纂者といった所か。なら自身の感情を混得ぬ為に名を伏せる事もある・・か」黄昏れた王の顔にほろ酔いの赤みが差している。
「いいだろう、酔いの肴だ、この王に訪ねたい事が有っての事だろう。なんぞ問うが良い・・はははっ、笑い話にでもしてもらおうじゃないか!」
落ち込んだ王と吹っ切れたような王、2人の王様にお話しを聞く事の奇跡。
さあ何から質問すればよいだろうか。
「2人のお顔はどんな臣民でも存知上げていますよ」それこそ辺境の農村の子供以外。このナーロッパ大陸、ナーロッパ王国群に立つ2人の国王。
はっ「無脳王か?それとも頓知奇王か?ははっどうせ馬鹿王だろ?怒らんよ」
「この若者はそんな事いっておらんよ、なぁ若いの?こっちは酔いが進んでおってな」 悪い悪いと、こちらの国王様は優しくわらう。
「まずは・・失礼な事を言うかも知れませんが、ご容赦・お許し戴ければ・・と」
一言間違えば斬首も有り得る相手、酔いの間違いで不興を買いたくないので。
「ああ、王の名において許そう。酒の戯れ・余興だ」
「こちらも、許すと誓う、まぁ限度さえ間違わなければな?」
王様の誇り・血筋・家族の名誉を穢さないなら、そう約束して話が始まった。
「まず最初に聞きたかった事はですね、勇者召喚の事についてです」
・・まずったか?露骨に顔が歪み、苦虫を噛みつぶしたような顔になってしまった。
「まあ・・それだよなぁ・・・」
「クソッ!あいつらさえいなければ!クソッおれは欺されたんだ!」
いきなりの逆鱗、やっぱり打ち首か。ちっくしょう!好奇心猫を殺すだ!
「確かに平民・・市民が儂らに聞きたいのはそこだとは思うが、 それは聞かれたく無い所だ。・・それでも・・過ぎた話だ、儂は聞かせてやるよ」
はぁはぁ、「お主が話すのであれば、儂が口を開かぬ訳にはいかぬ。クソッ、人生の汚点を・・確かに過ぎた話とは言え・・王が市井に失敗を聞かせる時代が来るとは」
「では、儂から話そうか。そうだなぁ、事の始まりは・・・魔王の再来か。儂の所のお抱え魔道士、そちらで言えば宮廷魔道士か?ソイツが星を読んだ結果、魔王の誕生を伝えて来たのだよ。だから古き伝承に従って命じた、王としてな」
「こっちは神官長だ、神の啓告だかなんだかで、勇者を召喚せよだとな!」
「では何故追放など?神様が命じなさったんでしょ?魔王を倒す秘策として」
・・・・「なぁお前、本当に神なんて信じているのか?いるとして、ソイツに全てを委ね、国家国民・自分の家族の命運を預けられるのか?」
「ははっ、ソイツができるのは神官とか狂信者くらいだよ。王は全ての責任を背負い、全ての国民の為・家族の為に決断を下す、神様のせいには出来んよ、王は。」
神の啓示も判断の一つ、失敗も恨みも成功も民の喜びも、全て双肩にかけているのが王であり、王足る者の責任であると言う。
「その中で、追放など・・何かの役と言うか、神様のご意志とかは・・」
「考え無かったか?まぁそんな余裕も無かった、と言えばいいわけになるが」
「王はいいわけしない!間違いも認め無い!それが王である。
王が間違えば国民・民心が揺らぐ、兵が笑って死ねなくなる!
ヤツらは王の為・正しさの為・家族・国家の為に死ぬ事で笑えるのだ!」
「すみません・・」
「謝る必要は無い、結果が全てだ。少なくとも王が・儂が斬首されてないくらいの間違いだったと、今は思っとる」
「国を良くする為の最善を常に求められる!王は!王足る者は常に正しい選択を求められる!・・・それは・・間違いなのか・・?」
「なぜ追放したのか?それはヤツが、ヤツら勇者の中でヤツが一番使えぬと思ったからだ!なんだあの[豆腐を作り出す]ってのは!解るか!
他のヤツは[剣術マスター]とか[炎魔法【極】]だぞ?なんで?なんだ豆腐って」
「こっちは[大根を育てる]能力だ。あの大根だよ、戦争になんの役にたつと思う?」
一方は城壁・白き鋼の守護者、もう一方は大地の軍賢者、どちらも他国で魔王と戦い民を救い・英雄と呼ばれ。追放した2人の王、つまり2人は愚かな王として蟄居・王権の返上を余儀なくされた。
「なぁ?聞いてもいいか?大根って、鉄より固く、馬より早く走り、
戦士より強くなる者なのか?大根って全ての食料難を無くす程の物なのか?
甘いのか?肉より美味いのか?回復薬よりキズを癒すのか?」
・・・・・
「豆腐!チキショウ豆腐!無限に作り出し、ミスリル鋼より堅く、燃えず、鉄より固くて、喰えるってなんだよ!死者以外は全部癒す豆腐鍋ってなんだよ!バカヤロウ」
・・・・
「戦争に使える資源は限られている、[何者も切る一太刀]と[天候を操る魔術]
その中に[大根を育てる]ヤツがいて、金・軍馬・近衛兵・宝剣を預けるか?王がそれを判断するなら、オレを育てた博士達は狂人だよ」
その隣では厚揚げを切り裂き・細かく切り裂き・フォークで突き刺す王がいる。
「でも!でもですよ?有効性が判れば支援とか、過去を忘れ、手を借りるとかあるのでは?」それをしなかったせいで、他の勇者は魔王に討ち取られ、他国の勇者の手を借りることになったんです。
「まぁ・・そうなんだが」
「王が頭を下げられるか!王がこうべを垂れるって事は、国民全てが頭を下げる事だ そんな屈辱!それにその時はまだ魔王との力は拮抗していたんだ!」
まだ行ける!まだ大丈夫!そんな心と状況がそうさせたと。
「それにな、オレ達が優遇した勇者も頑張っていたんだ。今更手の平を返してお前達よりこっちの方が有用などと、無理に召喚しておいて、殺し合いをさせて、
今度は道具扱い。そんな王に勇者も兵も着いて来るか?おれはあいつらに賭けたんだ」
その時も今も、今更ってヤツだ。と。
「それにな、最後には勇者達は同郷だろ?助け合って魔王討伐するだろうって打算も有った。同じ国のヤツ同士、命が掛かれば当然だと思うだろ?」
「そうだ!やつら!王の知らぬ間に決別などしやがって、あいつら仲悪すぎるだろ!
スタートは違っても、成長すれば子馬も駿馬に変るって事を知らんのか!」
「そう言えば彼等、仲が悪かったって有名でした。向こうの世界で何が有ったかは知りませんが、勇者が死んでも涙一つ流さなかったってのは聞きますね」
「亜人に耳長、女神まで侍らせているって話な、あれは本当か?」
チッ「おれの娘は号泣して部屋に籠っまったってのに、人間の心が無ぇんじゃないか」
「勇者達は私達市民とは思想も感覚も違うようですから、ああ本当らしいですよ」
・・・
勇者に姫が[何をした]か、は聞いていますが、そこは今は置いて置きましょう。
「勇者達が最後に王様達に上訴したって話は聞いてますが、それさえ蹴ったと言うのは本当でしょうか、もしそれを聞き入れていたら・・」
ハッ!「話にもならん戯れ言だ!魔王を倒す兵器が、『倒せそうも無いので、オレ達が国の全権を預かって勝利します』などだから王位を返上せよと?馬鹿共が!」
「ああ、こっちも同じだ『国民全てを戦いに参加させないと魔王軍には勝てません、皆の力・意見を取り入れた議会制の導入を』などと、そんな事をするぐらいなら勇者召喚などしないよ、アホなのあいつら」
・・・・
「結局オレは王妃に権利を譲り、王家は形骸化。象徴なんだってな?口を塞がれ手足も縛られ、ただ笑ってろってな。」はははっ。
「こっちは大公に半分国をとられたわ!大公のヤツ、裏で豆腐と手を結んでやがった」
「ああ、大公の娘さまのご病気を完治させたとかで」今は大公の娘も勇者の愛人だと。
「でも、私は・私達は王様が・王家が好きですよ。少なくともオレの祖母ちゃんや爺ちゃんの時代は平和に収めていたのは事実ですし」
「ははは・・ありがとう・と言うべきか、平時の君も乱世の無脳を嗤不[わらわず]」「国を平和にするのは王の当然の役割!感謝される必要は無い・・が、今は受け取ろう。民の言葉と言うのは・・偽りが無いからな」
「最後にひとつ・・このままで・・王様は、戦争が終わった今、王権に返り咲く事は」
「キツい事を言う、それは・・戻って欲しいと言う事か?それとも・・このまま無力に老いさらばえろと言う事か・・・・そうだな、いや・・」
「奪われた者に甘言を挿すなバカ者!もし欲して、もし手を伸ばせば乱世の再来だ!
王の血はまだオレから枯れず!されど魔族が死に絶えた訳でも無い!」
王の葛藤、王の座に未練はあるが、王の誇り・民を思う心、そして今の自分の姿。王族の力の及ばない戦い、それでも、まだまぶたに残る玉座からの光景。
「ありがとうございました」
それは質問に答えてくれた事に対する感謝か、それとも今まで支えてくれた事にたいする感謝か。ただ今は深々と頭を下げ、流れる涙で床が濡れた。
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