第2話
進真
「俺、帰るわ。」
準備していた物を片付け席を立つ。
華澄
「待って!」
そんな華澄の声にも止まらずドアのほうへと歩き出す。
女子達
「男子ヒドーい。」「あれじゃあいくらなんでもかわいそうだよ。」「言いすぎだよね。」「久々に学校に来たのにもう来ないかもよ。」
男子
「い、いやぁ…でもあいつは…なぁ!」
男子
「ぁ、あぁ!あいつは超能力者で危ないんだぜ!?むしろ俺らが皆を守った的な?」
理由を取って付ける男子。そうだ、全ては超能力者であるあいつが悪い。そう決めつけている。
華澄
「進ちゃんはそんなことしない!」
大声を出した華澄に、教室は静寂に包まれる。
そして、進真の前に立つ。
華澄の目には、強い眼差しの奥に悲しみが見える。
進真
「すまん。やっぱり学校は嫌いだ。」
ふっ。と、華澄の目の前から消え、後ろに回る。
テレポートだ。
進真
「お前は何も悪くない。」
そう言って進真は消えていった。
華澄
「進ちゃん…」
男子
「活花さ…」
華澄
「進ちゃんが!今まで他人に超能力を使ったことがあったの!?あなたたちは何も知らないで進ちゃんを平気で傷つけて!進ちゃんはただ…………
………普通に…………皆と一緒に……」
泣き崩れる華澄。友達の女子がすぐにかけより慰める。
それを見て自分達のしたことを自覚する男子。
先生「おや?なにかトラブルですかね。授業はこうけつにしとくから、保健室行ってきなさい」
丸坊主で小太りの先生。並木先生が入ってきて華澄に言った。
先生
「他の生徒は席に着きなさい。そこの男子、後で職員室に来なさい。そこで話を聞きます。」
男子はばつの悪そうな顔をして席に戻っていった。
女子
「少し落ち着いた?」
保健室に同伴していた友達は華澄を椅子に座らせて様子を伺う。
保健室の先生は少し事情があるとのことで席をはずしていた。
華澄
「うん、ありがとうね、佐里さん。」
まだ落ち着いて間もないので目元が赤い。
そんな華澄をみて佐里はかける言葉がなくただ頭のなかで言葉を探していた。
華澄
「進ちゃんはね…」
言葉を探していると華澄の方から話してくれた。
華澄
「いつも超能力者ってからかわれたりはやしたてられたりするのが凄く苦手だったの…」
言いながら華澄は再び涙を止められなかった。
華澄
「それで…超能力を人前で滅多に使わない進ちゃんはさっき…みんなの前で使った…それはもう…学校に来るのを諦めたんじゃないかって…」
佐里
「華澄ちゃん…」
華澄
「ねぇ…進ちゃんは、皆と同じように普通の日常は遅れないのかな…?」
佐里
「そ…それは…」
黙ってしまった。それが正解なのか間違いなのかまだ分からない。超能力者は危険。それだけが今の時代の常識となってしまった。
それもこれも超能力者による事件が多いからという理由だけなのは明白だ。しかし、それが蔵一進真を安全だと言える理由にはならない。
しかし、進真の扱いはそれだけが理由ではない。
佐里
「華澄ちゃんはさ。進真のこと信用してるけどさ。あたしはさ、華澄ちゃんのこと心配なんだよね。ほら、あの時も、華澄ちゃん進真のせいで危なかったんだから。」
華澄
「そんなの…誰も犯人を見てないんでしょ。だから誰も進ちゃんがやったって証拠が…」
佐里
「華澄ちゃん。本人が認めてるんだよ。」
華澄「…え?」
佐里
「私も信じられなくてさ…進真に聞いたんだよ。そしたら、自分がやった。間違いないって」
華澄
「そんな…そんなこと私が聞いても言ってくれなかったのに…」
佐里
「だからまだ正直、私はあいつのことを信用していいのか分からない。」
華澄は顔をうつむかせ、それ以上なにも言わなかった。
学校から出た進真はいつもの散歩道の方へと向かい通り回りして家に帰っていた。
進真
(分かっていた。学校は俺の居場所なんかじゃないってことも。こうなることも。)
進真はゆっくりと歩を進めていく。まだお昼にもなっていない。時間的には9時か10時頃だろう。
進真
「ん?」
住宅街の中を歩いていると目の前に小学生程の少年がキョロキョロしながら道をあちこちと往復しているのが見える。
進真
「迷子か…」
進真は放っておけず少年の方へ歩いていく。
少年は金色の髪が被っている帽子の端から少し見える。恐らく外国人だろう。
進真
「大丈夫か?迷子なら一緒に保護者を探してやるぞ。」
声をかけるとこちらを振り向きニコッと笑う。
ロット
「俺、ロットって言うの。人を探してるんだ。」
ロットは元気な口調で自己紹介と用件を話す。
進真
「そうか、ここら辺は危ないから交番まで送るぞ。」
ロット
「あんた、名前は?」
進真
「名前か?蔵一だ。」
腰を落とし目線を合わせながら話しているから、すぐに分かる。
名前を聞いた途端、ロットは僅かに微笑んでいた。
ロット
「蔵一。俺は今迷子だ。交番まで連れてってくれ。」
やけに上から目線でくる少年を進真は咎めることもなく、「それじゃあ、行くぞ。離れるなよ。」
と対応に馴れていた。
進真は少年を先導するように前を歩く。
ロット
「蔵一。下の名前は何て言うんだ?」
進真
「進真だ。蔵一進真。もし言いにくかったら好きに呼んでもいいぞ。」
ロット
「へぇー。進真って言うのかー。じゃあ進真で。」
ロットは進真の後ろで更に不適な笑みを浮かべる。
ロットはポケットに入っていた長いペンの様な物を取り出す。
そのまま背中を向けている進真の足に突き刺した。
ロット
「…!」
筈だった。ペン状の刃物は進真の足に触れる寸前で止まっていた。
進真
「それには毒が塗ってあるのか?」
進真は振り向きロットを睨めつける。
ロット
「バカな…」
いつの間にか刃物と同じくロットの体も痺れたように動かなくなっていた。
進真
「俺の名前を聞いたときの反応がおかしかったからな。わざと隙を見せて誘ったんだ。」
進真はそう言うとロットの額に指を触れる。
その瞬間周りの情景が変わり、いつの間にか進真の自宅にテレポートしていた。
進真
「ここは俺の家だ。音も聞こえないようにバリアを張ってる。助けを呼んでも来ないぞ。」
あんな道端で大声を出されては誤解が生まれてしまう。それを避けるためにバリアを張りやすい自分の家にテレポートした。
進真はロットの頭を後ろから指で小突くと痺れが取れるのと同時にロットは派手に前へ転んだ。
ロット
「ぎゃぁっ!」
転んだ拍子に刃物は前へ飛ぶ。それをすかさず超能力で引き寄せる。
進真
「これは預かっておくぞ。」
ロット
「くそっ!やっぱり超能力者か!ぜってぇ殺す!」
ロットは猛り狂う様に進真に向かい走る、ロットの手にはいつの間にか出した二本目の刃物が握られていた。
進真
「全くっ、最近の子供は礼儀をしらないのかっ…」
ロットが進真の顔めがけて刃物を振る。
振り切られるその寸前にロットの背後にテレポートし、ロットの背中に手をかざす。
進真
「【圧縮】」
進真の声に合わせ掌に風が集まる。
集まった風はロットを勢いよく吹き飛ばした。
ロット
「だぁっ!がはっ!」
吹き飛ばした拍子にバリアを張っておいた。今吹き飛んでぶつかった衝撃も恐らく体したことはないだろう。
ロット
「なんだ…何を…」
進真
「掌の周りにあった空気を圧縮して放った。威力は押さえてある。」
進真
「さて、次はもっと強くするか?」
ロット
「待てっ!悪かった!許して!」
ロットは座り込み懇願する。
進真
「それじゃあ、質問に答えてもらおうか。お前の雇い主は誰だ?」
ロット
「……」
ロットは俯いたまま口を塞ぐ。
進真
「そうか、なら…」
ロット
「分かった!話すからその手を下ろして!」
そう答えたので2回目の【圧縮】を準備していた手を下ろす。
ロットは座り込んだまま話し出した。
ロット
「俺が雇われたのは個人じゃない。ある組織に雇われたんだ。」
進真
「………」
ロット
「名前までは分からない。でも、1人で仕事をしてきた俺に人生を変えるチャンスをくれるっていって、もし本当ならって思ったんだ。」
進真
「なるほど。それで俺を殺す依頼を受けたと。」
ロット
「うん。結局は負けちゃったけどね。」
進真
「それなら1つ確認したいんだが」
ロット
「?」
ロットはこれ以上情報はないはず。という顔を見せている。
進真
「近頃の殺人事件もお前の仕業か?」
ロット
「え?殺人?俺の標的はまだあんたが最初だよ。それに、今日来たばかりだから誰が標的とか名前聞くまで分からないし。」
進真
「なるほどな。分かった。最後に1ついいか?」
ロット
「ん?」
進真
「何があって超能力者を恨んでるかは知らんけど、その歳から人を殺めると後戻りができなくなる。今のうちに足を洗っておけ。」
ロットは立ち上がり俺の方をみる。
ロット
「俺を子供扱いすんな!もう13才だ!」
進真
「まだ13才じゃねーか。全く、もう帰っていいぞ。」
ロット
「え?」
進真
「聞こえなかったか?帰っていいって言ったんだよ。今日はバーゲンの日だから忙しくてな。」
ロット
「自分を殺そうとした奴を見逃すか?普通…」
ロットはため息を吐きながら玄関口から帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます