第1話
公園の勝負申請から5分後…
「この野郎!どこにいきやがった!」
進真は断り続けるのを諦め、勝負を放棄していた。実際、今は家にいる。
勝負を断ってもしつこく付きまとい、ついには実力行使でも、戦うというので進真は公園を飛び出し、見失った所で家までテレポートしてきたのだ。
進真は何事も無かったかの様に掃除を始めた。
彼は蔵一進真18才。10年以上も前に超能力者としてTVで取り上げられたことによって彼は有名になった。しかし、今から10年以上も前のことだ。今では彼を知るのは政府の人間か身近な人間くらいだろう。そして、そんな超能力者である進真を政府がまた、注目視しているのである。
さっきの公園での男も政府に買収された超能力者だろう。そうやってちょっかいをかけることによって進真の力を国家勢力として利用しようとしているわけだ。
今、この世界中において最も注目されているのは超能力者だ。国は超能力者にあらゆる優遇を施すかわりに国の兵器として力を貸している。
今や全世界の超能力者がそれぞれの国の力として動いている。しかし、進真は違った。能力が低いわけでも、政府が見捨てているのでもない。
彼自信の意思で力を貸していなかった。
優遇などに興味はなく、ただ平凡を望んでいた。
しかし、そんな平凡など簡単に崩れ去って行くのを彼は後に知るのである。
掃除が終わり、少し休憩をとる。
進真
(少し寝るか。)
そんな感じで一日を終えていた。
次の日…
アラームで目覚め、身をおこす。
今日も平凡な1日が始まるのである。
家は2階建てであり、進真の寝室は二階なので階段を降り一階のリビングへ向かう。リビングからキッチンに向かい朝食の準備をしていた。
「お兄ちゃん、おやよ~」
いつの間にか妹が起きて階段を降りてきた。
「空羽おはよう。すぐに飯ができるから、早く顔を洗ってこい。」卵をフライパンに二つ落とし、パンをトースターに二枚いれる。妹の空羽は目を擦りながら洗面所に向かった。
今日はパンに目玉焼きといった一番のシンプル食だ。いつもは、炊飯器をセットして時間指定の炊飯をするのだが、昨日米を切らして買うのを忘れてしまったので、朝食はパンになった。
「昨日の公園から戻ったあと眠らなきゃ良かった…」
昨日の公園から戻った進真は掃除をした後直ぐに昼寝をしてしまったので、夕飯も遅れてしまい、空羽に散々拗ねられたのですっかり忘れていた。
そんな事を思いながら朝食を作り終え、二つのお皿にそれぞれトーストと卵をのせる。
「空羽、できたぞ」
「はーい!」
洗面所から着替えて出てきた空羽は珍しく髪を1つに結んでいた。
「どう?」
こちらの顔を覗きこみながらにこにこしている。
「ツインテールはやめたのか?」
そう言うと不満そうに顔を歪め、そそくさと席についてしまった。
「あぁ…ポニーテールも似合うな」
後付けのようにいったが、空羽はそれでも笑顔になってくれた。
「中学3年生の夏だもん!お兄ちゃんもイメチェンしないと!」
「いや、夏とか関係ないだろ。それに俺はイメチェンしても意味ないだろ。」
日に日に散歩しかしない進真がイメチェンしたところで変化を指摘してくれる人は早々いないだろう。「意味あるよ!空羽が喜ぶ!」
「お前だけを喜ばせるのにイメチェンするわけないだろ。それに、空羽以外は誰も気づかないだろ。」日頃歩いているとはいえ、誰かとあいさつしてるわけでもなく人があまり来ないようなルートを散歩しているので記憶に残っているか微妙である。
「華澄さんなら気づいてくれるかも!」
「ああ、そうだな。華澄なら気づいてくれるだろうな。」2人で手を合わせいただきますをして朝食をとる。
華澄という名前が上がり気分が霧に隠れたようにもやもやする。
そんな進真の表情をみた空羽が心配そうに見つめる。
「お兄ちゃん、華澄さんと喧嘩したの?」
「まさか。華澄と喧嘩なら昔たくさんしたからな、もう喧嘩する気力も残ってないよ。」華澄は進真の幼馴染みで同級生だ。超能力を見ても気味悪がられなかった、唯一の友達だろう。
「それなら、何でそんな顔してるの?」
そう言われはじめて気づいた。
「お兄ちゃんすごく怒ってるみたい。」
自分で怒ってる自覚は無かったが妹からは怒って見えたようだ。しかし違う、そんなんじゃない。
華澄の気持ちは分かっていたからだ。
「大丈夫だ。華澄は多分今日も家に来るだろうから。」
「お兄ちゃん、今日も学校に行かないの?」
言われた言葉が華澄の言葉と重なる。
しかし、行く気にもならなかった。
「まだ、学校に行くつもりは無いかな」
本当は退学まで考えている何て言ったら、空羽を余計に心配させるだけだろう。
「お兄ちゃん留年にはならないようにね!お兄ちゃんと一緒に学校に行けるのは嬉しいけど、ちゃんと卒業しないと仕事が出来なくなっちゃうよ!」
「今の仕事だけで正直充分なんだが。」
そんな話をしながら朝食をすませた。
「それじゃあ行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい。」
ポニーテールを左右に揺らしながら空羽は家を出発した。正直心配なんだがまぁ、何かあればわかるし大丈夫だろうと、思いながらキッチンに向かい、さっきまでの食器を洗おうとしたその時、
「進ちゃ~ん。」
そんな声がしたのである。
声の主は予想はついているが本当に来たようだ。
食器を洗うのを後にして玄関に向かう。
そして、玄関を開ける。目の前には満面の笑みを浮かべるショートヘアーの美少女…
…やはりそこには華澄がいた。
「何のようだ」
「酷いなー。人が折角毎週来てあげてるのに。」
華澄はそう言いながらも閉め出されないように扉を押さえている。
「今日こそは学校行こ?」
暗黒微笑のように不敵に笑うその姿はまるで…
「いかねぇよ。それと閉められないから離せ!この悪魔!」力強く引っ張るがそれ以上に華澄の力は強く閉められる気配がまるでない。
「だめぇ~!毎回引きこもってれば見逃してもらえると思ったら大間違いだよ!学校行かないと内定取れなくなるよ!だから今日こそは連れてくぅー!」
扉が壊れそうなので流石にこちらから力を入れるのは諦めた。
「俺が行ったら華澄が悪く言われるかもしれない。」
結構真面目な顔をしていったのだがこれはどうか?
「そんなこと言う人はうちの学校にいないし、言われても別に気にしないよ?」
まるでダメだった…
「あのなー、お前が気にしなくても俺が気にする。それに、お前には家の手伝いもあるだろ。毎週店の休みの日だけわざわざ家に来て、無理に連れてく必要もないだろ。」
「だって、そうでもしないと進ちゃん学校いかないでしょ?家の手伝いは毎週忙しくて登校ギリギリになっちゃうけど、休みの日ならこうしてゆっくり登校出来るから大丈夫!」
華澄の家は近所の喫茶店である。
華澄とは5歳の頃からの付きあいで喫茶店が休みの毎週水曜日によく遊んでいた。
流石に5歳の子供2人だけで遊ぶのは危険ということで喫茶店の店長、すなわち華澄の父親が喫茶店のフロアを開けてくれてよく遊ばせてくれた。
その店長の店を華澄は朝から開店準備を手伝ってから登校している。
ほんの少しだけ沈黙する。
「今日も学校行かないの?」
不安そうに眉をひそめる華澄を見て朝の空羽を思い出した。いや、どちらかと言えば毎週この質問を華澄にされているのでたまたま重ってしまっただけだが。
少し考え一呼吸おく。
「分かった、今日だけな。」
「え?本当に行ってくれるの?」
きょとんとしたような反応だ。
「華澄が行けって言うから行ってやるんだ、行ってほしくないならそうするが?」
「いや行ってほしい!一緒にいこ!」
笑顔で手を引いてくる。
「分かったから、今から準備してくるから少し待ってろ。」
「うん。待ってるよ。遅刻しないように急いでね。」
「おう」
その言葉に手で合図してドアを閉めた。
着替えが終わり華澄と学校に向かう。
「お前もよく毎回家に来るよな」
「もうその話は終わりでしょ。でも、こうして久しぶりに一緒に登校するのも悪くないでしょ?」
「登校すること事態に悪いもなにもない。その後の学校が嫌なんだよ。」
(主に学校で俺に視線を向けまくってくる奴らがな)
「そんな嫌な学校に毎朝空羽ちゃんを送ってるのに~?」
痛いところを突いたと言わんばかりににやにやしながら口に手をあてこちらを見てくる。
「空羽は学校が嫌いじゃないみたいだからな。それに、俺の学校とはまた違うだろ。年齢も学校すらも。」
「はいはーい。今日もシスコンご苦労様でーす。」
今の言葉をまるで気にしないと言うように、のほほんと返してくる。まぁ、いつもこんな感じの空気だからこそ、悪くないのだが。
時間通りに学校に着いた。華澄も同じクラスなので2人で教室に入る。
やはり、久しぶりに来ただけあって、教室の連中の視線が集中する。
クラスは俺が登校してきたことに驚いているものもおれば、気にしてないのか気づいてないのか話を続ける者もいた。
華澄は少しだけ静まった教室に堂々と入り、クラスの一人一人におはようと声をかける。
とりあえず、席替えがされてるであろう自分の席を探し、席に座る。もう少しでHR(ホームルーム)が始まる。
そう思ったやさか、少し強面の男性教員がドアをあけ入ってくる。
「ほら、席に座れー。大事な話があるから少し早めにHRを始めるぞー。」
先生の声に反応し、生徒が次々と席に戻った。
全員が席についたのを確認して先生は口を開く。
「えー、今日の朝、学校側の臨時会議があったんですが、どうやら、付近で殺人事件が続出してるようです。犯人はまだ逃走中とのこと。そこで今日は身の安全を考慮し、全校生徒を午前中で下校させることに決定しました。なので、今日はできるだけ大人数で帰るもしくは保護者を呼んですぐに下校すること。」
クラス全員に聞こえるよう先生はたんたんと話した。クラス内では不安の声を漏らす者、興味無さそうに聞いている者、近くの席同士で小さく喋る者、それぞれだった。
進真はその言葉を聞いて空羽が大丈夫か心配になった。
恐らく距離を考えても中学校も同じ指示を出されているだろう。
(後で連絡して迎えに行くか)
HRが終わり、授業の準備をしていると隣から二人組の男子がやってきた。
男子
「久しぶりに学校にきたと思えば相変わらず犯罪面だけはきちんとしてんのな!笑」
男子
「おいおいー、折角学校に来てんだからそんなに責めんなよー笑。かわいそーだろ笑」
進真
(ちっ。これだから学校は嫌なんだ。)
超能力が使えるから。それだけでこの扱いだ。
進真は超能力者だからといって異端の目で見てくる学校の奴等は大嫌いだ。少し自分より優れている奴を見ると蹴落としたくなるようや奴等ばかりだからだ。
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