金髪の聖女様が俺の前でだけ奇声を発するんだがどうすればいい?

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第1話 学園の聖女様が奇声を上げてブチ切れている

「あなた、アホなの⁉ バカなの⁉ 死ぬの⁉ むしろ今すぐ死ねばいいんじゃない⁉」


 ──絶対に、おかしい。

 目の前で俺を怒鳴り散らす金髪の北欧系クォーター美少女・斎紗菜いつきさなを目前にして、俺はそう思った。


「ちょっとあなた、聞いてるの⁉」


 斎さんは、ツーサイドアップで本来整っているはずの綺麗な金髪を振り乱しながら、食ってかからん勢いで詰め寄ってくる。アクアブルーの大きな瞳がこちらを覗き込んでいて、その澄んだ瞳の中に俺を映していた。彼女はエストニアだかの北欧の血が入っていて、確かクォーターだという話を聞いた事がある。

 そんな彼女が俺のネクタイを掴んで、まるでカツアゲしているヤンキーのように、詰め寄ってきている。しかも、唾を飛沫させまくりながら。

 でも、距離が近いせいもあり、凄く良い匂いがして、くらっと意識を持っていかれそうになる。どうして女の子って生き物は、こんなに良い匂いがするんだろうか。


「き、聞いてるって……」

「な、なによそのドン引いてる顔は⁉ どうせ痛い女が突っかかってきてめんどくせぇ~……とか思ってるんでしょ⁉ 何なの⁉ バカにしてるの⁉ バカにしたかったらバカにすればいいじゃない!」

「お、思ってないしバカにもしてないから。これっぽっちも、全然……な? だから斎さん、とりあえず落ち着こうか?」

「落ち着いてられるかぁぁぁぁぁぁッ!」


 どうどう、と何とか彼女を御そうとするが、それにも失敗。美しい容姿とはかけ離れた口調で、相変わらず俺を怒鳴りつけていた。

 この状況に、全く頭がついてきていない。俺はこの金髪クォーター美少女に屋上まで引っ張ってこられて、いきなり怒鳴り散らされているのだ。ちなみにさっき本鈴が鳴って、もう六限目が始まってしまっている。

 彼女──斎紗菜──は、我が聖ヨゼフ学園高等部では、皆が憧れるアイドル的な存在だった。それこそ「ごきげんよう」だなんて言いそうなくらいお淑やかで〝聖女〟とさえ呼ばれている。彼女はいつも女友達に囲まれていて、高嶺の花過ぎて男子生徒は遠巻きに眺めるくらいしか許されないような、そんな存在だ。これが彼女が〝聖女〟と呼ばれる所以である。

 そんなお淑やかで皆の憧れ的な存在の女の子が、今は物凄く下品な言葉遣いでブチ切れている。しかも、俺は彼女にとってはモブに近いような存在。同じ土俵にすら立てないような人間に対して、こうまでキレているのだ。意味がわからなかった。いや、その原因は俺にあるのは間違いないのだけれど……。


「なぁんであんなものを廊下で渡すのよ! 誰かに見られたらどうするつもり⁉」

「なんでも何も、あれ君の──」

「ふんがぁぁぁぁぁ‼」


 俺の言葉を遮り、彼女は奇声を上げながら、綺麗な髪を掻きむしった。


「お、落ち着けって。そんな髪搔きむしったらせっかく綺麗に整えてる髪が、さ?」

「あなたがそうさせてるのよ! あんなの誰かに見られたら、もうあたしお嫁に行けないぃぃ……」


 顔を真っ赤にして涙目になりながら、斎さんが抗議してきた。


「大丈夫だって……他の人には見られてないから、多分」

「多分じゃダメなのよ、多分じゃああああッ! ああああああッ!」


 いきなり泣き出す聖女様。もう、全くもって俺にはついていけない。

 この意味不明な状況を説明するには、一刻ほど遡る必要がある──。

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