第4話 幼馴染がどんどん変になりました
夢中と言うのは不思議なものだ。真剣に勉強をやっているとあの黒い感情はどこかに消えていってしまった。目の前でうんうん悩んでいる可愛い幼馴染のおかげでもあるかもしれない。
「あっ、調子よくなった? わははっ、私のおかげー」
「……本当にそうかもな。今日何もしてなかったら、たぶん調子が悪いままだった」
「あはははは! どんと感謝してくれてもいいよ!」
「口動かすのはいいけど、頭も動かせよー」
「なにそれ! まるで私が普段から頭使っていないみたいじゃん!」
ぷくーっと頬を膨らませる姿がまた可愛い。本当に見ていて癒される幼馴染だ。なんとなく声質や笑い方が隣家ゆめに似ていて、黒い感情が出かけるのがたまに傷だけど。
妙に話しかけてくるなと思ったら、プリントの問題は一通り終えたらしい。
答えが出るのは週明けだし、ここで一休憩いれてもいいはずだ。それで話しかけようと思った時には、先にニヤニヤした友香がこっちに質問をしてきた。
「冬輝はさー、隣家ゆめのこと好きなの?」
うっ、その質問か……。何も知らない友香に罪は無い、友香は悪くない。
「うん、好きかと言われれば、好きだな。あのうわははははっていう笑い声聞くと元気が出るからさ」
「ふ、ふーん」
ニヤニヤしながら顔を赤くする友香。なんだその反応は。まるで本人が聞いているみたいじゃないか。
友香と幻想の隣家ゆめの姿が被る。友香が隣家ゆめ? いや、そんなわけがない。幼馴染がバーチャルアイドルをやっているってどんなん展開だよ。
「そういう友香も隣家ゆめのこと好きなのか? ファンアート見てるって言ってたけど」
「えっ? うーん、好き? うん、好きかな」
「なんだその反応。人に聞いておいて」
「いっ、いや。ファンアートいつも見てるから好きだよ! 自信ある!」
「自信って」
何の自信だよって笑ってしまった。面白い反応をいつも返してくれるなぁ友香は。このいつもの環境が俺にとって心地良い。
母親がオレンジジュースを持ってきて、数分会話を楽しんで休憩は終わり。嫌がる友香にお前が頼んだんだろと言って勉強を再開する。
頭を悩ませて苦しむ友香だが、解法を教えてやるとぱっと表情が明るくなる。それを繰り返していくうちにすっかりと外は暗くなってしまった。
「もうこんな時間? あーっ! めっちゃ勉強した! これで来週のテストはたぶん完璧! 疲れたよぉ冬輝ぃ」
テーブルに突っ伏す友香。疲れた足をさすりながらゆっくりと立ち上がり、プリントやノートを片付ける。
滞りなくそれは終わり、俺は友香と一緒に階段を降りて、玄関まで見送ることにした。
靴を履いた彼女は振り返り、俺を激励する。
「最高のイラストを隣家ゆめに届けてね? 絶対に楽しみにしてるはずだよ! 私が保証する」
「友香に保証されたとなったら、完成を遅らせるわけにはいかないよな」
「もち! 頑張ってね!」
満面の笑みを返して家を出ていく友香。隣の家だし、またすぐにでも会える。
さて、疲れたなぁ。今夜は隣家ゆめの生放送があるんだっけ。嫌な気持がまた湧き上がるかもしれないけど、恋心を諦めれば大丈夫だ、大丈夫……。俺は理性を失ったガチ恋勢になんてなりきらない……。
部屋に戻って、様々な実況動画を流し見しながらイラストのラフを進めていく。
大丈夫、俺はもうあの黒い感情になることは無い。自分にできることをやって、自分なりの方法で隣家ゆめを喜ばせよう。
そうして放送時間になり、ぼやっとした心で実況動画を見る。黒い気持ちは湧いてこなかったけど、なんだか今度は喪失感が襲って来て悲しくなった。バカにされるかもしれないけど、これが失恋って奴なんだな。たぶん。
実況動画はどんどん進んでいく。ゲームを進め、ストーリーを進め、放送時間の終わりまで。
隣家ゆめの元気な笑い声と叫び声がぽっかりと開いた心に響く。響くだけで、空っぽの心は揺れない。それにしても、何だか声が疲れ気味なような気がする?
昨日から入ってきがちな投げ銭やガチ恋文章に関しては、もう何とも思わなかった。無意識に心が痛んだ気がするけど、もういいんだ。どうせ叶わぬ恋だから。
そうしてみんなのコメントが読まれていき、放送が終わり通信が切れ――なかった。
「えっ?」
『ふんふ~ん……あっ、ヤバッ――』
事故だ。隣家ゆめが放送設定を間違い、放送の最後の最後で素顔を晒した。疲れていたためなのかはわからない。
一瞬だけど、その素顔はキレイにくっきりと俺の目にインプットされた。それは他の視聴者も同じだろう。もしかしたら放送を録画していたり、今の瞬間をキャプチャした人がいるかもしれない。でも、それは問題じゃないんだ。いや、問題なんだけどそれより重要なことがあるんだ。
隣家ゆめの正体は、隣の家に住む幼馴染の夢野友香だった。
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