刀工として生き、後継者に恵まれぬまま老いた青野仁。彼は跡継ぎとなることを拒んだ息子から指摘されるまでもなく、自らの衰えを自覚していた。かくて闇雲に焦る中、先祖であり、同じ刀工である初代青野仁の日記を手に取る。引き際に迷ったとき開けと先代から渡された代物を――
仁さんがいる状況はのっぴきならないものです。彼が刀工を辞めるということは、初代から継がれてきた技を棄てることに他ならないからです。キャラクターへの個性のつけかたは種々ありますが、このような「状況」という必然性を、外連味なく練り込んでみせる筆はお見事と言うよりありませんね。唸らせられました。
そして初代というキャラクターですよ。とある依頼主のために打った刀を軸に、初代と依頼主が交わす厚い心情! 情通えばこそ紡がれる切ないセリフの数々! その末に後継へ思いを託した初代の念……ひしと伝わってくるのです。
けして派手ではないけれど限りなく滋味深い、道の果てに立った男の物語。ぜひご一読いただけましたら。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)