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鏡の国の襲撃

アリスが選んだのは左の道。「全てを解き放つ」と書かれた看板がさした方だ。

「全てを閉じ込める・・・こっちを進めば、なんだか嫌な予感がするの。」

そして進んだ。その先に何が待ち受けているとも知らずに。平坦な道を歩いていくと、何もない場所で漫画みたいに面白おかしくツルッと滑って頭をごちんと打ってしまった。

「あいたっ!」

衝撃と痛みで咄嗟に閉じた目蓋を開けると、ハミルトンの顔がすぐ目の前にあったから驚きのあまり勢いよく体を起こす。

「どわっ!?」

額と額がぶつかってハミルトンは後ろに転がるように倒れた。やはり頭部はしっかりとぬいぐるみで、ぶつけても弾力はあれど、中のやわらかい綿が衝撃をできる限り受け止めてくれたおかげで痛くも痒くもなかった。

「あれ?私・・・。」

ハミルトンの隣にはジャックが片膝立てて蹲み込んでいた。

「気を失ってたんだよ!おい、ジャック!!やっぱこれただの食べ物じゃなかったな!?」

ついでにそばにいたジャックの肩を掴み、首が曲がるかと心配になる勢いで揺さぶる。

「いや、本当の本当にそんな事ありえませんって。前科持ちとはいえ真っ先に疑うのはやめていただけませんか?」

やれやれ、ここは笑っていいのか憐むべきなのか。どちらにせよジャックは全くこたえていなかったが。

「ハミルトン、さん・・・。」

息するみたいに、ふと口から溢れて。

「なに!?アリス・・・えっ、急に何?」

今までずっと略称で呼ばれていた物だから違和感が半端ない物だった。アリスもアリスで。

「ううん。なんとなく呼んでみただけ。」

不思議な気持ちを植え付けては放置。彼にとって大事な名前だと改めて知ったアリスはつい、その名前で呼びたくなったのだ。当の本人はあのしまつ、アリスも現実離れした世界での出来事についてはわざわざ話そうとしなかった。

「ん?なんか揺れてない?」

地面が小刻みに揺れ、次第に激しさを増していく。空間の変化は招かれざる物達のために待ってくれたりしない!

「地震!?」

「あっ・・・像が・・・。」

チェスを模した像、ギロチンがぐらついて時間をかけて地面に身を投げ出す。それほどまでの強い揺れだから三人も立ち上がるのがやっとだ。頭上に小さな硬い破片が落ちてくる、天井が壊れていた。床もヒビが入り、旱魃した地面みたいになっていく。この空間のどこにも安全な場所などはない。

「出口まで全速力です!」

ジャックが先頭を切り、ハミルトンがアリスの手を引いて前方のドアを目指して全速力で逃げた。亀裂が追いかけてくる。振り返るどころか、瞬く間すら無い。足を力の限り前へ伸ばす事以外考えられない。少しでも前へ、前へ。三人はやっと外へ出られた。

「はぁ・・・はぁ・・・寿命が縮む・・・。」

「もう、無理・・・。」

各々が脱力で扉に背中をもたれさせる。鼓動が痛い程の速さで脈打って、浅い呼吸を繰り返す。残念だが、状況は三人の理解の範疇を超えてぐるぐると変化し、大波の如く押し寄せてきた。


「なに・・・これ・・・。」

森の中に出た三人を出迎えてくれた光景を一言で表すなら、「戦場」。甲冑を纏った兵士同士が逃げるわ追いかけ回すわ争うわ。黄昏の薄い夕焼けが霞むぐらい燃え盛る炎を背景に剣戟が繰り広げられ、腕が飛び、首が転がり、赤い柱が出来る。とてもショッキングな光景だったがあまりにも突然で、最初のうちは免疫のないアリスもみつめていた。

「おい!どこに繋げた!?」

「どこだって一緒ですよこんなの!にしたって早すぎる!ハミルトン、時計があるでしょう、何時ですか!?」

お互いパニックに陥った状態で喚き合い、ハミルトンは服の中をまさぐって見つけた金色に輝く懐中時計の針は。

「えっと、六時・・・。」

綺麗に縦を指していた。アリス達が城を抜け出したのはおそらく昼過ぎで空はまだ明るかった。意味不明な空間を彷徨っている間は感覚的に十数分程度だった。

「さっきの空間は時間の進み方が違うのでしょうか?」

「なら日付も違ったりして。」

「あり得な・・・はぁ。頭が痛い。」

ジャックが、ため息をこぼした後に右手でこめかみをおさえた。

「・・・早すぎるって、何?」

とうとう見るに耐えなくなって目を伏せたアリスが話しかけた。断末魔と雄叫びが混じり合う中では少しでも静まった間を見つけないと近くでも声が届かない。だからといい、大きな声でいちいち話すのはみんながしんどい。

「鏡の国の攻撃ですよ。フィオーナ女王と鏡の国の女王、エデルトルート様はお互い嫌っており、どちらも波風立たせぬよう上辺だけは親しげでしたが。というより、こちらのガードがかたく、攻める隙もなかったのでしょう。フィオーナ女王そのものに隙が生じたなら絶好のチャンス、といったわけです。しかし身動きが取れなくなった事を嗅ぎつけてからの行動力が異常です。」

真剣に耳を傾けていたアリスはばつの悪い顔を浮かべて、途中から適当に聞き流していたハミルトンは馬が遠くで吹っ飛んでいくのを目で追いかけていた。

「できるだけ身を潜めて、避難できる場所を探しましょう。」

「アリス、行こう。」

前屈みで足音を極力立てぬよう歩くその姿はまるでコソ泥だ。暗い森を、炎が足元が見える程度に明るく照らしてくれる。

「うぅ・・・見慣れる気がしないよぉ・・・。」

歩けばすぐに死体と遭遇。全身血だらけならまだ綺麗な方だ。胴と手足が繋がっていない死体をうっかり見てしまったアリスは発作的に上がってくる声を力一杯口を押さえる事でなんとかとどめた。

「しっかし、ひどいな・・・。」

「ええ・・・国中の避難状況が気になります。」

アリスの前後から冷静な会話が飛び交う。

「仲間か・・・。」

木の影から兵士が飛び出した。負傷はしていない模様。

「ジャック様!」

息を潜めた声でも嬉しそうなのは丸わかり。音がなりそうな敬礼で構えた。

「これはどういう状況ですか?国中の避難は?」

「さすがジャック様、すぐに国が置かれている状況に気を。」

「教えなさい。」

ベタ褒めを遮られた兵士は緊張感たっぷりに状況を説明した。

「鏡の国の兵士がいきなり城に襲いかかってきたのであります!それどころか城にいた兵士の約半数が向こうに寝返り、盤上の国の軍力は圧倒的劣勢のまま抵抗しています!国民の避難は現在進行中!そもそも我らの狙いは女王・・・。」

ジャックの無表情が僅かながら上に動く。咎めるような鋭い目付きで睨んだ。

「我らの狙いは女王、とはどういうことです?

「あ・・・いや、その・・・。」

兵士の目が泳ぎ、声がワントーンほど急に高くなった。

「ここから一番近くて安全な場所を教えてください。それで今のはなかったことにしましょう。」

「・・・案内します。」

アリス達はどこかモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、兵士に続いて死体が転がる森を進み、更なる暗闇へ足を踏み入れた。安全地帯に近づいていくとあって、耳を塞ぎたくなる騒音は聞こえなくなった。


「ここでございます。」

「ただの崖じゃん。」

ハミルトンの言う通り、荒い岩肌が露出した崖が立ちはだかっていた。兵士が手のひらをかざすと、空間が波紋状に歪んだ。

「これで入れます。どうぞ、こちらへ。」

兵士は躊躇いなく前進。空間の中に吸い込まれた。質問したハミルトンと見てただけのアリスが驚いて固まっているところをジャックは通り過ぎ、平然と中へ入っていく。二人はおずおずとつまさきをのばすと、崖の中に突っ込んだ足はこちらから見えなかった。思い切って踏み入れば、想像以上にちゃんとした部屋が設けられていた。木の板を四方に打ち付け、木材の温かい匂いがこもる。床には大きな麻布が敷かれ、よく見れば切り口がじぐざぐだで綺麗ではない。部屋の隅に巾着状に結ばれたパンパンの袋が積まれているが、袋もまた同じ麻布で出来ていた。広さもちょうどいいぐらい。即席として作られた避難所なら十分すぎる完成度だ。


でも、その奥にいるのは。


「私みたいなド派手女がこんな目立たない、地味なとこにいるのはそんなに変かしら。」

アリス達と愉快なチェスで遊んだ少女だった。派手とはいうが、可憐な少女が一番ほど遠い甲冑を身に付けており、しかもなかなかの様になっていた。そのせいで質問が二つ三つと増えたけど、甲冑については一旦置いておこう。

「あなたは・・・!」

「久しぶり。」

あいも変わらず親しげに話しかける。ジャックが彼女の御前で片膝を立てて恭しく跪いた。アリスとハミルトンは二重の驚き。案内役の兵士が説明した。

「あちらの方は鏡の国の現女王、エデルトルート=ヴィクトリア様であらせられます。」

しばらく、胎児みたいに口をうすら開いて固まるアリス。

「ええーっ!!!?」

アリスは喉から上がってくる声をそのまま吐き出した。脳みそが揺さぶられるほどの衝撃だった。驚きを抑えられずリズミカルに飛び跳ねて、掌をいっぱい広げたぐらいの距離で後ろにさがったと思う。アリスみたく大袈裟ではないがものの、両手と両足を横に広げてのけぞるハミルトンの格好はさながら壁際に追い詰められた犯罪者だった。

「あ、あの迷路、迷路の・・・。まさか、女王様、だったなんて・・・。」

「嘘だろ!?・・・嘘、じゃないんだよね。」

ハミルトンに促されて二人も並んで跪こうと屈むのをエデルトルートに止められた。

「もうやめてよ!話しにくいじゃん!キャメロンも頭上げて。」

そう言われれば誰に咎められたわけでもなく自ら頭を下げたのだ。兵士だってアリス達の一連のやり取りに一切口を出さない。

「あら、だから敬語じゃなくていいのに。あたし公認のお友達だから。」

「ともだち!?」

兵士こ「お二人を大変気に入られていますよ。」という小声にさらに気が引き締まってしまった。対等に話すにはこちらの立場があまりにも不相応すぎる。

「ところでキャメロンって誰?」

ハミルトンが周囲の顔ぶれを見渡す。名前が明かされていないのはここまで連れてきてくれた兵士のみ。

「・・・私の本当の名前です。あの、面倒なのでジャックでお願いします。」

エデルトルートは口元を覆って大きく開いた目を大袈裟に瞬いた。ハミルトンの方をチラ見しながら苦笑いで俯いていたジャックは咳払いですぐにいつもの従者モードに切り替える。

「エデルトルート女王陛下、私達を匿って下さったばかりでこの様な事をお尋ねするというのは大変不躾ではございますがお許しを。・・・いつ頃からこの計画を?」

みんなの表情が強張る。神経はピアノ線のようにピンと張った。

「おそらくフィオーナ様の状態を把握した直後に実行なさったのでしょう。連絡の手段も気になるところですが、なによりこの現状況に至るまでが早すぎる。かなり前段階から準備をしていたとしか思えない。」

「ええ、そうよ。」

勝ち誇った高揚感を抑えきれず不適な笑みとしてあらわれて。

「悪いけど、アンタ達が想像しているより前から計画していたのよ。」

声から自信しか感じられなかった。目上の者ばかりに喋らせるのは失礼と言わんばかりに兵士が次に続いた。

「我々は鏡の国の女王、エデルトルート様に使える兵士。随分と前からこちらの兵士となり潜伏していたのです。」

「・・・。」

この兵士の言葉を思い出す。「我らの狙いは女王」と言ったのは、敵国の兵士だったから。変装していたために違和感が生じたのだ。

「・・・私とした事が、気づきませんでした。」

「こちらも正直不安でした。」

兵士が本音をこぼし、エデルトルートは呆れて言い捨てた。

「アイツは他人そのものには興味ないから少しずつ入れ替えてもばれやしないわよ。」

ジャックは複雑な気分に渋い顔。アリスは「そんなことでいいのか。」と、意外に抜けている部分に疑問を抱く。

「入れ替える・・・?」

ハミルトンの呟きにが自身が聞くはずだった質問を奪ってしまい、他の兵士が真摯に答えてくれた。

「そちらの兵士を反対に鏡の国に送りこむ事で数の調整を行なっていたのであります。」

「送った我々盤上の国の兵士達はどうしたのです?」

「洗脳という飴と拷問という鞭を巧みに使い分け、様々な手段を用いて自らの駒に仕立て上げたのです!」

兵士はたいそう誇らしげだがこればかりはエデルトルートも失笑。

「うーん、語弊。」

調子こいた兵士はもれなく身ぶり付きで説明してくれた。

「彼らにかけられた魔法が強力だった為、完全に解くには時間を要すると考えた上での長期にわたる作戦だったわけであります!そちらには我々の同胞、加えて同胞が増えてこっちが優勢!我らが女王様の方が一枚も二枚も上手だったわけでございます!アリス様のおかげで女王様の近辺の護衛達も数に加えられましたし。」

アリスは彼女と話したことはあれど、他に兵士らしき人と話した記憶はなかった。

「あの時、チェス盤の上で戦いを繰り広げた可愛い駒達。アリス達とお別れした後の出来事だったけど、自由の鍵の力で人の体を手に入れたのよ。」

呆けた顔で見つめ合うアリスとハミルトン。横目に映ったジャックも同じ顔だった。鍵の力を行使した後の駒に触れて熱かったのは変化の途中だったということだろうか。

「ああ、だから急な奇襲も可能だったと・・・。そりゃそうでしょう。味方の中に敵がいるのですから。」

「更なるネタ明かしをすると、あんたが偽物のアレを作るよう頼まれた魔術師も私の手下。牢屋に鍵を届けにいった奴と牢屋でアリスの側にいた奴も手下。情報が回るのが早かったのもそういうわけね。」

「常日頃から内通で事細かく情報を送り合っていたのでございます。」

「・・・・・・。」

全てをしっかりと頭に入れた上でジャックは深いため息を吐いた。表では竹で割った性格で尚且つ女性らしいいやらしさとはかけ離れた、女王以前に人間としてあるべき理想像が歩いていたような女性だと思っていたのに、あの爽やかな笑顔の裏は狡猾で、いつでも寝首を掻いてやろうという執念がとぐろを巻いていたようで、自分は棚に上げてほとほと呆れ、逆に感心さえしてしまう。アリスとハミルトンは体の芯が冷える心地だった。自分達と同じ人間だという感じがしなかった。

「・・・もしこの争いがなけりゃあ全員が入れ替わってたのか?」

それでもハミルトンはまだ冷静だった。

「ありえません。敵を屠る為には敵を知ること。城内に詳しい人はある程度残しておくべき・・・白兎様?そのようなフランクな話し方でしたっけ。」

違和感をすかさず突いてくる兵士に疲れて、「オフはこんな感じなんだよ。」と適当な嘘ではぐらかした。

「ところでフィオーナ様はどうなっているのですか?」

ジャックの聞き方が既に、ついで感覚で彼女に対する尊敬も畏怖も感じられない。

「特殊な牢に閉じ込めているわ。きれいな石像のままでね。」

・・・とはいえ、これを聞いたら少し引き気味。エデルトルートはお構い無し。

「最初は殺す予定だったけど、争いが終結した後は記念に石像のまま、国の一番目立つところに飾ろうと思うの!」

「盤上の国が自由を掴んだ日、そして我々が勝利を掴みあわよくば両国国交を結んだ記念すべき日の象徴として飾るのであります!」

エデルトルートと兵士は嬉々として告げる。表面上を取り繕うのに慣れているジャックの作り笑いが完璧すぎて不自然だ。アリスは開いた口が塞がらないし、ハミルトンもそんな感じだろう。

「中々素敵な嗜好で。美に対し洗練された高尚な感性、私めのような凡人には理解できない至高の域でございます。」

彼なりにものすごく遠回しの皮肉で返したつもりだった。相手の方は素直に褒め言葉と受け取ってさぞ嬉しそうだ。アリスはショックと絶望と悲しさが込み上げてくる。アリスには大人の汚い腹の探り合いや国の歪み合いは理解できないけど、単純に「人間の尊厳を蔑ろにしている」ぐらいはわかる。

–国の偉い人がやっているんだから、すごいことみたいに感じる気もする。でも、「すごいこと」を「こんなこと」に使ってはいけない–。

何が正しいのかわからなくなってくる。頑張ってアリスは自分の中の良心を信じた。

そして気付けば勝手に口が動いていた。

「フィオーナ様にかけられた魔法は解けないのですか?」

エデルトルートの笑顔が消えた瞬間にアリスの肝が冷えた。

「解いてどうするの?」

言葉は押し戻せない。後悔したら何もいえなくなりそうだったので自然に力を入れた。

「二人きりで話したいことがあるのです。」

「アリス!危険だよ!」

反対したのは当然、ハミルトンだった。彼は女王がどうなろうと知ったこっちゃない。アリスが心配なだけだから。

「恩人の頼みとはいえ、ちょっとねぇ。」

腕を組み、口をへの字にした。態度に深刻さは窺えられず、友達に恋愛相談を持ちかけられた程度に見えた。

「・・・そうだ。」

相槌を交わした兵士がみんなに向かって敬礼をした後、部屋を出て行った。

「魔法を解くには、魔法をかけた人でないとね。そいつを探させるわ。なるべく時間はかけないけど・・・その間はこの狭苦しい場所で我慢してくれる?城よりこっちのが安全なの。」

女王ともあろうお方が床に足を投げ出して寛ぎ始めた。ガシャンと鉄が降りる音がする。

「いいんですか?」

アリスの確認のための問いにエデルトルートは笑顔いっぱいのウインクでこたえた。

「ありがとうございます。」

「ほら、あんた達と座んなさい。疲れたでしょ。」

ジャックに続いてアリスが座る。女王の前だもの、正座しないと逆に落ち着かない。

「えっ、ちょっと・・・。」

ただ一人納得のいかないハミルトンは言い返せない空気に困惑している。

「女王様の事です。なんとかなりますよ。」

「そんな・・・。」

と言いつつ、気まずさに耐えきれずにゆっくり腰を下ろした。

「アリス、本気なの?会って何を話すの?」

「秘密。誰にも聞かれたくないの。」

世界そのものに関わる話だからたとえずっとそばにいた大切な仲間にも話せない。ああはいったが、アリスは不安で怖かった。冷酷で頑固で話を聞いてくれなさそうで、しかも自分を憎んでいる女王様と二人きり。だけど今回のアリスには確信があり、自分の罪を償う意思は確固たるものだった。

「暇ねえ。遊ぶものでもないかしら。」

呑気なエデルトルートは体を伸ばして麻袋を漁る。奥に手を突っ込んで取り出したのはまさかのトランプだ。

「こんな時だからこそ、これで遊ばない?」

手のひらにとって頬に寄せ、子供みたいに笑うエデルトルートはとことん悪趣味だった。

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