閑話 「アリスの記憶」
あぁ、思い出した。
この世界にどうやって来たか。
でも・・・きっかけは死にたいから。それがこの世界でどうやって元の世界に戻るためのきっかけになるのだろう。
親は私に何も望んでいない。
だからといって私が何をしていいわけじゃない。
姉は私を馬鹿にする。
何も馬鹿なことをした覚えはないのに自分より劣っているだけで馬鹿にしてくる。
友達は私をいじめる。
これについてはさっぱり理由がわからない。
多分、のろまでドジで泣き虫で臆病だから。でも私も友達が欲しい。みんなが友達になってくれないから想像で作った友達と仲良くするしかないけど、そうしたらもっといじめてくる。
もうどうしていいかわからない。
なにをしてもつらい。そんな世界に
いたくない。空想の世界にいることさえ
許されない。この世界は私がなにをしても
許してくれない。
疲れた。
もうここに思い残すことはなにもない。
ここにいたってなんにもないから。
臆病だから地獄に落ちるような悪いことはしてないと思います。天国はいいところなんでしょう?
いや、神様も信じちゃいない。もう私なんて。
「消えて無くなればいい。」
どこかわからない橋の上に立つ。臆病な私だからこんな高い場所に立ったら怖気づいて結局死ねもしないと思っていたのに今は吹き付ける冬の冷たい風が気持ちいいなんて感じる余裕がある。真下を見てもなんにも思わない。死に近づいて安心感さえある。
目に映るブーツ。親の目を盗んで貯めたお小遣いで買ったものだ。厚底で、黒い本革でできた私が履くにはあまりにも不釣り合いなのは履かなくてもわかる。見た瞬間、この靴だとしっかり地面に足をついて力強く歩ける気がした。あとはちょっと背伸びしたかったけど、ヒールでは不安だった。まあどうせ、今から死ぬんだけど、自分で選んだ悔いのない選択だからしっかりした足取りで進みたかったんだよね。
「天国でも一緒にいてくれる?」
抱きかかえているのはウサギのぬいぐるみ。姉に与えられたものだったけどおもちゃで遊ばなくなってからほったらかしにされていたから、そのあとは私が遊んでいた。この子は私の空想の世界では、ヒーローであり悪者であり王子様であり、かけがえのない存在だった。
「・・・なんてね。」
風がやんだから私は飛び降りた。
落ちたら一瞬。痛いのも一瞬。すぐ楽になれるね。
ありがとうなんて言わない。
ごめんなさいなんて言ってやるもんか。
これが最初で最後の、私の
さようなら・・・。
思い出した今でも後悔はない。
だって自分の選んだ道だから。
一歩、また一歩と足を前に。地に着く足の感覚は確かにあった。
前へ進むのが怖い時もある。でも、進むしかないのだろう。だから私は進むんだ。
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