◆ 一部 ◆【一章】1 生徒会長


「あっ、生徒会の面々だっ」


誰かがそんな事を叫んだ。

お昼休みの中庭。

木の下のベンチでキュウリを齧っていた僕は顔を上げる。


ゾロゾロと、医療系ドラマのワンシーンのように、固まって校内を巡回していく生徒会執行部。

伝統? 慣習? よく分からないけど、お昼休みじゃあお馴染みの光景。

ここの生徒会のルーティンなのだと。


「コラ! 食事中のスマホ操作は禁止と言ったろ!」


「カップラーメンばかりだと栄養が偏るぞ! このサラダをやるから食べろ!」


「飯を忘れた? ならこの食堂の券をやる! ただし、放課後奉仕活動をしてもらうぞ! ハッハッハ!」


豪快に生徒らに絡んでいるのは生徒会長様だ。


「カヌレ会長良いよなぁ。凛としてて飾ってなくて、そのスタイルの良さからモデルも女優もやってて……」

「俺は書記の箱庭セレスちゃんかなぁ。何者にも媚びぬ孤高の狼……シルクのような銀髪ショートボブ……部屋で二人きりになって、あのクールで冷たい瞳で睨まれたい……」

「他の役員も美男美女揃いだよなぁ……やっぱ生徒会は、選ばれた奴らの集まり、てか」


大変だなぁ、色んな人達に注目されて。

まぁ、あの面子には『惹き付ける何か』を感じるのは確かだけど。

特に……そう。

件の【カヌレ会長】。

夜の空のように妖しくなびく黒髪ポニテ……

 目を合わせた物を釘付けにする宝石のような瞳……

 夏用の白シャツがはちきれんほどにデカいおっぱい……。

そんな、存在自体が一八禁な彼女を、僕は気になってる。

これが恋だの愛だのかは知らないけど、いつか、機会があればハッキリさせたいものだ。


「ウカノくーん、来たよー」「施されに来たよーウカちゃーん」


不意に、変わった名前を叫ぶ女の子二人が中庭にやって来て、意識が逸れる。

まぁ『僕目当て』なんですけどね。


「ウカノくん、お昼もう食べたー?」

「食べたー」

「ウカちゃんならまだイケるでしょー?」

「イケるー」


女子高生二人に大きなオニギリと唐揚げ三つを貰って、


「したば、好きなの持ってきな」

「わーい、じゃーあたしはトマトー」

「あーしはトウモロコシ!」


足下の水桶で冷やしていたブツを渡すと、


「ヒャー我慢出来ねぇ!」


とすぐに生でかぶり付く女子高生達。

なんとワイルドな姿。


「んーっ、あまーいっ。このトマト、フルーツと変わらないねっ」

「とうもろこしも生でイケちゃう! あまーいっ」

「しかもだっ。ウカノくんとこの野菜やフルーツって、美味しい上に『お肌つるん』や『お通じつるん』の美容効果まであるからねっ」

「こらっ食事中だよっ。やーしかし、『ウカノファーム』の手腕は流石だねぇ」


凄い説明口調な宣伝だ。

しかしその効果は抜群。

生徒会への二割の視線を奪ったかのような注目を浴びている。


ジッ……


と。

目が合った。

生徒会の役員『二人』と、だ。

片方の役員はどうでもいいとして、もう片方の役員が『釣れた』のは僥倖。


「じゃ、またねーウカノくんっ」「ごちそーさまっ」


去って行くJK二人組……と、擦れ違うように、一人の『生徒会役員』がこっちにやって来た。


注目される事も厭わず、ただ目的である僕に向かって。

彼女は僕の前で止まり、腕を組みながら少しムッと眉をひそめ、


「ウカ、またヒトからご飯貰って。お弁当、大盛りにしたの『今日も渡した』でしょ?」

「成長期の学生だからね。間食がやめられないのさ(唐揚げとオニギリもぐもぐ)。あと他の家庭の味とか気になるし」

「はぁ。空のお弁当箱、返して」

「んっ」

「……で、次、いつ『ウチに来る』?」

「気が向いたら。てかそっちが『頻繁に来てる』から実質行ってるようなもんでしょ」

「屁理屈言わない」

「あっ、そろそろ冷蔵庫の作り置き無くなるから、完成品渡すか部屋で作ってタッパーに詰める作業お願い」

「凄い偉そうな物言い。……じゃ、私はもう行くから」

「『セレス』ー、愛してるよー」

「露骨な媚び売り。はいはい。愛してる愛してる」


ヒラヒラ、手を振ってセレスはクールに去って行った。

ほんと、面倒見の良くて僕が大好きな子だなぁ。


ジーッ ジーッ


後ろの木に留まるセミの求愛ボイス。


「……ふぅ」


汗を拭う。

木陰とはいえ、暑いなぁ。

夏だなぁ。



……と、そんないつも通りのお昼を過ごし、学校が終わって帰宅して……


そして、冒頭である。

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