第2話 雨の力
それから晴れの日に雨が降る不思議な現象が続いた。
謎の現象に恐くなって震えが止まらない日々もあったが、すぐにその現象の原因に気づくことができたお陰で不安は解消された。
摩訶不思議な雨はガチャで当てたマスクをつけている時に起きる。
持続時間や強弱はランダムでも、意図して雨を降らせることができた。
自由に雨を降らせられる。
夢のような道具を手にした私は何度も何度も雨を降らした。来る日も来る日も雨を降らしていく。いつしか持続時間を変えたり強弱つけたりできるようになった。雨を長く強く降らせるには思いっきり体に力を入れて雲を繰り出すまでのタメを長くすればいい。
持続時間は最大十分から十五分まで。降る雨が強ければ強いほど持続させられる時間が短くなる。
窓の向こう側は強い雨が降りしきる。はやいテンポで素早く落ちゆく雨粒が地面にぶつかって雨音を響かせる。五分もするとこのゲリラ豪雨はすぐさま消え去った。
ピロリン。
雨が止んだ後になるラインの着信音はよく響く。送ってきたのは近所の幼なじみだった。
『雨、降らしたのお前だろ? 急に降らすなよ』
私が雨を降らせられることは家族と友達とこの幼なじみのみが知っている。ゲリラ豪雨がくるといつも私が疑われる。まあ、疑われるようなことはしているが……。
適当に返事を打ち返した。
マスクを手に取って、それを眺めた。自由に雨を降らせられるなんて常軌を逸している。やはりこのマスクは凄い。
もっと有効活用できそうだと考えてたら、いつの間にか顔がにやけていた。
いつもの学校でいつもの日常。
授業が全て終わり放課後となった。下校や部活動、委員会活動に向かう人々が教室から出ていく。教室には私達が取り残された。
「ありがとう。お願いするね」
「任せてよ」
企みを含んだ笑み。その企みのビジョンを考えると頬が弛んでしまう。
夕焼けが落ちていく頃に作戦は開始された。
ある男を待ち伏せた一人の友達。彼女は下駄箱付近で彼に「一緒な帰ろう」と誘う。その様子を二人にはバレない所で見ていく。
今だ──。私はゲリラ豪雨を繰り出した。いきなり雨が降り頻る。
突然なる大雨に足を止める二人。「雨だ……。まさかゲリラ豪雨に見舞われるなんて」そう言いながら鞄の中に手を入れ、折りたたみ傘を取り出していた。
「良かった。折りたたみ傘入れっぱなしで。一緒に入ってく?」
男は仕方なく傘に入れて貰うことにしたみたいだ。相合傘で雨の中を進んでいく。
その様子を見届けた。
雨を降らせて相合傘にさせるという作戦だった。彼女は突然雨が降ることを知っていたので折りたたみ傘を入れていた。そして、作戦通りに相合傘で帰って行った。
『彼氏できた』『なろろんのお陰だよ』
可愛いカラフルなアニマルのスタンプとともにそんなメッセージが送られてくる。
どこからともなくやってくる達成感。
私は特別なマスクに味をしめていた。 突然襲う不思議な大雨。晴れ間なのに、雨が降るはずなかったのに、なぜか降る事実はこの地域の人々の悩みの種になった。
洗濯物が。遊びに行きたいのに。そんな悲痛の声が聞こえる。
授業中、今日は雲一つない晴天だな、とぼんやりと外を眺めていた。そして、その授業が終わり、次の授業の準備に取り掛かる。次は体育の授業だった。それもただ走るだけの持久走だ。陸上部以外誰もが嫌だと嘆いている。
私も嘆く一人だった。マスクを取り出し、大雨を降らせた。濡れた地面は外で運動するなと言っている。案の定、運動場で行うはずだった体育は体育館でやることになった。
「これで持久走は防げた」
まあ、雨を降らせたからといって、持久走がなくなる訳ではなかったが。運動場が無理になったら体育館で走ればいい。そんなことは思いもしなかった。
ただ、その日からクラスのみんなに、私が謎の力で雨を降らせていたということがバレた。
それから学校中に噂が広がり、地域にも広がり、私は「雨女」というあだ名がつけられた。
まあ、「雨女は人間を超えた特別な存在である」と皆から持て囃されたため悪い気にはならなかった。
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