第61話『タマヨリヒメ』

誤訳怪訳日本の神話・61 第一期最終回

『タマヨリヒメ』  






『鶴の恩返し』とか『鶴女房』という昔話がありますね。



 木下順二さんが戯曲化して『夕鶴』というお芝居になり、国内はおろか世界中で上演され、オペラにもなりました。


 農夫に助けられた鶴が恩返しに、男の妻になり、少しでも男を喜ばせたいと、自分の羽根を抜いて、とても綺麗な布を織ります。


「織っているところをけして覗いてはなりません」


 そう言われますが、好奇心に勝てずに、男は覗いてしまいます。


 正体を見られた鶴は「もう、あなたといっしょに暮らすことはできません」と、泣く泣く空に帰ってしまいます。


 話によっては、二人の間には赤ちゃんが居て、残された男は、赤ちゃんを懸命に育てることになっています。



 ヤマサチとトヨタマヒメのお話が、これにそっくりです。



 本性であるサメの姿で赤ちゃんを産んでいるところを見られて、トヨタマヒメは海の底に帰っていきました。


 赤ちゃんはナギサタケフキアエズと名付けられて、スクスクと育ち、ヤマサチの跡継ぎになります。


 ヤマサチは、戦いに負けたウミサチを家来にして、葦原の中つ国を豊かな国に発展させます。




 負けたウミサチは九州の隼人族の先祖になります。


 おそらくは、ヤマト政権と九州の勢力の間で戦争、あるいは激しい抗争があったことが反映されているのだと思います。


 こののちも、ヤマトタケルに打ち滅ぼされるクマソタケルから、島津薩摩藩、西郷隆盛にいたるまで、九州は日本史を動かす熱量の高い勢力として残っていきます。




 さて、海の底に帰ったトヨタマヒメ。


 約束を破って覗いてしまったヤマサチを恨めしく思いますが、残してきた赤ん坊が気になって仕方がありません。


 トヨタマヒメは、妹のタマヨリヒメに頼みます。


「ねえ、わたしの代わりに地上に行って、ナギサタケフキアエズのお守をしてくれないかしら」


「え、わたしが?」


「うん、あんたに頼むしかないの。この通りだから、お願い」


 と、妹に手を合わせます。


「仕方ないわねえ、姉さんも、意地はった手前、引っ込みがつかないんでしょ」


「ごめん!」


「分かったわ、でも、ナギサタケウガヤフキアエズなんて、舌噛んじゃうから、ナギちゃんでいくわよ」


「それはあんまり……」


「じゃ、ウガヤフキアエズ」


「うん、とりあえず、それでいいから、お願い!」




 こうして、トヨタマヒメは、乳母ということでヤマサチのところに参ります。




 そして、乳母としてウガヤフキアエズを懸命に世話をするうちに……


 なんと、二人は結婚することになってしまいました!


 これって、叔母と甥の関係で、今の日本の民法では認められません。


 古代は、腹違いであれば兄妹でも結婚出来ましたから、暖かく見守ってやってください(^_^;)




 さて、二人の間には四人の子どもができます。


 イツセノミコト  イヒナノミコト  ミケヌノミコト  ワカミケヌノミコト


 そして、この第四子はカムヤマトイワレヒコノミコトとも称しまして、長じて東に向かって遠征し、皇室の始祖となります。


 大和橿原で即位し、神武天皇(初代天皇)となりますが、これ以降は日本書記の内容になりますので、ひとまず筆を置きます。




 ☆:お知らせ


 古事記の内容はここでおしまいです。


 なんとか最後まで書けたのは読者のみなさんのお蔭です。ありがとうございました。


 日本書紀も読み直して、いつか、神武東征の下りから再開できればと思います。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誤訳怪訳日本の神話 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ