第60話『帰ってきたヤマサチ』

誤訳怪訳日本の神話・60

『帰ってきたヤマサチ』  






 ヤマサチが帰ってきただと!?




 ヤマサチの帰還を伝えられたウミサチはブッタマゲます。


―― くそ、釣り針にことよせて追放して、あいつの土地やら財産を奪ってやるつもりだったのに(҂⌣̀_⌣́)! ――


 しかし、帰ってきた者を無下には扱えません。


「おお、よく見たつけて帰ったな。さすがは、俺の弟だ。ま、とりあえず見せてもらおうか」


「はい、どうぞ」


 ヤマサチはワタツミの神に言われた通り、後ろ向きになって「ゴニョゴニョゴニョ」とお呪いの言葉を唱えて釣り針を手渡します。


「ま、これからは気を付けてくれよな」


「はい、兄上」


 表面は穏やかに言葉を交わして、弟を返すウミサチでしたが、そのすぐ後に、血相を変えて飛び込んできた家来の報告に言葉を失います。




「大変です、ウミサチさま!」


「なんだ、騒々しい」


「ウミサチさまの田んぼがカラカラに干上がってしまいました!」


「なんだと!?」




 家来たちと田んぼを見に行きますと、砂漠のようにカラカラに干上がっております。




「そうか、釣り針を返す時に、あいつ後ろ向きで、なにかゴニョゴニョ言っておったな!?」


「きっと、それが呪いの言葉だったのでございますよ!」


「くそ! 皆の者、かくなる上は、ヤマサチめをギッタギタにやっつけてやるぞ! すぐに武装して、やつの屋敷を襲え!」


「「「「「「オオ!」」」」」」




 いっぽう、自分の屋敷に帰ったヤマサチのもとをトヨタマヒメが尋ねにやってきます。




「姫、どうされたのですか?」


「じつは、お帰りになった後、お腹の中にヤマサチさんのお子が宿っていることが分かりました……」


「え、ええ、ボクの赤ちゃんが、姫のお腹の中に!?」


「はい、それが……あ、あ、生まれそうです!」


「あ、ちょ、みんな、姫の為に産屋を作りなさい! 姫にとってもボクにとっても、最初の子どもだ、ちゃんとした産屋を!」


「「「心得ました!」」」




 家来たちは、大急ぎで姫の為に産屋を作りました。




「お願いです、わたしが無事に子供を産むまでは、わたしが『よい』と言うまではけして覗いてはなりません」


「わ、分かった、姫がいいと言うまでは、けして覗かないよ」


「きっとですよ」


「うん、きっとだよ」


 そうして、指切りげんまんをして、トヨタマヒメは産屋に入って行きました。




 似た話がありましたよね。


 そうです。


 黄泉の国へ行ってしまったイザナミを追いかけて「帰ってきてくれ」と頼んだイザナミに同じようなことを言ってますね。


「黄泉の国の神々と相談します。結論が出ればお知らせしますから、けして覗いてはいけませんよ」


「うん、分かった」


 返事はしたものの、あまりに遅いので、イザナミは、つい覗いてしまって大変なことになりました。




 ヤマサチも、堪えきれずに覗いてしまいます(^_^;)。




 堪えしょうがないというか、男と言うのは、元来そういう者なのか。女というのは、男に気を持たせるように出来ているのか、結論は人類滅亡の日まで分からないでしょう。


 覗いたヤマサチはビックリします。


 なんと、赤ん坊を産んでいるのは大きなサメだったのです!


「ああ、あれほど約束したのに覗いてしまったのですね(。>ㅿ<。)」


「ご、ごめん(;゚Д゚)」


 

 その時、見張りの家来が血相を変えてやってきます。




「大変です! ウミサチさまが、軍勢を率いて攻めてこられました!」


「しまった、もう、お呪いが効いてきたんだ!」


 ウミサチの軍勢は、すでに山の麓にたどり着いています。


「あなた、塩盈珠(しおみつたま)をお投げなさい!」


 赤ん坊を抱きかかえたトヨタマヒメが叫びます。


「わ、分かった、こっちの珠だな」


「早く投げて!」


「えい!」




 塩盈珠(しおみつたま)は放物線を描いて、麓の軍勢の上に落ちて行きます。


 ドッシャーーーーン!!




 塩盈珠(しおみつたま)が弾けると、まるで天の底が抜けたような音がして、海の水がまとまって落ちてきます。


 ザップーン! ゴボゴボゴボ……


 軍勢は、麓の平地もろとも沈んでいき、それでも勢いは止まらず、ヤマサチのいる山さえ呑み込んでしまいそうな勢いです。


「す、すごい……」


 その威力にヤマサチは呆然とするばかりです。


「あなた! 早く、今度は塩乾珠(しおふるたま)を投げて!」


「う、うん、分かった。えい!」


 塩乾珠(しおふるたま)は同じように放物線を描き、その頂点で破裂。


 すると、地上を丸呑みするのではないかと思われた水が見る見る引いて、溺れそうになっていたウミサチとその軍勢は、やっと助かりました。


「ま、まいったまいった。オレの負けだ。これからは、おまえの家来になるから、この通りだ!」


 頭をこすりつけて謝るので、ヤマサチはウミサチを許してやります。


「や、やったよ、姫! ウミサチを降参させたよ!」




 しかし、振り返るとトヨタマヒメの姿はありませんでした……。


 

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