第39話『オオモノヌシ・1』

誤訳怪訳日本の神話・39

『オオモノヌシ・1』  





 スクナヒコナ(少彦名)はオオクニヌシとの国造りの途中で海の彼方に帰ってしまいます。


 日本書紀の一説に寄りますと、国造りをしているうちに、とっても仲良くなった二人は、もう生まれながらの兄弟か親友のようになってしまい、ついオオクニヌシがからかってしまいます。


「おめまえ、ちっちゃいのに、よく働くよなあ(^▽^)/」


 スクナヒコナに「小さい」は禁句なのです(^_^;)。


 静かに怒りの湧いてきたスクナヒコナは、顔色を変えることもなく、その日の夜にオオクニヌシに一言も告げずに帰ってしまいます。


 他には、スクナヒコナは蛾とかの虫の妖精なので、寿命が短く、それで突然帰った(死んだことを婉曲に表現した)ともあります。


 日本書紀は、古事記と違って『一書』という別冊というか掲載してある異説が多く、分量は古事記の十倍以上あります。



 ついでなので、古事記と日本書紀について、わたしなりの解釈を述べておきたいと思います。



 古事記は712年、太安万侶によって語り部・稗田阿礼の記憶を描きとめる形で作られました。


 古事記は神話なので、出てくるのは神さまばかりです。


 神さまと言うのは、フィクションの中の存在なので、ニ十一世紀の今日ならば、どのように書いても問題はありません。


 ところが、八世紀の日本の豪族たちのことごとくは神話世界の神さまの子孫ということになっています。


 たとえば、貴族のトップの藤原氏は天児屋命(あめのこやねのみこと)の子孫と言った具合です。


 貴族・豪族のご先祖がみんな神さまなので、古事記が出されると「ちょっと、うちの言い伝えと違うんだけど」と、苦情が出てきます。


「あ、それは申し訳ないです(;^_^」


 ということになり、古事記完成後十年もたたない720年に修正版を出すことになりました。


 それが日本書記なんですね。


 ほとんどの『うちの言い伝え』を載せてしまったので、その分量は古事記の十倍を超えることになってしまいました。



 日本のいいところなんでしょうねえ。



 これが中国の史書になると、一本道です。


 皇帝や王様の意に沿うものが一つ作られ(大抵は、皇帝のご先祖だけが偉くて、他の豪族・貴族はめちゃくちゃに書かれるか、抹殺されます)てお終いです。


 とにかく、スクナヒコナに関しては『国つくりの途中で帰ってしまった』ということでしか書かれていません。


 そして、途方に暮れたオオクニヌシの元にやってきたのがオオモノヌシノカミ(大物主命)なのです。


 オオモノヌシは「オレに手伝ってもらいたかったら、東の方に立派な神社を作って祀ってくれよな」と注文を付けてきました。


「うん、分かった。じゃ、とびきりのを作るよ(^_^;)」


 そうやって作られたのが、奈良の三輪山をご神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)なのです。


 


 ふつう、神社の鳥居を潜ると、正面に見えてくるのが拝殿です。


 拝殿というのは、人間が神さまに挨拶やお願いをするところで、賽銭箱とガラガラの鈴以外は、まあ、お飾りです。


 拝殿の奥にあるのが本殿で、ここに神さまが居ます。


 本殿は、拝殿とは別に塀で囲まれたりして、特別に見えます。


 たいてい、鏡や石や剣とかが安置してあります。御神体ですね。


 この、拝殿と本殿がワンセットで、ほかに手洗所やお札の頒布所、社務所、狛犬があって、数十本から数百本のクスノキなどの緑に囲まれてワンセットの神社になります。


 ところが、大神神社には本殿がありません。


 わたしも、初めて大神神社を訪れて、拝殿の向こうがスカスカなのに驚いた記憶があります。


 大神神社の御神体は、拝殿の背後にある三輪山そのものなんですねえ。


 三輪そうめんという素麵のブランドがありますが、その三輪そうめんの神さまでもあるのがオオモノヌシであります。


 ええと……


 前説が長くなりました(^_^;)、中身は次回と言うことで、今回は失礼いたします。

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