第38話『助っ人は海の彼方から・スクナヒコナ』

誤訳怪訳日本の神話・38

『助っ人は海の彼方から・スクナヒコナ』  




 かくしてオオクニヌシ(オオナムチ)は出雲を中心に北陸地方から中部地方の一部を含む地域の神(支配者)になりました。その間に、あちこちの女神と関係を持って、いや、仲良くなって180人も子どもの神さまが生まれます。


 オオクニヌシの女性関係の話ばかりしてきましたので、ここでは、オオクニヌシの国造りを補佐した神さまに触れたいと思います。


「女神のオネーチャンたちも大事だけど、ちょっとは国造りのことも考えなくっちゃなあ……近ごろはオオナムチじゃなくってオオクニヌシって呼ばれる方が多くなったしなあ……オオクニヌシって、漢字で書いたら『大国主』だもんなあ……大いなる国の主って意味だもんなあ……」


 そんなことを呟きながら出雲の海岸を歩いておりました。


 そもそもオオナムチで通っていたころ、兄のヤソガミたちの荷物を持たされて海岸を歩いていたら因幡の白兎と出会って運が開けたので、ゲン担ぎ、あるいは占ってみたら『海岸を歩きて吉!』と結果が出たのかもしれません。


 海岸を歩いていると、沖の方から小さな船が波に流されて海岸に漂着します。


 二十一世紀の今日では、海岸に打ち上げられるものは不審船かプラスチックゴミかとろくなものが無いのですが、昔の日本人の感性は、ちょっと違うのです。


 海岸に打ち上げられるものは尊いモノという感覚があります。


 日本のお寺や神社には、海岸や水辺に打ち上げられたものをご神体やご本尊に祀っているところがいくらもあります。


 たとえ、それが水死体であっても尊いものなので、七福神の一人『恵比寿・戎』の由来は海岸に打ち上げられた水死体を祀ったことが始まりと言われています。


 栃木県佐野市の龍江院には1600年に難破したオランダ船リーフで号のフィギュアヘッドか船尾の飾りであったエラスムス象が貨狄尊者という神さまとして祀られています。


 オオクニヌシが見つけた小さな船には蛾の卵で作った衣を着た小さな神さまが乗っていました。


「この神さまは、いったい誰なんだろう?」


 小さな神さまは自分の名前を名乗らなかったのです。


 そこで、オオクニヌシは他の神さまや人やら、はては動物にまで「この小さな神さまを知らないか?」と聞いて回ります。最後に聞いたガマガエルが「それなら、田んぼの久延毘古(くえびこ)」に聞いてみるといいよ」と教えてくれます。久延毘古とは田んぼの神さまで案山子(かかし)の姿をしています。


 カエルといい案山子といい、田んぼには知恵が詰まっているということなのかもしれません。


 その久延毘古なが言います。


「そいつは、高天原のカムムスヒの神のお子さんでスクナヒコナ(少彦名)の神さまですよ」


「カムムスヒって言えば、俺の舅のスサノオノミコトの姉さんのアマテラスのブレーンじゃん、そんな偉い神さまの息子なのか!?」


 ビックリして手の中のスクナヒコナを見ていると、天上から声がします。


『やよオオクニヌシ、そいつは本当にわしの息子じゃ』


「え、その声は!?」


『オオモノヌシノカミじゃ』


「え、あ、恐縮です(^_^;)、で、なんで、そんな偉い神さまの御子息がわたしのごとき田舎の神のもとへ?」


『いやあ、あんまりチッコイのでな。儂の手からこぼれ落ちてしまってな。ま、これも縁じゃ、これからは兄弟ってことで、うまく葦原の中つ国を治めるといいぞ』


「ハハア、ありがたき幸せ!」


 こうやって、オオクニヌシはスクナヒコナと一緒に建国間もない葦原の中つ国を治めました。



 二つ妄想することがあります。


 

 一つは、スクナヒコナの素性を教えてくれた案山子の久延毘古(くえびこ)です。


 神代の昔から案山子があったことも面白いのですが、案山子が知恵者だということです。


『オズの魔法使い』にも案山子が出てきますね。


「ボクはね、カカシだから頭の中は空っぽでさ。オズの魔法使いに、ぜひとも知恵がいっぱい詰まった脳みそをさずけてもらいたいよ!」


 そう言って、カカシはドロシーたちと旅をしますが、実際はカカシは知恵が一杯あって、ドロシーを助けるということになっています。


 他にも、童話やお伽話に案山子が実は賢かったという設定があったように記憶します。


 たしかに、子どものころ母の里であった蒲生野の田んぼで突っ立っていた案山子は、どこか哲人めいて見えていたような気がします。


 二つ目は、スクナヒコナが高天原の出身だと言うことです。


 高天原は言うまでもなく、皇祖神で伊勢神宮の御神体であるアマテラスの世界で、天皇家の初代である神武天皇のご先祖の出身地であります。つまり大和朝廷そのものです。


 そこからやってきたスクナヒコナと共同で治めたということは、出雲政権には早くから大和朝廷の力が浸透していたか、古事記が成立した8世紀初頭には出雲と大和が協力関係にあって、目出度く合併していたということの現れではないかと思います。


 スクナヒコナは蛾の神さまであったという暗示の通り、長く出雲に留まることなく、高天原に帰ってしまいます。


「さて、まだまだ国造りはこれからなんだけどなあ」


 オオクニヌシがボヤいておりますと……


「女遊び止めたらいいんじゃね!?」


 スセリヒメが言ったかどうかは分かりませんが、高天原から、もう一人の助っ人の神さまがやってきます。


 オオモノヌシノカミという神さまなのですが、いろいろ面白い神さまなので次回、ゆっくりと語りたいと思います。

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