第40話『オオモノヌシ・2』

誤訳怪訳日本の神話・40

『オオモノヌシ・2』  





 我を大和(奈良盆地)の東の山に奉れば国造りはうまく行くと宣言し、それを受けて大国主神はこの神を祀ることで国造りを促進したと古事記には記されています。


 奈良盆地の南に、揃って形のいい小さな三つの山があります。


 天香久山(あめのかぐやま) 畝傍山(うねびやま) 耳成山(みみなしやま)


 いずれも、標高200mに満たない単独の山で、山梨や長野など2000m級の山々が聳えている地方の感覚からは、丘に見える代物かもしれません。


 じっさい、大和三山は人工的に作られたものではないかという説があったぐらいです。


 この大和三山を含んだ奈良盆地の南部が飛鳥地方で、藤原京(平城京の前の都)ができるまで、古代大和朝廷が箱庭のように営まれていたところで、大和三山は鉄道模型のジオラマに置かれたように可愛い山です。




 春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣(ころも)ほすてふ 天の香具山    

  

             持統天皇




 持統天皇(聖徳太子の伯母さん)が宮殿の廊下を歩いていたら、宮殿の屋根の向こうに普通に見えているような近所の山です。


 その、大和三山から東北に行った山地と盆地の間にあるのが三輪山です。きれいな三角錐の山で標高461mですから、高さでは大和三山の倍以上、ざっと見た大きさは数倍に感じます。


 つまり特別に立派な山なんですね。


 この、特別で立派な山を依り代として迎えたのですから、大物主(オオモノヌシ)と言うのは、その名前の通り大物として扱われたのでしょう。


 麓には大神神社(おおみわじんじゃ)があって、今でも三輪山をご神体とする別格の神社としてあがめられております。


 古事記には、こんなエピソードが書かれています。


 三嶋湟咋(みしまのみぞくい)の娘の玉櫛姫に一目ぼれしたオオモノヌシは丹塗りの矢に化けて、用を足していた玉櫛姫のホトを突いてびっくりさせます。姫は、その矢を持って帰ると(なんで、持って帰るんでしょうねえ(^_^;))、その矢は麗しのイケメンくんになって、めでたく二人は結ばれます。のちに女の子が生まれて、その子が長じて神武天皇の后になります。


 もう一つは箸墓古墳にまつわる話です。


 倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめ)という早口で言ったら舌を噛みそうな姫神さまがいました。この姫の元に夜な夜な通ってくる男神がいたのですが、この男神は、ぜったいに姫に姿を見せません。


「ねえ、一度でいいから、明るいところで姿を見せてくれないかしら」


 寝床の中で、姫は男神にねだります。最初は「無理!」とか「ありえねえ!」とか断っていましたが、姫の熱意にほだされて約束をしてしまいます。


「じゃ、正体見ても、ぜったい驚いちゃダメだぜ」


「うん、たとえ化け物でも驚かないよ(#・ω・#)!」


「じゃ、朝になったら、枕もとの小物入れを覗いてみろよ」


「うん、分かった!」


 まあ、姫は、どこか腐女子的なところがあって、少々の事なら夏コミの同人誌的展開になっても驚かない自信があったんでしょう。


 朝になって目覚めると、さっそく姫は枕もとの小物入れを覗いてみます。


「どれどれ……え? あ? あ? キャーーーーー!!」


 電気が走ったように、姫は驚いてのけぞってしまいます。


 小物入れの中には、一匹の白蛇が蟠っていました。


 で、悲劇が起こります。


 のけぞって尻餅をついた姫のお尻の下には箸が置いてあって、それが姫のホトに突き刺さって、姫はあえなくも亡くなってしまいます。


 そして、この倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめ)が葬られたのが、大和盆地でもかなり早い時期に造られた前方後円墳だと言われる箸墓古墳であります。


 倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめ)は七代孝霊天皇の皇女ということになっていますが、箸墓古墳の被葬者は卑弥呼という説もあって、いずれにしろオオモノヌシが特別な神さまとして扱われていることが偲ばれます。


 しかし、玉櫛姫といい倭迹迹日百襲姫命といい、Z指定の死に方ですねえ。


 ゲームなどで、こういう描写をしたら、確実に問題になります。ホトという言い方も教科書ではNGワードになっていて、日本神話を教科書に載せられない、小さな言い訳の一つにされています。


 とにかく、オオモノヌシは、スクナヒコナと並んでオオクニヌシの国造りの柱石になった神であります。


 二人とも、海の向こうからやってきたということで、朝鮮半島からやってきたという学者もいます。


 そんな検証をするような知識はありませんが、オオクニヌシの政権は、けして独裁ではなかったことを示しているように思います。


 日本海側のさまざまな勢力の女神とのロマンスやスクナヒコナやオオモノヌシのエピソードが物語るように、妥協と協調によってできた政権のように思います。


 日本と言うのは、神話の時代から、どこか、みんなで話し合ってとか力を合わせてという印象があって、わたしは好きです。

 スサノオが高天原で大暴れして、ブチ切れたお姉さんのアマテラスが天岩戸に隠れた時も、天安河原(あめのやすかわら)に大勢の神さまが集まって相談しました。そして、アメノウズメやタヂカラオなどが役割分担してアマテラスを引き出すことに成功していましたね。一芸にだけ秀でた神さまがたちが大汗かいて協力している姿は、何度読み返しても微笑ましいですね。


 玉櫛姫と倭迹迹日百襲姫命は恥ずかしい死に方をしますが、歴史的には、男の歴史的人物で、もっとすごいのがあります。


 上杉謙信の急死は、大きい用を足している時に、武田の間者によって下から串刺しにされたというのがあります。


 大河ドラマで上杉謙信をやることになった有名俳優が引き受ける前に、死に方の確認をしたという、それこそ有名な話があります。脱線しすぎますので、それについては深入りはしません(^_^;)。

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