第3話 告白

ある日の放課後、千枝と陽子は教室で喋っていた。


陽子 「分からないわよ?天馬センパイは、本当に悪い人かも。」

千枝 「陽子?怒るよ?」

陽子 「だってさぁ…。」

千枝 「ねぇ…陽子…。」

陽子 「ん?」

千枝 「ワタシね、決めたの。」

陽子 「何を?」

千枝 「センパイに告白するわ。」

陽子 「はい?」

千枝 「センパイに告白するわ。」

陽子 「キレイに言い直したわね。でも、天馬センパイには…。」

千枝 「だから分かってるってば。それでも気持ち伝えないよりはイイと思うのよ。」

陽子 「そりゃそうかも知れないけど…。千枝が傷つくだけかもよ?」

千枝 「うん。でも、センパイは優しいから、私を傷つけまいとするわ。」

陽子 「逆にソレが傷つくとも知らずにね。」

千枝 「私ね…やっぱりセンパイが好きなの。」

陽子 「…。」

千枝 「好きなら想いを伝える。コレって自然な事でしょ?」

陽子 「そうだけど…。」

千枝 「陽子には感謝してるわよ。いつも私の相談に乗ってくれて。」

陽子 「千枝…。」

千枝 「今日告白するね。」

陽子 「き…今日?」

千枝 「そうだよ?」

陽子 「な…何て告白するツモリなの?」

千枝 「ソコなのよねぇ…。実は私、告白した事ないんだ。」

陽子 「へ…?」

千枝 「緊張するなぁ…。」

陽子 「ちょ…ちょっと待って!なら好きになった人は居なかったの?」

千枝 「居たよ?」

陽子 「だったら告白くらい…。」

千枝 「なんかね、私、鈍いのかも。好きになった人が居て、友達とカッコイイよねぇってハナシしてたら、いつの間にか好きな人とその友達が付き合ってたりするんだよねぇ。」

陽子 「…。」

千枝 「また好きな人ができて、友達に、告白しようと思ってるって相談したら、止められるの。今はやめておけって。」

陽子 「…。」

千枝 「そしたらイツの間にか…。私ってバカだよね。」

陽子 「ひとつ言っておくけど。」

千枝 「?」

陽子 「私、天馬センパイの事は好きじゃないから。ソレに、相談されて横取りするようなマネは死んでもしないから。」

千枝 「分かってる。陽子は今までの友達と違うって。だって、ホントに太陽みたいに暖かいんだもん。」

陽子 「褒めても何も出ないよ?」

千枝 「?」

陽子 「あぁ、何でもない。で?ホントに告白するツモリ?」

千枝 「うん。」

陽子 「そっか。」

千枝 「うん。」


その頃資料室では…。


天馬 「(入って来つつ)こんちわーっす。」

春香 「天馬君。今日は早いのねぇ。」

天馬 「ありゃ?春香先輩だけですか?」

春香 「まだ誰も来てないわよ?」

天馬 「じゃぁ二人ですか。」

春香 「ヘンな事しないでよ?」

天馬 「し…しませんって!」

春香 「冗談よ。ホント天馬君って不思議よねぇ…。」

天馬 「不思議?」

春香 「うん。だって、他校の生徒数人を半殺しにして停学になりかけたような人が私の一言でこんなに動揺するなんて。」

天馬 「相変わらず情報が早いですね…。」

春香 「私を見くびらないでよね。」

天馬 「失礼しました。」

春香 「子供の頃からワルガキだったもんね。天馬君。」

天馬 「ですね。春香先輩とは幼馴染みたいなもんですから。」

春香 「毎日毎日ケンカしてたよね。私も何回も泣かされたっけ。」

天馬 「愛情の裏返しってヤツですよ?」

春香 「?」

天馬 「イ…イヤ!何でもないです。」

春香 「はぁ…いつの間にかもう高校三年よ。このまま就職して…あとは仕事に追われて生きるんだろうなぁ…。」

天馬 「そんなん先輩らしくないですよ?」

春香 「だね。」

天馬 「俺は笑顔の春香先輩が一番好きです。」

春香 「ありがとう。」(ニコッと笑う)

天馬 「…。」

春香 「あぁ…気持ちいいよね。五月の風って。」

天馬 「春の香りがしますよね。」

春香 「ウマイわね。天馬君。」

天馬 「ははは…。」

春香 「眠くなってきちゃった。」

天馬 「寝ててイイですよ?皆が来たら起こします。」

春香 「寝てるスキに…。」

天馬 「しませんって…。」

春香 「ホント…気持ちいい風…。」

天馬 (窓から入ってくる風を気持ちよさそう受ける春香に見とれている)

春香 「ねぇ天馬君。」

天馬 「は…はい?」

春香 「幸せってね、目に見えるものだけじゃないんだよ?」

天馬 「?」

春香 「天馬君とは十年以上の付き合いだけど。天馬君、周りを見回したり、遠くを見つめたりする事も時には大事なんだよ?」

天馬 「意味が…よく…分かりません…。」

春香 「ま・いっか。」

天馬 「はい♪」


その一部始終をドアの陰で聞いていた千枝。

入るに入れなかったのである。


千枝 「…。」


そしてそのまま部室を離れて歩き出す。

そして…。


陽子 「どうだった?」

千枝 「(歩いて来て陽子の横に座る)ダメだった…。」

陽子 「そっかぁ…。何て言って伝えたの?」

千枝 「気持ち…伝えられなかった…。」

陽子 「え…?」

千枝 「ダメ…だった…。」(目に涙をためている)

陽子 「千枝…。」

千枝 「どうしてだろ…。フラれたワケじゃないのに涙が出て来るよ…。」

陽子 (千枝の頭に手を乗せる)

千枝 「『好きです』の一言も言えなかった…。」

陽子 「イイのよ。それで。よく頑張ったよ。」

千枝 「でもね…でも…。」

陽子 「なぁに?」


千枝 「大好きなの…。」


陽子 「分かってる。分かってるから。好きで好きで仕方ないんだよね。だから涙が出て来るんだよね。」

千枝 「うん…。」

陽子 「頑張ろうよ。千枝。」

千枝 「うん…。」


春香と天馬の会話を聞いてしまった千枝。

その会話を聞いた事で天馬に告白する事が出来なかった。

ただ…天馬を想っていた…。

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