第2話 晴れ時々ヘコみ
翌朝。この日も見事な快晴であった。
ユックリと目を開ける天馬。
体を起こし、周りを見回して…。
天馬 「遅刻だっ!!」
ハネ起きてソッコー準備して家を飛び出す。
クチには食パンをくわえ、右手にカバン、左手には牛乳を持ってダッシュしている。
千枝 「センパァーーイ!!」(後ろから声をかける)
天馬 「?(振り向く)千枝ちゃん…。」
千枝 「(追いついて)先輩も遅刻ですか?」
天馬 「あぁ、三分前に起きた。」
千枝 「だからパンを口にくわえてるんですね…。初めて見ました…。そういう人。」
天馬 「でも悠長に喋ってるヒマはない!遅刻するよ?」
千枝 「先輩と一緒なら遅刻しても平気です♪」
天馬 「んなムチャクチャな…。生活指導の堀越はキビシイんだぜ?」
千枝 「そういうウワサですね。」
天馬 「俺なんて前に腕立て伏せ100回とか意味不明な罰もらったよ…。」
千枝 「あららぁ。」
天馬 「あの…。全然緊迫感が感じられないんだけど?」
千枝 「そうですか?」
天馬 「とにかく急ごう!」(二人は走り出す)
そして校門に到着すると、既に校門は閉まっていた。
天馬 「あちゃ~…。やっぱ遅かったか…。」
千枝 「し…閉められるんですね…。間にあわないと…。」
天馬 「千枝ちゃんまだ入学して一ヶ月だもんね。はぁ~…。どうすっかなぁ…。堀越のヤロウももう居ないかぁ…。」
そこへ校門の陰から堀越がユックリと出てくる。
天馬 「ウゲ…。」
堀越 「聞こえたぞ?安藤…。」
千枝 「い…居た…。」
堀越 「ソッチ(千枝)は?新入生か?」
千枝 「は…はい!紅葉千枝です…。」
天馬 「なぁセンセ。千枝ちゃんは俺に合わせて遅刻したんだよ。だから千枝ちゃんは見逃してやってくれません?」
千枝 「違います!私が天馬センパイを引きとめたからです。」
堀越 「安藤…。イメージアップを図りたい気持ちは分かる。」
千枝 「?」
堀越 「また昨夜も暴れたみたいだな?」
千枝 「暴れた?」
天馬 「そ…そのハナシは後で…。」(苦笑いしながら)
堀越 「他校の数人の生徒を半殺しにしたんだってな?また停学になりたいのか?」
千枝 「半殺し?また停学?」
天馬 「だからセンセ…。」
堀越 「安藤…オマエは今日は学校に入らなくてイイ。そのまま帰れ。」
天馬 「キビしいねぇ…。」(歩き出す)
千枝 「センパイ!」
堀越 「紅葉と言ったな?オマエは入れ。だが次からは遅刻するなよ?」
千枝 「…。」
学校の傍をトボトボと歩いている天馬。
すると近くで天馬を呼ぶ声がする。
天馬 「?」(傍の学校の外壁を見上げる)
大地 「テーンちゃん。」(外壁の上に座っている)
天馬 「んだ大地かよ。」
大地 「まぁた堀越にシボられたみたいだねぇ。」
天馬 「アッチ行け。」
大地 「助けてやろうとしてんのになぁ。停学にならなくて済むんだぜ?」
天馬 「別にどうでもイイよ。」
大地 「あれ?イツモと違うな。どしたん?イツモは堀越にシボられたぐらいじゃ大してヘコまないのに。今日はズドーンってヘコんでんじゃん。」
天馬 「話しかけんな。粉々にするぞ?」(すごい形相で睨む)
大地 「そ…そういう目で睨まないの。本気モード入っちゃうとオチオチ冗談も言えないんだもんな。」
天馬 「昨日の夜のヤツラは勝手にインネンつけてきやがっただけだ。ソレを半殺しにして何が悪い?」
大地 「分かってるって。自分からはケンカ売らないモンね。でも、マジでどうした?他に何か言われたか?堀越に。」
天馬 「横に千枝ちゃん居たんだよ。」
大地 「あのオマエが入ってる演劇部の後輩か?」
天馬 「そう。千枝ちゃんに俺がボーリョク人間だと思われちまった。」
大地 「堀越だもんな。相手が。天馬が悪いってカンジで言ったんだろ。ジッサイ、俺もオマエも堀越には目の仇にされてるからな。」
天馬 「何でだろうな?千枝ちゃんに聞かれたのがショックだった…。」
大地 「オマエも変わったよ。汚名返上といきません?」
天馬 「返上できるモンならするさ。」
大地 「どうして俺が昨夜の事を知ってると思う?」
天馬 「さっきの俺達と堀越のハナシ聞いてたからだろ?」
大地 「ハズレ。昨晩俺も近くに居たんだよ。言い争う声が聞こえたから行ってみると既にオマエは居なくなってた。気絶した数人のヤツラを残してな。後始末しといたよ。」
天馬 「後始末?」
大地 「そのうちの一人に事情聞いて、今日の朝イチでウチの学校の校長宛に電話入れろって言っといたよ。天馬は悪くないって言えって。」
天馬 「ソレ…スンナリ聞くようなスナオなヤツラなら俺にイチャモンつけてきてねぇよ。」
大地 「大丈夫。最初は言うこと聞かなかったけどな。ボス格のヤツを更にボコッてさ。身ぐるみ全部はいで燃やしておいた。もし電話して来なかったらオマエラを燃やすぞって言ってな。」
天馬 「頼むから逮捕されてくれよ。」
大地 「俺だって善悪の分別くらいあるさ。」
天馬 「そう願うよ。」
大地 「コレで貸し借りゼロな。」
天馬 「あ?」
大地 「昨日言いふらした事だ。」
天馬 「忘れてた!許すと思うか?」
大地 「そ…そんなぁ~…。」
そこへ校内放送が聞こえてくる。
『二年A組、安藤天馬君。二年A組、安藤天馬君。校内に居る場合は至急校長室まで来てください。』
天馬 「『校内に居る場合は』って…。」
大地 「居る事が少ないからじゃねぇの?」
天馬 「オマエ…今日は生きて帰れると思うなよ?」
大地 「いやん。ホラ手ぇ貸すから上ってこい。」(手を差し出す)
天馬 「サンキュ。」(掴んで壁をのぼる)
そして天馬が校長室で事情を聞かれている間…。
大地 「あの~…。」
千枝 「はい?」
大地 「紅葉さんだよね?」
千枝 「そうですけど?あ・天馬センパイのお友達の。」
大地 「大空大地って言うんだ。友達ってよりも天馬は俺のパシリみたいなもんだけどね。」
千枝 「そうだったんですかぁ。」
大地 「イヤイヤ冗談!こんな事言ったの、今のアイツにバレたら粉々にされるしな…。」
千枝 「?」
大地 「いや、コッチの事。それより今朝の事だけど。」
千枝 「今朝の?」
大地 「天馬に関する悪いウワサ聞いたんじゃないかと思って。」
千枝 「他校の生徒を数人半殺しにしたって。」
大地 「そう。まぁ事実なんだけど、どう思う?」
千枝 「天馬センパイは、自分からはそんな事しませんよ。私には分かります。たぶん、先に天馬センパイが言いがかりでもつけられて仕方なくだったんだと思います。」
大地 「分かってんじゃん。」
千枝 「『信じる者は救われる』です。」
大地 「使い方が合ってるかどうかは分からないけど…。それなら俺から言う事は何もないね。」
千枝 「もしかして私が天馬センパイがヒドイ人だって思ってるとでも?」
大地 「あぁ。」
千枝 「ないですよ♪」(ニコッと笑って)
大地 「コリャ…天馬がヘコむワケも分かるわ。」
千枝 「なんですか?」
大地 「紅葉さん、どうか、天馬を宜しく。」(深々とアタマを下げる)
千枝 「ちょ…。やめてくださいよ!お世話になってるのはワタシの方なんですから。」
大地 「まぁ、気にしないで。じゃぁ俺は行くよ。そろそろあのバカもセッキョー終えてる頃だろ。」
千枝 「あ・天馬センパイに、また放課後にって伝えておいてもらえますか?」
大地 「お安いご用だ。じゃね。」(自分の教室へ戻る)
そして昼休みの屋上。
天馬 「(パン齧りながら)へぇ。オマエもイイトコあんじゃん。」
大地 「なぁ天馬…。」
天馬 「あん?」
大地 「オマエ…紅葉さんの事はどう思ってんだ?」
天馬 「あ?いい後輩だと思ってるけど?」
大地 「そうか…。」
天馬 「なんだ?」
大地 「なんでもね。」
天馬 「ヘンなヤツ。」(パンを牛乳で流し込む)
本当によく晴れた一日だった。
だが、人の心にも空と同じように雨が降る。
それを虹に変えるのは…。
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