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ターゲットは、凝りもせずフレンチレストランにいた。他のひき逃げ犯や交通事故を起こした当事者が、たちどころに逮捕、拘束されているにもかかわらず、この男だけはいまだに送検されることも無く、悠々自適な生活を続けている。失った命の重さを感じようとする意志も無く、仮借する良心も持ち合わせていない。そんな生きる値打ちの無い人間が、いつも通りに高価な食事で腹を満たし、無価値な時間を浪費していた。
「まだか、神蔵どの?」
釣鐘の下で胡坐をかく重右衛門に向かって、拓海が鐘楼堂の下から応える。
「まだ人の目が有ります。今暫くお待ち下さい」
準備万端整ってはいるが、まさか他の客がいる所へ重右衛門を転送するわけにもいかない。そんなことをしたら世間が大騒ぎになることが目に見えている。それによって世の中の憤気レベルが、かえって上昇してしまう可能性すら有るのではないか。
証言A ボンって音がしたと思ったら、突然、侍が現れたんだ! 本当だよ!
証言B いきなり刀を抜いて、男性に襲い掛かるのを見ました。
証言C 侍が霧のように消えたんだよ! あれはワープだ! 間違いない!
証言D 嘘じゃありません! この目で見たんです!
こんな集団ヒステリーなど、格好のワイドショーネタではないか。しかも、笹塚健三という渦中の人物が、公衆の面前で惨殺されるのだ。ただのお騒がせだけで済むはずが無い。やはりここは、辛抱強く好機を待つほか無いだろう。遅々として進まぬ時間を、ジリジリとして持つ二人。もしそこに時計が有ったなら、チクタクとした大きな音が響いているに違いない。
そして遂に、タブレットを凝視する拓海の表情が動いた。
「今にございます、重右衛門さま! 奴が厠に立ちました!」
ターゲットがトイレに立ったタイミングを見計らって、重右衛門の転送を開始する拓海。無論、転送先はそのトイレということになる。
「うむ。それでは神蔵どの。チャッチャと片付けて参る!」
「びよよーーん」となって「ボンッ」で消えて、ワッと驚いてバサリと斬って、ボタンを押したら「ボンッ」からの「びよよーーん」で重右衛門が帰って来た。拓海が腰を下ろす暇もなく戻って来た重右衛門が叫ぶ。
「ではお菊どののもとへ! いざ!」
「えっ!?」
鐘楼堂から飛び降りて走り出した重右衛門を追って、拓海が慌てる。
「お待ちください、重右衛門さま! 相手の素性も目的も不明です! 先ずは相談を! 重右衛門さま! 重右衛門さまーーーっ!」
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