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「重右衛門さま。それが次の悪党にございます」
「聞こう」
菊乃が手渡したハードコピーを見た重右衛門が眉をひそめた。
「今度は女であるか? どのような罪状かお聞かせ願えるかな、お菊どの」
「もちろんでございます」
菊乃は姿勢を正して重右衛門を見た。
「この女は清水かずえと申し、母が興した
「幼子の為の寺子屋とは大儀な。そのような園を営むのは気苦労も大きかろう。子供好きのする、極めて立派な婦女と見受けられるが」
女を斬ることを重右衛門が承知するだろうか? 重右衛門が女子供に刀を振り下ろしている姿を、菊乃はどうしても想像できなかった。
「左様にございますが重右衛門さま。このかずえなる女は、年端も行かぬ子供たちに法外な折檻を繰り返し、子供たちにはそれを口外することはまかりならぬと迫っておりました。その為、女の悪行が世間に露呈することなく、長い間、見過ごされてきたのです。しかし身体のそこここに残る痣に気付いた幼子の親どもが不審に思い、奉行所に駆け込んだことでかずえの悪事が発覚したものであります」
「なんと無体な。しかしこの人相画を見る限り、そのような罪を犯すようには・・・いや、よく見れば確かに、腹の底に黒々とした何かを隠し持ているようにも見える」
「ところが、この女が確かに乱暴を働いたという動かぬ査証が無く、いまだに罪を免れているというのが現状にございます。
更に、同じ保育園にて働く同僚たちにも傍若無人な振る舞いで当たり、多くの者が園を辞しているとのこと。その元同僚たちによれば、かずえが幼子の頬を平手で打つなどを目にしたこと幾多とも」
「なるほど。しかしその者たちの言を採れば、かずえの罪状は明らかではないか?」
しかし一方で、先日の拓海が言っていたように、インチキな時代劇がそのようなイメージを植え付けているだけだということも知っている。かつての日本では、不徳のあった武士本人だけでなく、その妻や子供までもが斬り捨てや斬首の対象になっていたことは事実なのだ。御家騒動に巻き込まれた子供が毒殺されるなど、茶飯だったと言うではないか。
「かの件に関しかずえは、奉行所の取り調べに対し『その幼子を励ますために、子の頬に手を添えたことがある』と答える始末。自らの行いを省みる態度は全くもって見られず、数々の証言にも拘らず奉行所は手をこまねいているのです」
「むむむ。幼子にいわれなき狼藉をはたらくなど、捨て置けぬ」
「お引き受け頂けますでしょうか、重右衛門さま」
この重右衛門が女を斬ることを承知するのだろうか?
「承知した。この女を斬ろう」
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