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「これは何であろうか、お菊どの?」
「それはトランスポンダ―というものでございます」
「虎・・・???」
「このカラクリ物によって、重右衛門さまを遠い異国に跳ばすことが出来ます」
果たして
「な、なるほど。承知した」
彼にとってみれば得体の知れない事態が進行中であり、
「これはこれは巧みな人相画であるな。色彩も鮮やかで、まるで生きているようだ」
「その男が、今巷を騒がせている、山崎文博と申す下衆の者でございます」
「しかも、珍妙な衣服をまとっておるようだが」
「左様でございます。それが重右衛門さまがこれから向かう
「ふむ。して、この後ろに描かれた白い功利の様なものは何か? かなり大きそうだが」
重右衛門は山崎の後ろに映る、白い高級SUVを指差した。それは常磐自動車道で撮影された車載カメラの映像である。
「それがかの国での駕籠にございます。こやつはそれを駆って、他の駕籠を煽るという悪行三昧の日々を送っております」
「うむ。確か『煽り駕籠』と申したかな? なんとも腹立たしい娑婆塞げ(世の中の邪魔にしかならない奴)よのう」
そうしてお菊は、隣に座る拓海を紹介した。
「ここに居ります神蔵が重右衛門さまを、間違いなく山崎の元へと送り届けますゆえ、重右衛門さまには手はず通り・・・」
「承知しておる。その男を斬ったらば、この虎ん・・・」
「トランスポンダ―」先ほどからお菊の隣で黙していた神蔵という若い男 ──年の頃は、お菊とさほど変わらなそうだ── が、初めて口にした言葉だった。
「そう、この朱色の突起を押し込めば、再びここに戻って来れるのであるな?」
拓海が付け加える。
「間違っても、誰かの肌と触れ合っている時に、それを押さないとお約束頂きとうございます。さもなくば、その者もここに引き連れてきてしまうことに」
「合点した。心配には及ばぬ」重右衛門は力の籠った眼で拓海を見た。「ただ、その異国とやらについて、もう少しお聞かせ願えぬか? もしや、言葉も通じぬ国であろうか?」
「いいえ、重右衛門さま。少し変わった言葉を使いますが、通じぬことはございますまい」拓海に代わってお菊が答えた。「ただ、あちらで無用に言葉を交わすことは、お控え頂いた方が宜しいかと存じます」
重右衛門が重ねて尋ねる。
「はて、それは何故かな?」
「その異国ではあらゆる物が、この国とは異なっております。重右衛門さまが見たことも無いようなカラクリ物を使って、反撃して来るやもしれません。彼方に着いたら早々に事を済ませ、早々に戻ってくるのが肝要でございましょう」
「うむ、確かにそうだ。肝に銘じよう」
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