Ⅳ 審問
ところが、預言皇庁からの返答は、私の期待を大きく裏切るものだった。
「そ、そんなバカなことが……」
オーギャスティノス修道会の総会において、預言皇庁からの返答を聞いた私はまたしても耳を疑うこととなる。
返答は「そのような考えは異端的なので即刻捨てるように」と、むしろ私を異端者呼ばわりするようなものであった。
「なぜ、私が異端なのだ! 『聖典』に記されていない偽りの教えを解いているのはそちらの方ではないか!」
私は怒りに打ち震え、修道院内に雷鳴の如き怒号を響き渡らせた。
後に聞いた話によると、自身の金儲けを邪魔されたくないマインズ大司教が横槍を入れたことも、預言皇庁のこの判断に影響を与えたらしい……。
無論、そのように
するとしばらくして、今度は私のもとに預言皇庁から〝枢軸卿(※預言皇を補佐する高位聖職者)〟が派遣され、私の主義・主張に対する審問会が開かれることとなった。
「あなたの意見は神聖にして犯すべからざる預言皇の権威を否定することに通じます。その誤った考えを改めないとなれば、あなたを異端審判にかけなければなりません。マルティアン司祭、悪いことは言わない。今からでもその異端的な考えを悔い改めなさい」
修道院に設けられた審問会の会場で、緋色の平服を着た枢軸卿が物知り顔に、上から目線で諭すようにしてそう告げる。
異端審判にかけられれば、よほどのことがない限り有罪の判決が下され、私には異端者の烙印が押されるだろう……そうなれば、軽くても破門か投獄、下手をすれば火炙りにもなりかねん。
「何が異端か! 悔い改めるのは私ではなくあなた達だ! 私の主張が異端だというのであれば、贖罪符のことは『聖典』 のどこに書いてあるというのです!? イェホシアは一言もそのようなものについて語ってはおられない!」
だが。神の前において、私がそのような自己犠牲を恐れて〝義〟を捨てるわけがない。私は激高すると、無知で月並みなことしか言えぬ枢軸卿を反対に叱責してやった。
「そ、それは……し、しかし、代々の預言皇も贖罪符を認めてこられた。そ、そうじゃ! 『聖釈』にはちゃんとそのことも記されておろう?」
「そもそもその『聖釈』自体が誤りなのだ! 『聖典』にない預言皇や枢軸卿、大司教という地位もまた同様。本来、イェホシアの説いた預言の教えにはない間違った概念だ! 我ら聖職者はただ、神への道へ人々を導くためにあるだけの存在……神を心に想う時、誰しもが預言者となれるのです!」
枢軸卿もこれまで説かれてきた一般的な教会の教えに即して反論するが、私はそれを逆手にとると、さらに突っ込んで彼らの薄っぺらい教理を批判する。
『聖典』に触れ、イェホシアの真の預言に気づいた当初はその喜びに酔いしれていたため、さほどその矛盾や欺瞞を気にもしていなかったが、今さらながらに贖罪符をはじめとする、彼らが勝手に付け加えた偽りの教義にふつふつと怒りが湧いてきた。
愚かにも、かくいう私とて長年の間、預言皇とその取り巻き達の作り出した『聖釈』という偽典を、それが真にイェホシアの教えだと信じて疑わなかった……だが、彼らは卑劣にも、そうして千年以上に渡り、イェホシア・ガリールの説いた真の教えを自らの利のために歪めてきたのである!
「なっ!? お、畏れ多くも唯一、神の言葉を預かれる預言皇を否定するとは気でも触れたか!? 最早、異端審判をするまでもない。貴様はやはり異端者じゃ!」
「ならば問う! それではなぜ、『聖典』の中でイェホシアは預言皇について一言も触れてはいないのだ!? それどころか、すべての者が神の言葉を預かれると説いているのに、その教えを無視した預言皇という存在の方こそが、むしろ明らかなる異端的教理と呼べるのではないのか!?」
「う、うぐ……よ、預言皇を批判するとはよほどの覚悟があるのだろうな? マルティアン司教、おって厳しい沙汰が下るだろう。心しておけ!」
結局、討論では私を打ち負かすことができず、真っ赤な顔をした枢軸卿はそんな捨て台詞を口に帰って行った。
預言皇を真正面から堂々と批判してみせたのだ。脅されるまでもなく、このままで済むわけがないことは私にもわかっている。
だが、私はそれでもよいと思っていた。まだ異教が跋扈する世界の中で正しき教えを説き、残酷な刑に処せられたイェホシアや
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