第8話 自分で墓穴を掘ったら世話が無い








「ふわぁ……、ねむ…………」



 通い慣れた通学路を歩き、俺の在籍する私立あまがわ高等学校に到着。教室に入ると既にちらほらとクラスメイトが登校していた。因みに春川さんと雪音さんはまだ教室にはいない。


 残念のような、ほっとしたような複雑な気持ちを抱きながら教室の窓側の自分の席へと座る。ふぅ、と短く息を吐いてカバンから筆記用具などを取り出していると……、



「あれ、今日千歳学校来んの早くね? おはよ」

「色々あって今日は少しはやく目覚めたんだよ。おはよう」



 怪訝な顔をした浩太が教室に入って来た。軽く言葉を交わすと同時に挨拶をすると、浩太は目の前の席へどかりと座った。


 つーか何そのニヤケ顔? ぶっとばすぞ。



「あっ、もしかしてアレか~? 昨日の放課後、屋上で念願の初恋相手である春川さんと話したからその興奮が未だ冷めなくてロクに寝られなかったのか~?」

「残念ハズレ。むしろ快眠できて充実した朝だったよ」

「ははん? もしかして夢に出てきたとか?」

「………………」

「………………え、マジで?」



 視線を横に向けながら口を噤んで無言を貫くも、もはやこれは肯定していると同義。現に俺の反応を見た浩太は自分の指摘した言葉が正しいことに目を丸くして驚愕していた。浩太って空気は読めないけど、こういう時に限っては鋭いんだよなぁ……。


 自分で墓穴を掘ったようなものだけど、冷や汗をかいた俺はなんとか話を逸らそうと口を開いた。



「そ、そういえば昨日はどうして二人とも屋上にいたんだよ? 教室で先に帰るって言ってたじゃん」

「あー、その件に関してはホントわりぃ。俺は止めたんだが、鈴原さんが何度言っても聞かなくてな……」

「鈴原さんが?」



 滅多に自分から動かない普段大人しいあの雪音さんがそんな行動力を発揮するなんて珍しい。俺に春川さんが相談するっていう時も何故かプルプルと死にそうな顔をしていたし、告白してる時に至っては無表情だったけど必死さを滲ませて間に入り、ボロボロと涙を流していた。


 彼女のその小さな姿を思い出すだけで、胸が痛くなる。



(あれ、そういえばどうして雪音さんは泣いていたんだ……?)



 感情の振り幅をあまり表情に出さない彼女が見せた、初めての涙。目の前の浩太ならその理由も見当はついていそうだけど、なんとなくこれは自分で答えを出さないといけないような気がする。


 確か、あのとき雪音さんは―――、



『やだよぉ……っ。そんなの、ズルい……!』

『なんで今更……っ、私の方が近いのに……っ!! 私だって……!』



 と言っていた。となると、そこから導き出される答えはつまり……、



「そっか、数少ない友達である俺をとられたくなかったんだな……!」

「たぶんだが違うと思うぞ」

「なっ、なにィィィィィッッ!!!!」



 おいコラ肘を付きながら呆れたような視線を向けんなや浩太。せっかく最短でもっともらしい答えを導けたと思ったのに……!!


 両手をわなわなさせていると、浩太は何かに気が付いたように教室の入口へと視線を向けた。



「おっ、どうやら来たみたいだぞ」

「えっ…………!?」

「―――お二人とも、おはようございますっ!」

「おはよ」



 浩太同様に視線を向けると俺は驚愕する。そこにいたのはスラリと背が高いスタイル抜群の春川さんと頭三つ分ほど小さい雪音さん、身長差のある二人が立ち並んでいる姿があったからだ。


 彼女らは晴れやかに挨拶をすると、真っ直ぐに俺らが座る窓側の席へと向かってきた。春川さんは可憐な笑みを浮かべて、雪音さんは無表情だけど……ん? 少しだけ機嫌が悪そうだ。まぁだいたい見当は付くけど。


 とりあえず気を取り直して俺は声を掛ける。



「お、おはよう春川さん、雪音さん。二人揃って登校してくるなんて珍しいね」

「はいっ、途中でちょうど前を歩いてらっしゃる鈴原さんをお見かけしたので、色々お話をしながら教室までご一緒させていただいたんですよ。とても楽しかったです」

「……こっちは迷惑。『聖女』の貴女といると目立つし、なにより身長差が際立つから」



 瞳を輝かせて話す春川さんと対照的に、真っ黒なオーラを纏いながら吐き捨てるように憎々しげに呟く雪音さん。彼女は自分の身長が低いことをとても気にしている。


 俺は全く気にしないけど、身長にコンプレックスを持つ彼女にとっては非常にデリケートな話題。だから俺と浩太は日常的にその話題には触れないようにしていた。だけどまさか久しぶりに自分で地雷を踏みに行くなんて思わなかったよ雪音さん……。


 どうフォローしようかと思うも咄嗟に言葉が出てこない。視線を前に向けると浩太も俺と同様だったらしい。互いに目を見てどうしようかと頭を悩ませるも、まず一番に開口したのはきょとんとした表情をした春川さんだった。









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