第5話 大好きの理由
この状況は、いったいなんだ?
目を丸くして呆けた俺の目の前には頬を赤らめながら手を差し伸べる春川さんがいる。夕陽が差す高校の屋上に柔らかな一陣の風が吹くと、絹のように綺麗な黒髪がさらさらと揺れた。
き、きっと俺の聞き間違いだよな?
「えーっと……、ご、ごめん、春川さん。もう一度言って貰ってもいいかな?」
「で、ですから……っ! 大好き、です……っ!! わたしとっ、私と付き合ってくだひゃい…………!」
「え、えぇぇぇぇーーーーッッッ!!!!!」
叫んだ。それはもう恥も外聞もなく俺は叫んだ。
だってそうだろう。まさか『聖女』と呼ばれる春川さんも俺のことが好きだったなんてどこのラノベや漫画?って話だ。いやまさに今ここで
片思いしていた相手も実は俺のことが好きだった……。それ
彼女の恋愛相談から突然の告白に動揺しながらも嬉しさで内心慌ただしくなる俺。しかし、俺にはいくつか疑問が残っていた。
って、どうして春川さん頭を抱えてしゃがみ込んでるの?
「うぅ、大事な告白なのに舌を噛んでしまいました……。私ったらどうしてこう失敗しちゃうのでしょうか……っ。しかも大好きな秋村くんの前で……」
「えと、春川さん? どうしてしゃがみ込んで……?」
「すみません、私なりの反省ポーズなんです……。あれです、猿まわし芸のお猿さんと思って頂ければ……」
「日○さる軍団!?」
思わず某凄腕エンターテイメント集団の名を叫ぶけど、たぶんアレと一緒にするのは違うと思う。生物的にも可愛さ的にも。っていうか春川さんの言う反省ってなんのこと?
……まぁ色々気になる部分はあるけど、一つずつ消化していこう。
「ねぇ春川さん。返事の前に訊きたいことがあるんだけどいいかな?」
「は、はい、なんでしょうか?」
すたっと勢いよく立ち上がった春川さん。未だ顔を赤らめている彼女に対し、俺は疑問に思っていたことを訊ねた。
「その……春川さんが好きなのは、クラスメイトで俺が毎日見ている人物ってことだったけど……?」
「いつもご自宅や学校の鏡でご自分を見てますよね」
「てっきり浩太のことかと思ったんだけど……?」
「どうして松岡くんが……? ……あっ、私がややこしくしてしまったんですね。ごめんなさい、秋村くんから知ってる男子?と聞かれて焦ってしまって……」
「えっと、次で最後なんだけど……その、どうして俺を好きになってくれたんだ?」
そう、これが一番の疑問だ。
いくら俺が春川さんのことが好きで初恋だとしても、彼女から告白してきた事実は単純には呑み込めない。……ま、まさか彼女に限ってそんなことはないと思うけど、ウソ告とかじゃないよな!?
「あの、秋村くんは覚えているか分からないですけど……一年生のとき、私の話と悩みを聞いて頂いたときがきっかけなんです」
「ふぁっ!?」
俺は彼女からの言葉に驚きを隠せない。だってそれは、俺が春川さんのことが好きになったきっかけと同じだったから―――。
「た、確かにそれから『お悩み相談』をされるようになったから、春川さんとのことはよく覚えてるけど……」
「ほ、本当ですかっ!? ご、ごほん……じゃあ、あのとき秋村くんが私に言ってくれた言葉は覚えてますか?」
「俺が春川さんに言った言葉…………」
当時の記憶を急いで
あのとき、というのは十中八九教室で班同士になり彼女の悩みを聞いたときのことだろう。相談内容は一歳離れている春川さんの妹が自分にだけではなく、家族に対しても冷たくて言うことを訊かなくなったというもの。
俺は春川さんにもしかしたら"反抗期"なのではないかと伝えると、彼女はそれを薄々感づいていたみたいで、どう接したら良いのかわからないんですと思いつめた表情で相談された。
それに対し、俺はこう言ったのだ。
『いつも通りに話し掛ければ良いんじゃないかな? それで拒絶されても……家族なんだからさ、何度でも相手の目線に立って真摯に向き合えば、いつかきっと応えてくれる筈だよ』
話をしなかったら何も変わらない。むしろラノベでは良く話し合いをせず放置してしまった結果、関係が悪化してしまう展開なんてよくあった。
だからこそ俺はそんな事態を回避させるべくそのように伝えた。……今思えば、とてもありきたりな言葉だったけれど。
春川さんとの過去の出来事を思い出しつつ、俺は言葉短めに返事した。
「……うん、覚えてるよ」
「あの後、実際に妹と向かい合って直接お話をしました。始めこそ冷たい態度をとられてしまいましたが、秋村さんから言われたことを思い出して何度も挑戦して話し掛けた結果、現在では普通の姉妹らしい関係が築けているかなと思います」
「そっか、それは良かった……!」
「はい。全て秋村くんのおかげなんです。私が妹に向き合えたのも、私が正面からぶつかろうと思えたのも」
頬を染めながらも春川さんの真剣な眼差しが俺に注がれる。好きな人から真っ直ぐ見つめられた俺は思わずドキリとするも、その彼女の瞳から目をそらせなかった。
とても綺麗で、輝いていたから。
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