第4話 『聖女』からのお悩み相談。そして―――、




 『初恋』。それは誰しもが抱く甘酸っぱい思い出。そして俺の初恋は一年生の頃から同じクラスの、現在では『聖女』と呼ばれている春川さんだった。


 きっかけは単純。ラノベやウェブ小説のような何か彼女の秘密を見てしまったとか、ウソ告から始まる偽恋人を演じている内に―――などではなく、ただ彼女から話し掛けられただけ。話を聞いて、さらには家庭の悩みまでも聞いて、春川さんの笑顔を見ただけで俺は彼女のことを好きになってしまったのだ。


 それ以来、俺は彼女の姿ばかり目で追ってしまっている。





 そうして時は過ぎ放課後。茜色が差す高校の屋上には俺と『聖女』こと春川さんが向かい合っていた。…………のだけれど、彼女は何故か申し訳なさそうな表情をしていた。



「あの、今更ですが……秋村くんの貴重な時間をこのような形で頂いてしまってごめんなさい……」

「え、あぁ、全っ然大丈夫……! む、むしろ春川さんに頼られて嬉しいくらいだよ!?」

「そ、そうですか……?」



 春川さんは不安げに首を傾げるけどこればかりは本当の本当だ。


 一年のあの頃から好きだった春川さんと話せて内心滅茶苦茶テンション上がりまくってるし心臓もバクバクしてる。あーもう近くで見ると本当に綺麗だなぁ……。好きな女の子に頼られるだけでこんな幸せな気持ちになるのかぁ……!!


 因みにあの後、俺に相談したい事があると言った彼女は「屋上で待ってます!!」と脱兎の如くぴゅーっ、と自身の机に置いてあった教科書を掻っ攫って生物室に向かってしまった。


 それを見た俺は彼女の反応に呆然としてしまう。近くにいた浩太は「……ふーん」と言ってニヤニヤするだけだし、雪音さんに至ってはプルプル震えながら死にそうな顔をしていた。無表情だったけど。


 …………あっそうだ。春川さんの相談内容って恋愛相談かもしれないんだった……っ。やばい。それ思い出したら俺も死にそうになってきた……(涙目)。



「それで、相談したいことなのですが……」

「うん、春川さんの相談っていったい…………?」



 い、いや……、まだ微かな希望は残って―――ッ!!



「―――れっ、恋愛相談ですっ!!」

「がはっ……!?」



 そう言った春川さんは、恥ずかしそうに頬を染めながらもじもじと身体を揺らす。チラチラと上目遣いで俺を見つめてる彼女。そんな彼女の様子を間近で見た俺は可愛いと思いつつもショックを受けた。


 嫌な予感的中(吐血)。終わった……。希望はついえた……っ。



「じ、実は学校に好きな人がいて告白したいと思っているのですが、成功するかどうか不安で……」

「そっ、そそそそうなんだ……っ!? ち、ちちち因みに春川さんのお眼鏡にかなった男子はいったいどなたなのでせうか……?」



 一応覚悟していた事だけど、春川さんの恋愛相談への動揺を隠しきれない。餅付け……いや落ち着け俺っ。



「そ、それはその…………」

「もしかして……、俺の知ってる男子?」

「そっ、そうです……っ! クラスメイトで、秋村くんが毎日見ている人で間違いない、です……!」

「―――、……そっか」



 気の抜けた返事をしながら、俺はとある人物を思い出していた。高校入学時からの親友である―――浩太を。


 ……まぁアイツは入学した時からラノベや漫画が好きなこんな陰キャな俺の友達になってくれた良い奴だしなぁ。しかも俺とは正反対な陽キャだし。明るいし。イケメンだし……。


 そっか。…………そっかぁー。



「…………お似合いのカップル、か」

「ふぇっ!?」



 俺がぽつりと漏らした言葉が聞こえたのだろう、春川さんは素っ頓狂な声をあげながら両手で口元を覆った。顔も耳も、首筋までもがゆでだこのように赤く染まっている。

 ああもう可愛いかよ(語彙力崩壊)。


 でも、あぁ、やっぱり………初恋ってのは一種の病気だ。

 好きな人から好意を寄せる人物が居るって言われただけでこんなにも胸が痛い。


 俺は彼女へ返事を返す前に奥歯をぎゅっと噛みしめる。一旦軽く深呼吸をし、そうして俺は彼女に助言をするために口を開いた。



「それなら心配ないから安心しなよ春川さん。明るくて、優しくて、他人を気遣えるとても綺麗な春川さんなら絶対に告白が成功すること間違いなしだよ。……逆にその人が羨ましいくらいだ」

「! そ、そうですか……! えへへ……!」



 俺が普段参考にしているラノベや漫画のアドバイス術ではなく、自分の本当の気持ちを伝えた。


 瞳を輝かせながらはにかむ春川さん。わたわたと自らの艶やかな黒髪を手櫛てぐしで撫で付けるその様子は、正真正銘こいする乙女おとめ


 ……きっと、今後そういった表情は彼氏となった浩太にだけ見せるのだろう。正直、親友と云えども二人が立ち並ぶ姿を想像しただけで口の中が苦い。


 でも、俺は無理矢理にでも笑顔を作った。



「だから自信を持って春川さん! 春川さんの大好きって気持ちを全力で伝えれば、きっとその人は振り向いてくれるから……!!」

「秋村くん……! わかりました。私、これから頑張りますっ!!」



 さよなら、俺の儚い初恋。どうか親友とお幸せに―――。



「―――秋村くん、大好きです。私と付き合って下さい……!」

「……………………………え?」



 『聖女』こと春川さんは、そう言ってこちらへと手を差し出しながら目をギュッと瞑っていた。そんな彼女を見た俺は目を丸くする。




 ん、んんん? これは幻聴かな?












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